女か竜かBL【Twitterタグ企画参加作品】
参加企画
#女か竜かBL
というタグで参加させていただきました。
二次創作になるのだろうな、といろいろ迷った末、noteに格納しようと。
女か竜か(本文)
この国では王が罪を決める。裁かれる者は二つの扉のうちどちらかを選択させられるという。
一方には女、もう一方に竜が待ち構えている。女は娶ることが出来、竜には食われるという運命である。この竜は何代も前の王がその兵力をもって捕らえたとされていた。それはこの国の力を示すものでもあった。
「え、ちょっと待って極端」
この国の王子と恋愛関係に発展したのが王の知るところになり、「けしからんの罪」に問われた美しい青年Kは、判決を言い渡した王の前で思わず言葉を発した。
軽々しい口調に、周囲の者はざわめく。
「なんと不敬な」
「今すぐ刑を執行せよ」
口々に漏れる不満の声に、王は目をすがめ周囲を無言で見渡した。しばらく沈黙し、口々に上がる声に耳を傾け、蓄えられた立派な顎髭を撫でてから再びKに視点を定める。
「ふむ……まあいろんな意見があるようだが。さてK。どちらの扉でも好きに選べ。どちらを選んでどのようなことが待っていようとも、それは運命だ」
「いやだからちょっと待って! ──王、私は何故『けしからんの罪』ですか? そんなわけのわからない罪で裁かれなきゃならんのですか」
「儂が『けしからん!』と思ったからである。それに異論を唱えることは、さらなる罪を重ねるのを意味する」
「はー……けしからんて。では恐れながらお伺いいたします王よ。もしかして王は、羨ましいのですか? 王も私と恋仲になりたかったと?」
「そうだ」
周囲のざわめきが一瞬大きくなり、止んだ。
王はなんの躊躇いもなく、本音をKに突きつけた。傍でこのやりとりを聞いていた、当事者の一人であるこの国の王子はぎょっと目を見開く。
「父上……!?」
「口を出すでない王子よ。これは裁きの場である」
「しかし……え、だって、ええ?」
混乱する王子は、思わずKの傍に駆け寄り、ぎゅっと抱き締めた。
「このKは! どのような罪であろうと僕の恋人です! 父上そんな色目で彼を見ていたのですか? 仮にも息子の、息子の恋人を……ハレンチな!」
「少し静まるのだ王子よ。そなたはこの国の世継ぎ。子を為す義務がある。それはわかるな」
王の穏やかに諭すような口調に、王子は押し黙る。それは王子もわかっていることであった。生まれた時から国の為に、次の王となる教育を受けてきた。次の世代へ血を繋ぐことの重要さを、誰よりも理解していた。
「……あの、親子で盛り上がってるところ恐縮です」
Kが呆れたように口を挟んだ。
「王が私と何をしたいのかは存じませんが、私は仔猫ちゃんではありませんよ? それでも良いのでしたら、お相手します。そんなわけのわからない刑を執行されるくらいならば……まあちょっと年食ってるけど……うん、大丈夫」
「K!?」
ちょっと年食っている、というには多少無理があった。王はKよりも随分と年齢を重ねている。少なくとも誰の目にもそう映った。
あっさりと王に進言したKに、王子は狼狽した様子を見せた。思わず抱き締めていた腕を解き、後ずさる。
しかしKは王子を気にすることもせず言い募った。
「ただ……こちらにいらっしゃる王子は私の可愛い仔猫ちゃんです。果たして子を為すことが出来るのか……まずそこが疑問点です」
「K! ちょっと黙……っ」
王子は真っ赤になって慌てている。一国の王子が、この美しい男に好きなようにされているという事実を、知られたくなかったのだろう。恋人という言葉では、どちらがどうなんてことはわからない。しかしKはどうでも良いことのように閨での王子との関係を淡々と暴いてゆく。こんなことを公言されては、王子の立場は危うい。
「──ほう、そうであったか。王子がのう……まあわからぬでもないが、子を為すことが出来ぬなら、そのような王子はいらぬよ。この意味がわかるか王子」
「父上……!!」
「わかるな?」
「……は、はい……」
自分自身の地位すら揺らぎかねないこの場において、王子は頷くことしか出来なかった。
「一度下した判決は覆らぬ。そして儂は仔猫ちゃんなどと言うものになるつもりはない。Kを『けしからんの罪』で刑に処す」
その罪状は変わらないのか……と、周囲の誰もが思っていたに違いない。
「では王子よ。そなたが扉を選んでやるが良い。いとしい男にあのような恥ずかしいことを言われ、はらわたが煮える思いであろう」
「……それは」
どちらの扉に何が待ち受けているのか、王子が前もって探っていたのをKは知っていた。散々恥をかかされたであろう王子がどのような選択をするだろう。しかしKにはわかっていた。きっと王子は女の扉は選ばないだろうと。何故ならこの王子は、他の誰かとハッピーエンドにするくらいなら、竜に食らわせる方がまだしもだと考えるはずだ。Kは複雑な感情を抱きながら、笑った。とりあえず念押しをしておこう。
「もういいや。変な国だな。王子、私は王子を愛していましたよ。それは事実です。だから──私を他の誰にも譲る気はない。そうでしょう? 私も見たこともない女性を選ぶ気はありません。気に病むことはありません。……ね?」
吐息をふうっと王子の耳の穴に甘く吹きかけたKは、優しく囁いた。王子がぞくぞくと身を震わせ、何かを我慢するような表情をした。この可愛らしい仕草をする王子を手放すのは正直勿体ないが仕方ない。Kはふと寂しく思ったが、すぐに気持ちを切り替えた。
王子が指し示したのは、左の扉だった。
「王子、私の二つ名を教えていませんでしたね。しかしもう必要のない情報です。ではまたどこかで」
Kは微笑んで、左の扉を開けた。
またどこかでなんて、本当に来るのかは知らなかった。
§
扉の向こうには果ての見えない回廊があり、壁には暗い炎を上げる燭台が延々と続いていた。ずっと歩いていくとやがて重厚な扉があった。
「さてここが本丸かな。やっと来れた」
金属が擦れる音が耳を刺激した。
待ち構えていたのは人を食らうという竜だった。口角を嬉しそうに上げ、目の前の巨躯を眺める。
「助けに来たよ。……だいぶ弱っているようだ。自力でここから出られないほどに」
「………………K……」
竜がか細い声を発した。恐ろしい響きの声だったが、確実に弱っている。
「無理に喋るな。今私の血を与えるからな……長いこと待たせて済まなかった。可哀想に、人食い竜などと汚名を着せられて。他に何も食うものを与えられないなら、それも仕方のないことだろうに」
竜に右腕を差し出し鋭い牙で肉を抉ると、流れ出た己の血を生温かい口の中に注ぐ。
「さあこれでおまえには本来の力が戻る。こんな国とはおさらばだ」
王子を籠絡すればいずれここに辿り着けるだろうと踏んでいた。わけのわからない刑を執行されて辿り着いたのは予想外だが、結果が同じなら経過などどうでも良かった。
大切な竜が行方知れずになって幾年月。世界中を探し回りやっと見つけた国には変な王がいて妙な慣習がまかり通っていた。竜を手に入れたことにより、幾分狂気に浸されたのだろう。この竜の瘴気は慣れない者にとっては毒にしかならない。
しばらくなりを潜めていた伝説の竜使いが、失われた竜を取り戻したという噂が流れたのは、それから数日後のことだった。
終
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