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『創作者』として泣いた日

 ――ある夜、涙が溢れてきた。

 少し前、自分の中でつらいことがあって、どうしたらいいだろうか――と想いを巡らせて、ふと、自分の脳内に、薫を登場させてみた。薫というのは、私の小説に出てくる男性キャラクターだ。薫は、とにかくやさしい心を持った人物で、きっと今の私の気持ちを誰よりも理解して、やさしく温かく抱きしめてくれるのではないかと思ったのだ。

 そうして、薫に抱きしめてもらい、彼の言葉を聴いていたら、とめどなく涙が溢れてきた。自分以外に誰もいない部屋で、私は泣いていた。ひとりだったけれど、私はひとりじゃなかった。

 そうして、気づいた。そうか。私はやっぱり、小説に助けられて生きているんだ、と。

 薫以外にも、私の脳内には、たくさんの人物がいて、彼らは去年、ひとりきりで孤独を噛み締めていた私の脳内に登場して『小説執筆』という新たな私の生きがいを生み出してくれた。去年、一番辛かった時期を、支えてくれたのは間違いなく彼らだった。彼らの物語を紡いでいる時間だけは、無我夢中になれて、しんどい気持ちを忘れられた。

 こうして脳内の人物に頼るのは、現実世界で私が、他人に頼ることよりも、抱え込んで、自己完結させてしまう人物だからというのも少なからず、ある。

 もちろん、薫も、青木ゆうも、由貴も――私の小説に登場する人物は、現実には存在しない。だけれども、たしかに私の身体の中には、彼らの命が宿っていて、ときに優しく、ときに強引に――私という人間を引っ張ってくれる。

 彼らの命は、私の中でしか生きていない。だから、私は何より私自身が彼らというひとりの人間、その存在と命を、大切にしてあげたい――と心の底から思ったし、せっかく宿った彼らの命を、現実世界で形あるものに残していくのも、また、私の使命なのかもしれない、と思った。

 どうか、待っててほしい――と、私は彼らにお願いする。彼らに関して、まだまだ、紡ぎたい物語がたくさんある。今はまた別のお話の執筆につきっきりだけれど、いつか必ずあなたたちを、迎えに行くからね。

 由貴、薫、拓海、理久、洸太、星也、藍子、蒼、美来、そして、青木ゆう――みんな、みんな、私の中に、生まれてきてくれて、ありがとう。

 ふと、そんな、気持ちが溢れてきて、私の目からは、ぽろぽろと、涙が溢れだした。こんなことは、初めてだった。創作者として、こんな風に気持ちがあふれてくるのは、初めてだった。

 ――生まれてきてくれて、ありがとう。

 あなたたちと出会えて、会話ができて、感情を知れて、あなたたちの人生を、誰よりも近くで見つめることができて、私は世界一の幸せ者です。

 これから、私も、あなたたちの人生も、色々あるけれど、どうか一緒に、一緒に――生きていこうね。手と手を取り合って、ゆっくりでいいから、明るい方向へと、歩いていこうね。

 数ある星の中で――わたしのもとに、生まれてきてくれて、ありがとう。大好きだよ。

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