人魂屋3
⒊幸運
「はあっ、はあっ。」
私は天。夫が殺され、アパートから追い出されて、2日間。何も食べてない。
私の手の中には赤ちゃん。私の大切な子ども、安良。
雨の中を傘もささずに無我夢中で走っていると一個のテントを見つけた。
「オイデ」
私はそんな声が聞こえたような気がして中に入った。
「あらまあ大変!」
さっきと似たような声がして、声の主を探していると黒い浴衣の女の子を見つけた。
その子は黒い浴衣。今の時代にはあまり馴染まない服装だ。
だが私はそんなことも思わず女の子を見た。
女の子はタオルに着替えを貸してくれた。
そしてご飯まで。私は全て食べきってしまい、何か恥ずかしくなりながら、不思議な女の子を見た。女の子は安良に慣れた手つきでミルクをあげていた。
「ごめんね。なんか。」
「慣れてるから大丈夫。それより冷えてただろうに。しかしこの子は濡れていない。不思議だねえ……」
女の子はこちらを何もかも分かったような目で見て、短い間を開けてこう言った。
「あんたが守ったんでしょ。大切なわが子を雨から。」
安良と女の子を見比べて私は泣いてしまった。そして全てを女の子に打ち明けた。
この子ならなんとかできると思ったから。
「なるほど。不運の連鎖ってやつだね。断ち切ってやるよ。その代わり、そこのパウンドケーキと交換。まあ無償であげたい気持ちはやまやまなんだけどね……」
私は手作りでもう崩れかけていたパウンドケーキを見て、大きく息を吸い込んでから、女の子を見た。
女の子は不敵な笑みを浮かべていた。気がした。
私は渡した。信じられなかった。女の子が言っていることより、今の自分の行動が。
「はい。ちょっと待ってな」
そう言うと女の子は飴を取ってきた。棒に刺さったまあるい飴。女の子がため息のように息を吹きかけた。
すると金色に輝く炎が出てきた。
その炎を見た途端、私は思った。
これは私のためのものだ。いや、私のものになるべきものなんだ!
「はい。人魂飴『幸運味』。炎も一緒に食べな。熱くないから」
私は試しに炎だけ食べてみた。
なにこれ……私の大好きな高いチョコの味……
私は秒で食べきった後に、不安になって俯き気味にこう言った。
「私、どうなるんだろう」
最後の食料も失って、何もかもなくなった。
「ダイジョウブ……」
私がハッと顔をあげるとそこには、女の子もテントもなかった。
ただただ路地が広がっていた。
腕には安良がいた。
雨がやんで、フェンスについた雨粒が満月の光に照らされ、星のように輝いていた……
3年後……
私、天は今作家として働いている。
安良は3歳になって可愛い盛りだ。
あの飴は威力があって、
まずはシェアハウスが無料で貸してもらえて、
そのあと小説を書いたら売れた。
ミリオンセラーを達成した小説は『女の子』
あの女の子のこと、女の子のその後。
題名は『人魂屋』と迷ったけどあの子が気付いたらどうなるかな……と思ってやめた。
その子にあったことがあるという高校生にも出会った。
名前は確か穂乃花ちゃん。優しくて、可愛い女の子。
この子だけじゃなく、もう一人、
確か清水さん。会社の役員さんだって。
この人たちのことも小説に書いた。
最近は、毎日妄想しながら眠る。この小説の続きを。
あの日見た、フェンスについた雨粒が満月の光に照らされ、星のように輝いていた……そんな表現をいつ使おうか考えている。
6月19日
空野瀬天 28歳 夜明村でパウンドケーキと引き換えに人魂飴『幸運味』をもらった女
⒋浴衣の女の子
「この人は、どうなったかな」
私は鏡を見て、真っ赤な唇をあげて、笑った。
「……いい運命をたどってくれた」
私はある女性を見た。
3年前、幸運味を買った女性だ。
子供さんも可愛いし、いいねえ。私は皆の顔がいい笑顔になることを祈っていた。
私は毎回日付、名前、年齢、その人にあげた味を記録している。
ある人のように、優しく、不思議な女将になりたいから。
チリリン……
私にしか聞こえない鈴が鳴った。
テントに男の人が入ってきた。
「いらっしゃい……お兄さん、なんか不満があるんだろ?その不満、軽くしてあげるよ……」
私は接客を開始した。
もしかしたらあなたの前にも現れるかも。
直したい強い『悩み』があるならいつかきっと……