2024/06/13

電車に乗っておりました。
夜の女性専用車両でそこそこ空いており、私はロングシートの端っこに座って他人のいいね欄が表示されなくなったTwitter(現X)を眺めていたのです。

そうすると、何だか隣の端が騒がしくなりました。若い女性グループが何やら話しています。「ハチ?」「ハチじゃない」「カミキリ?」どうやら虫が入ってきたようです。

声のする方を見ると、女性グループの一人と目が合いました。
そのまま視線を動かすと、ちょうど私の隣45cmほど右隣に、親指くらいの体長の茶色い虫が留まっていました。
長い足と触角の特徴的な、カミキリムシか何なのか、ともかく噛んだりしなさそうで、あと気持ち悪くもなさそうな虫です。
動き回ってるわけでもないし、今更気づいて席を立つのもちょっと恥ずかしいので静観を決め込むことにしました。
「虫大丈夫な人なんだ……」女性グループの一人の呟きが耳に入ります。ちょっと恥ずかしい。

とはいえ私はともかく、彼女たちも虫が超苦手というわけではなさそうで、反対側に座って、やいのやいのと議論を始めました。

「カミキリムシっぽいよ」「正体がわかったらなんか可愛く見えてきた」「ほんまにカミキリムシ?」「Googleレンズ使えばわかるんちゃう?」「撮れた?」「揺れるねんなぁ」「これ大阪でいっぱい人乗ってきたら危ないんちゃうかなぁ」「ほんまや!気になるけど私大阪で降りるねん」
確かに。それは私も気になる。でも私も大阪で降りる。

チャーミングな人たちだなと思いながら、またぼんやりとしていると、新大阪を出たところで、にわかに彼女たちが慌てはじめました。「あ……!!」「あんまり動かないほうがいいよ……!!」
見ると、カミキリムシ(暫定)が少しずつこっちにやってきます。車内に走る緊張感。

どこかで止まるかな?と思いましたが、私のスカートに登ってきました。仕方ない。力加減に注意を払いながら、私はカミキリムシ(暫定)を右手でつまみ上げました。

女性たちにどよめきが走り、口々に呟くのが聞こえます。

「プリンセス………」「やさしい……」「プリンセスだ………」「よかった………」

プラスの響きだから、褒めてもらえてるのなら素直に嬉しい。ただ同じくらい恥ずかしい。
なぜならば私はこれからディズニーランドに向かう夜行バスに乗るところで、車中泊に備えてのドすっぴんをかろうじてマスクで隠している状態だからです。

人生で2番目くらいに長い新大阪〜大阪間を終え、開いたドアから私は小さな友人とともに下車しました。
「プリンセス……」見送りの呟きが聞こえます。

というわけで、ドすっぴん眉なし大荷物・カミキリ鷲掴みプリンセス爆誕の顛末でした。
ファンタジースプリングス入れてもらえますか?

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