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このお母さんが凄い!2024大賞 山田杏奈

 『2024版 このお母さんが凄い!』の大賞が早くも決まってしまった。今年最もママみが強かったのは『僕の心のヤバイやつ』の山田杏奈だ。

 物語の主人公である市川は体育祭に向けて珍しく練習をするが、山田に見られてしまい恥ずかしさから「別に体育祭のためじゃない」と誤魔化してしまう。それが事実と違うことは彼女にはお見通しだ。内向的だった市川が学校行事にやる気を出しているのが嬉しくて気合を入れてお弁当を作る。沢山食べて成長する市川が見たいのでお弁当の量も尋常ではないのだ。こんなの母と息子そのものじゃん......。


 『僕の心のヤバイやつ』は「世の中なんてくだらねえ」と謳う中二病陰キャ少年市川がキラキラした陽キャ少女山田に恋する物語だ。市川は恋をする過程で学校やイベントの楽しさを発見していくわけだが、この作品が(ママ的に)凄いところは「成長する市川を見守る山田の視線」にある。 

 山田は市川が斜に構えていて学校で孤立していることも全て知っていながら、そこには何も触れず愛情をくれる。それどころか学校や人間関係に対して少しづつ前向きになっていく様を見て喜びを感じているのだ。山田は積極的に市川を更生プログラムにかけるわけでもなければ、この喜びを言葉にすることもない。人には見られたくないような恥ずかしい部分も受け入れてくれる。ただ成長を暖かく"見守る"視線というのは母の愛なのだ。

 これだけでもママみが強すぎるのだが、それは愛情のみにとどまるわけではない。

 市川は一度だけ山田を「どうせ陽キャは俺みたいな奴を内心バカにしてるんだ」と一方的な思い込みで拒絶してしまう。山田は理由がわからず自分の距離感が近かったから嫌われてるのだと勘違いをし泣いて謝る。結局市川は本心を話せず元鞘に収まるのだが、この出来事をきっかけに山田は少しだけ距離感をはかるようになり些細なことでも頻繁に謝るようになってしまう。

 これはまさに思春期の息子と母親の距離感ではないか。何故怒ってるのかわからない。心配しすぎても離れすぎてもダメで距離間をはかりあぐねてしまい、その結果として表出される「ごめんね」......。山田杏奈は光のママみも陰のママみも兼ね備えているのだ。そのあまりの生々しさに私は安易に「山田にオギャりて〜」と言うことが出来なくなってしまった。

 「バブみを感じてオギャリたい」は死語になりつつあるのはオタクが母の複雑さに気付いたからだ。我々はもう母から無償の愛を受け取るだけではいられず、親孝行の時代が来ているのである。

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