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ひりひりの、もと

2019.10.22

日が暮れて鴨川を眺めていたら、
ピイとなにかが鳴きました。
暗くてあんまり見えなかった。
川を流れる小さな水鳥が鳴いたようでした。
ピイ。
ピイ。

ここのとこなんだかむつかしいかんじなのは、
ケーキ屋さんのショーケースを眺めているときのようなほわほわした憧れが、やけどの傷のようなひりひりした憧れに生まれ変わっていっているからです。
ああすてきだねえ、きらきらだねえ。
から
ひりひりといつまでも痛む、瘡蓋も、うまくできてくれないあの傷。

そうだなあ、わたし恋ってある意味所有欲の発露、みたいなとこがあるとおもうんですけども、そんな種類の。
手に入れたいと願ってしまったというか
あ、手が届くかもしれない、と予感してしまったときのあの痛み。

憧れは遠く、尊く、ケースの中で煌めいているもの。
それに欲を抱いてしまった、後ろめたさと堪えきれない衝動と、
おれがおまえをしあわせにするから、そばにいてくれなんて、どの口が、なんて思ってたクチなんですが、その気持ちがわかっちゃったの。

アッ例え話ですよ。
ほんとの恋の話じゃないよ。
つくる、の話。

作家として生きていく上での途方もない人生の、ああここに、ここまでの意識にわたしはわたしを育てたいと、そういうわたしのそばで生きたいと、思ったひりひり。
そんなの叶うわけねえじゃん、て思ってたんだけど、もしかしたら届くかもしれないって、いや届かせたいと思ったの。
だからむつかしいんだけど、いいことなのよう。
泣くほどの憧れ、そこにいきたい。辿り着きたい。そのために生を使いたい。

歩みは牛歩で、立ち止まって泣いてることもしょっちゅうで、だから時間がかかるだろう。
時間がかかってもいいから、いきたい。
それは生きるに対する、前進です。
目標ができてしまったんだ。
いついのちがなくなるかもわかんないのに望んでしまった。
諦めきれない衝動ってほんとうに、やけどだ。

幼なじみが持っていた首飾りを、お守りのようにずっとつけているのです。
泣き虫だから、心臓の近くにぶら下げて、拠り所にしていたの。
くくくくくるしい、はたくさんあるけど、首飾りに甘えてこらえられたこと数えきれない。
装身具ってほんとうに、そういうものだと思うんです。
やわくてよわいところを守るための鎧。
いつまでたってもりょうに甘えてひとりで立てないのなんてかっこわるいや。
わたしはわたしで立って、笑ってあのこにもういちど会おう。

憧れのひとの、展示会が東京であります。
それ目当てに組んだ日程ではなかったんだけど、この気持ちの切り替えどきにかちあってくれた。
わたしはわたしのために彼の作った装身具を手に入れよう。
幼なじみに笑って首飾りを返すんだ。
それで、憧れのひとのお店にゆくんだ。
この一年が、それでしめられたら最高だな。

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