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秋の夜長のとくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘

「そろそろ次の街だけど、本当にこんなところ寄っていくのか?」
雲ひとつ無い空が高い、晴れた秋の街道を歩く三人組。先頭を歩くのは、胸にサラシを巻いて竹の軽鎧に身を包む、ギザギザ歯で長身のバンブーエルフ、メンマだ。

「寄ってく寄ってく!だって、古代マンホールエルフの遺跡だよ!?」
メンマの後ろに続くのは、ボサボサの金髪に簡素な貫頭衣でニコニコ笑う、クソバカエルフのハカセ。クソバカエルフなんて名前だが、別名”森の賢者”とも呼ばれる、知的好奇心旺盛なエルフだ。

「ポテチはポテトが収穫できれば文句ないゆ」
最後尾を歩くのは、ミスリル銀の保管箱を背負う、ズングリとしたポテサラエルフのポテチ。顎の力が弱く舌っ足らずで、ポテトサラダを主食とするエルフだ。

「まあ、ハカセとポテチがそう言うんだったら、仕方ねえな」
小難しいことが苦手なメンマは、遺跡にはあまり興味がなかった。しかし、時には苦手なことや興味が無いことに挑戦するというのも、エルフ旅の重要な目的だ。

ヒューマンならざる旅エルフの三人は、エルフがヒューマンの良き隣人であることを知らしめるために旅をする。ゆく先々でヒューマンを助けることでお互いを知り、エルフの森焼きを防ぐという大役があるのだ。もちろん、時には困難な事件に立ち向かわなければならない。

「よしよし!それじゃー元気に行ってみよー!」
いつの間にか先頭に立っていたハカセが、街の方向を指さして元気に歩く。こうして三人は遺跡の街に向かったのであった。


一方その頃、時と場所と"時空"が変わり……。

(こちら側の時空のあらすじ:原子力江戸歴XXXX年。先の原子力奉行、吉貝狂四郎は不慮の事故によって命を落とす。だが、時の平賀アトミック源内と杉田バイオ玄白の手によって体内に小型原子炉を埋め込まれて息を吹き返す。かくして、夜な夜な世が裁けぬ悪を裁く発狂頭巾アトミックとなったのだ。)

「源内先生、今日は一体何が?」
原子力江戸城地下奥深くの研究室。青いの核御紋が淡く光るフスマを開けて、同心の吉貝と、相棒のハチが入室する。
「うむ、二人に急ぎ、頼みたいことがあってのう」
二人を出迎えるのは、白髪メガネのジジイ、アトミック奉行の平賀アトミック源内だ。

「お主ら、伊能ワンダリング忠敬は知っておるだろう」
平賀アトミック源内の問に、吉貝は黙ってうなずく。
「ええと、そのう、どなたでしたっけ?」
ハチは覚えがないのか、申し訳無さそうに問い返す。

「ハハハ。ハチよ、お主も同心の端くれ。政(まつりごと)に係わる奉行くらい、覚えてもらわねば困るぞ」
吉貝は一言釘を差し、更に説明を続ける。
「アトミック日ノ本では、バイオ生物やアトミック影響で頻繁に土地の危険度が変わるのは知っておるだろう」
「へえ」

「そこで常に各地を放浪し、土地の変化を記録に届けるのが放浪奉行、伊能ワンダリング忠敬先生というわけだ」
「へぇ。しかし、諸国漫遊が仕事ってのは、羨ましいもんですね」
ハチは気楽そうに返事をする。
「いや、そのような気楽な旅ではないぞ」
「ってぇ言いますと?」

「放浪奉行の赴く先は人里ばかりではない。未開の森林や断崖絶壁の海岸、バイオ生物の住む危険地帯。そのような場所も放浪するのだ」
「そりゃあ、大変なお仕事じゃないですか!」
「うむ。強くなければ務まらぬ仕事よ」
「そりゃあご立派だ!」
吉貝の話を聞き、ハチは感心した。

「ガハハ、ハチの勉強になったところで本題じゃが……」
平賀アトミック源内は一呼吸置き、場の空気を引き締め直して続ける。
「伊能ワンダリング忠敬は今日、原子力江戸に返ってくる予定だったのだ。しかし、生体反応が途絶えたのじゃ」
平賀アトミック源内は原子力演算器を操作し、画面に地図を映す。

反応が消えた場所は、山奥の古い神社だ。とはいえ、原子力江戸から歩いて半日程度。危険なバイオ生物が出る場所ではない。
「で、でも、伊能先生もお強いんでしょう?まさかその辺りのバイオ生物にやられちまったなんてことは……」
怯えるハチ。

「イヤァ、そうとも限らないんだよネェ」
いつの間にか三人の後ろに立っていた、バイオ奉行の杉田バイオ玄白が話す。
「何日か前に、獣頭の人斬り浪人を見たっていう情報があってネェ……」
彼女は四本の腕で、原子力タブレットを二つ同時に操作しながら説明する。

「獣頭の人斬りですって!?旦那、もしかしたら……」
「うむ。急がねばなるまい。杉田先生、その獣頭の人斬りの人相は?」
「残念だけど、まだ無いンだよ。だけど、犬や猫みたく、耳は尖ってるんじゃないかね」
「なるほど。心得た」

「よし、行くぞ、ハチ!」
「ヘイ!」
吉貝とハチは、平賀アトミック源内と杉田バイオ玄白に見送られ、早速現場に向かった。

……それから半日ほど経過し、吉貝とハチは現場の神社に到着した。
「いやに霧が濃いですねえ……」
「もう秋だというのに、なにかおかしい。ハチ、十分に気をつけろよ」
「へい……」
二人は周囲を警戒しながら、神社周辺を探索する。しかし、その警戒が逆に仇となり、足元の異変に気づけなかった。

「ぬ!」
吉貝が足を踏み外し、古井戸に落ちそうになる!
「旦那ァ!」
即座に気づいたハチは、とっさに吉貝の腕を掴む!だが、すでに時遅し。大柄な吉貝の体重は、ハチにとっては重すぎた。
「うわあああ!」
ハチは吉貝と共に転落!

……落下からどれくらいの時間がたっただろうか。吉貝とハチは目を覚ます。
「痛てて……。旦那、大丈夫ですかい?」
「大事無い」
吉貝は何事もなかったかのように起き上がると、壁を見る。
「おお、ちょうどよい所に、ハシゴがあるではないか」

「あ、本当だ!とりあえず登りやしょう!」
ハチはひょいひょいとハシゴを登り、古井戸の外に出る。だが……。
「うわあああああ!」
ハチの悲鳴!
「どうした!ハチ!」
「お、鬼があああ!」

「なんだと!?」
ハチの悲鳴に危機を感じた吉貝は、人間離れした跳躍力で古井戸の外に飛び出した!
「むう……!」
目の前には、頭に角を生やした二足歩行の生物が数匹。しかも、明らかに二人に殺意を向けているではないか!

「異形の人斬りとは貴様らのことか!」
吉貝は抜刀!即座に鬼に斬りかかる!
「グオオオ!」
鬼は棍棒で応戦!

「あれ……」
一歩引いたところで吉貝の戦いを見ていたハチは気がついた。
「ここ、どこなんだ……?」


秋の夜長のとくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘

エルフ三人娘
    VS
   発狂頭巾アトミック

人斬り魔獣の恐怖!】

……視点はエルフ三人娘に戻って、時刻は夕方。遺跡の街についたメンマ達は、遺跡調査団と話していた。
「実は、数日前から遺跡調査を中断してまして……」
「遺跡見れないの?」
遺跡調査団の言葉に驚くハカセ。
「はい。今は残念ながら」
しかし、ハカセは残念に思ってはいなかった。

「メンマ、ポテチ、やっちゃおう!」
ハカセは元気な声でメンマとポテチに同意を求める。
「待て待て待て待て!どういうことだよ?」
「もうちょっと説明してほしいゆ」
二人は困惑する。クソバカエルフの叡智は凄まじく、通常ならば経由する過程をすっ飛ばし、結果だけが言葉になることも少なくない。

「えっとねー、遺跡にモンスターが出て調査を中断してるから、やっつけちゃえばいいんだよ」
ハカセの言葉を聞いた遺跡調査員が、補足説明に出る。
「そ、そうなのです!実は、数日前からオーガの群れが遺跡を占拠しているのです」

「なるほどな。そういうことなら、アタイらに任せな!」
モンスターをやっつければいいと分かったメンマは、ニヤリと笑う。
「んゆ。ポテチ達は旅エルフだゆ。そういゆのは、任せてほしいゆ」
ホテチも胸を張ってアピールする。

「おお!ありがとうございます!」
遺跡調査員達は安堵しながら感謝する。
「ん?でも、ちょっと気になるんだが、オーガ達は街には来てないんだよな?」
メンマの疑問は最もだ。オーガはモンスターの中でも人語を理解するほどの知能がある。遺跡周辺に発生したら、街も襲うはすだが……。

「はい。我々もそれは不思議に思っているところです。原因は不明ですが、街は今のところ平和なのが事実です」
「ま、そうだな。細かいことは気にせずに、今夜にでもさっさと倒してくるぜ!」
「んゆ!」
「やっちゃおー!」

ヒューマンにとっては驚異となるオーガでも、エルフ達にとっては倒せる相手だ。しかも、メンマ達はそれなりに長い間一緒に旅をしてきた旅エルフで、コンビネーションも抜群だ。そう考えた三人は、意気揚々と遺跡に向かった。

……遺跡についたのは、日が沈みかけた夕暮れだった。
「地図によると遺跡の入り口は……あった!ここか!」
メンマ達は遺跡調査員からもらった地図を頼りに、遺跡の入り口たどり着いた。
「なんていゆか、こう……丸いゆね……」
遺跡の入り口は土壁に掘られた洞窟だが、メンマの言う通り、丸い。

「材質もなんだこりゃ?レンガじゃねーし、石でもねえ。……ミスリル銀でもねえしな……」
メンマは、遺跡入口から奥に続く通路を見る。レンガのようなつなぎ目が無く、石で作ったにしてはきれいすぎる。そして、金属のような光沢もない。

「こんな土、見たことないゆ」
ポテチも遺跡の材質に疑問を抱く。しかし、ハカセはその材質も見抜いていた。
「……コンクリートだ!」
「「コンクリート?」」

「古代マンホールエルフ建設で使われた失われた建材!コンクリートだよ!うわあ!本物だあ!」
ハカセは目をキラキラさせながら、遺跡の壁を触りまくる。知的好奇心旺盛なクソバカエルフにとって、未知の物体を直に触れることほど、心高鳴る瞬間はなかなか無い。

「まあ、とにかく、ここが古代マンホールエルフの遺跡だってことは、間違いないんだな?」
「うんうん!…っは!もしかして!」
興奮冷めやらぬハカセは、遺跡入口周辺を手探りで探し、なにかの制御装置を見つけ出した。
「あった!これをこうして……それ!」

ハカセがスイッチを入れると、遺跡内部に薄暗い光が灯る(※読者諸氏にとって、この光景は見慣れたものかもしれない。人が通れるほどのトンネルに、ライトが灯ったようなものだ)。

「「おお!!」」
メンマとポテチは突然の光に驚く!
「さあ、行くよ!」
ハカセはワクワクからか、警戒せずにどんどん奥に進んでいく。
「アタイたちも行くぞ!」
「置いてくなゆ!」
メンマとポテチも、続いて奥に向かっていく。


目につく鬼をひとしきり切り倒した吉貝は、体内原子炉のエネルギー温存のために瞑想していた。
「(探索を任せてしまったが、ハチは無事だろうか……)」
瞑想が必要な吉貝に代わり、ハチは見ず知らずの土地で人里を探しに行っていた。

吉貝もハチも、ここが原子力江戸ではないことは理性で理解していた(本能は拒絶しようとしたが、かろうじて理性が勝った)。とにかく話が通じる人に出会い、情報を集めなければならない。もしかしたら、伊能ワンダリング忠敬も、この世界に放浪してきている可能性があるのだ。

「……む!」
瞑想(スリープモード)に入っていた吉貝が起動する。近づいてくる気配を感じたのだ。
(三人、新手の鬼か?)
吉貝は立ち上がり抜刀の構えを取る。
(いつでも来るが良い)
もはや鬼退治に余裕すら感じていた吉貝。だが、目の前に現れたのは、予想外の三人だった。

「ぬ!!」
吉貝は目の前に現れた三人を見て驚愕する。明らかに、先程までに切り倒しまくった鬼ではない。だが、明らかに敵だということは分かった。
「その耳、キサマらが、獣頭の人斬りだな!!」
吉貝は、三人の尖った耳を見て、問答無用で切りかる!

「■○▲×!!」
獣耳一匹目は、吉貝には理解できない言語を発しながら、竹光で吉貝の刀を受け止める!
「おのれ!竹光とは!武士を愚弄するか!」
吉貝は容赦なく竹光に斬撃を叩き込む!


「ええい!なんだコイツは!?」
メンマは謎の剣士の斬撃を受け止めながら困惑する。
「■○▲×!!」
謎の剣士は、メンマには理解できない言語を発しながら、容赦なく斬撃を叩き込んでくる!

「ぬおおお!負けてたまるかあ!」
謎の剣士の斬撃をバンブーブレードで受け続けるメンマ!だが、謎の剣士の連撃が強く、徐々に押されてしまう!
「くそ!強い……あ!」
ついにメンマのバンブーブレードが折れる!


「■○▲×!!」
獣耳一匹目は、吉貝には理解できない言語を発しながら、竹光で吉貝の刀を受け止め続ける!しかし、吉貝は連打を止めない!
「■○▲×!!」
獣耳が何かを言ったと同時に、吉貝の斬撃が獣耳の竹光をへし折った!

「■○▲×……」
獣耳一匹目は繊維を喪失したように見える。しかし、まだ獣耳は二匹いる。それらに斬りかかろうとしたその時だ。
(……ぬう!鬼がまだいたか!)
吉貝の体内原子炉が鬼の気配を感知!
「ハチが危ない!!」
眼の前の獣耳よりもハチの身を案じ、その場を駆け抜けた!


バンブーブレードを折られたメンマは、その力量差に衝撃を受けた。
「アタイの剣が破れるなんて……」
メンマの気が緩む。その一瞬のスキに、謎の剣士は走り出す。
(まずい!ハカセとポテチが!)
だが、メンマの心配は杞憂に終わり、謎の剣士は遺跡の外に向かっていった。

「ハカセ、ポテチ、すまねえ……」
「気にしないでほしいゆ。ポテチも、地面が固くてサポートできなかったゆ」
ポテサラエルフは大地を媒体とする魔法を使うが、特殊な素材で覆われたこの遺跡内では、魔法が使えなかったのだ。

「メンマはいつもどおり、がんばったよ」
ハカセもメンマを慰める。クソバカエルフは魔力の繊細なコントロールが苦手で、狭い室内では味方を巻きこんでしまう。それ故に、手出しができなかったのだ。

「とりあえず、街に戻るか……」
「うゆ……」
「そーだね……」
あまりにも想定外の敵。三人はひとまず作戦会議のため、街に戻ることにした。


「キエエエエエエエエエエ!!」
吉貝の叫声一閃!ハチに襲いかかろうとしていた鬼を真っ二つにぶった切る。
「た、助かりやした!」
「怪我はないか?」
「へえ!逃げ足だけは速いんで!」
ハチは、吉貝の不安を吹き飛ばそうと笑顔で答える。

「それはそうと旦那!峠を登ったら街が見えたんですよ!もう真夜中になっちまいますが、行ってみませんか?」
「おお!でかしたぞハチ!早速向かおうではないか!」
あまりにも想定外の出来事。吉貝とハチはひとまず情報収集のために、街に向かうことにした。


「……そんなわけで、オーガ以外にもモンスターがいたんだ」
「なんと……」
メンマは、遺跡での出来事を一通り説明した。オーガは死体のみが転がっていたこと。そして、オーガより強い、謎の言語を話すモンスターが現れたという事実を。

遺跡調査団は一同落胆したが、ふと、一人が何かを思い出した。
「あの、謎の言語を話すモンスターについて、確認したいことがありまして……場所を移動してもよろしいでしょうか?」
「ん?ああ」
「問題ないゆ」
「いいよー」
三人は快諾し、場所を移す。

……三人は、ベッドで体を休めている男の元へ案内された。
「もしかしたら、彼の言葉が手がかりになるかもしれません」
遺跡調査員はそう言うと、ベッドの男になにか話すよう訴える。
「■○▲×……」
男はなにか言葉を発するが、誰の聞き覚えもない言葉であった。……ただ一人を除いては。

「『ココハ……ドコダ……』かな?」
ハカセはそう言うと、更に男と会話を続けた。
「■○▲×?」
「■○▲×!」
「■○▲×」
「■○▲×?」


「ココハ、ドコダ?」
「そ、そうだ!ここは何処なんだ!」
「ココハ、イセカイ、ダヨ」
「異世界!?」
男は、原子力江戸からこの世界にやってきて、ようやく会話ができる相手が見つかったことが、心底嬉しかった。言葉の内容など、二の次であった(それはそうと、異世界という言葉には驚いた)。


「ハカセ、何を話してるんだゆ?」
不思議言語での会話にたまらなくなったポテチが割り込んだ。
「えっとね、この人、異世界の人なんだって」
「「異世界!?」」
メンマとポテチは驚く。
「ホントかよ!?異世界なんて、大昔の伝説の話だろ!?」

「うん。だけど、遺跡だよ」
「遺跡……んゆ!!」
ハカセの言葉に、ポテチは察した。
「つまり、古代マンホールエルフ遺跡は、異世界に繋がってたってことゆね?」
「そーいうこと!」
「……あー、はいはい。なるほどな」
どうやら、メンマも状況を理解したらしい。

古代マンホールエルフは、"マンホール"と呼ばれる転送門を司るエルフだった。時として、その転送門は距離のみならず、空間ですら超越してしまうことがあった。つまるところ、異世界ゲートである。

異世界ゲートは、双方の物質を行き来させる。最初は人々の往来程度であったが、いつしか歯止めが効かなくなってしまった。モンスターやマジックアイテム、科学や技術といった、世界の根源を揺るがす概念ですら、異世界に移動するようになってしまった。

このままでは古代マンホールエルフの世界はおろか、他の世界にも滅びを招く可能性がある。そう判断した古代マンホールエルフの長は、"マンホール"の魔法技術を封印したのだ。

しかし、封印は絶対ではない。今回のように、不意に異世界につながることもある。それにより、異界の剣士がこちらの世界にやってくることも、あり得る事態なのだ。

三人と遺跡調査員はおおよそのことを理解した。しかし、どうすればいいかというと、難しい。
「マンホールを閉じることはできるのでしょうか?」
遺跡調査員が問う。
「えーっとね……」
ハカセが答えようとした、その時だ。

「■○▲×!」
街の入り口から、奇妙な声が聞こえてくる。それは、メンマにも聞き覚えのある声であった。
「あいつら!来やがった!」
エルフ三人娘はそれぞれに警戒する。

「ポテチ!ハカセ!援護は頼んだ!」
「今度は任せて欲しいゆ!」
「いってみよー!」
三人はやる気満々で町の入口に向かう。


吉貝とハチは街にたどりつていた。だが、全く言葉が通じない。
「どなたか!俺の言葉を理解できるものはおらぬか!」
吉貝が大声を出すが、返事は皆無。……否、言葉の返事は無かったが、態度の返事はあった。吉貝の間に現れたのは、獣耳の三人だ。

「なるほど、ここは悪鬼の集落であったか……」
吉貝は刀を抜こうとする。だが、その時だ!

「待つでござる!」
街の一角から現れた人物の声が、吉貝とハチの心に響く。
「その方、原子力江戸の侍でござろう!」
吉貝とハチにとって、この世界に来てから理解できる言葉を発する人間に出会ったのは、初めてであった。
「も、もしかして……」
ハチは震えながら続ける。
「伊能ワンダリング忠敬!」

「うむ。拙者、伊能ワンダリング忠敬と申す流浪人でござるよ」
原子力江戸の侍装束に身を包んだ伊能ワンダリング忠敬は、包み隠さず堂々と答えた。

伊能ワンダリング忠敬はゆるりと歩くと、吉貝の刀に触れる。
「彼らは拙者の命の恩人にござるゆえ、刀を納めてもらいたい」
「……そういうことならば」
吉貝は刀を納める。
「な、何がどうなってるんですか……」
ハチは状況を飲めず、しどろもどろだ。

「さて、まずは言葉が通じないというのが厄介でござるが……」
伊能ワンダリング忠敬はハカセを見て手招きする。
「ご協力、願えますかな?■○▲×?」


「■○▲×!」
「■○▲×……」
「■○▲×!」
「■○▲×!」
「■○▲×……」
「■○▲×!」
「■○▲×」
「■○▲×」
「……■○▲×」
「■○▲×……」
メンマ達は、意味不明な言語のやり取りを観察してた。だが、少なくとも、彼らに敵意がないことは雰囲気から理解でした。

相手の言葉は理解できない。そう考えていたからこそ、次の言葉には、全員に衝撃が走った。
「■○▲×?ご協力、願えますかな?」

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「あー、あー。えっと、聞こえていやすか?」
「おう!バッチリ聞こえるぜ!」
心配そうなハチの声に、メンマが堂々と答える。
「やったー!成功!成功!」
ハカセがぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
「うまくいって良かったです。」
伊能ワンダリング忠敬も安心する。

ハカセは持ち前の頭脳で吉貝たちの言語をある程度理解できていた。そして、伊能ワンダリング忠敬は、各国を旅することで独自の言語学を身に着けていた。その知識をベースに、ハカセと伊能ワンダリング忠敬は、魔法とアトミックをかけ合わせ、即興の翻訳装置を作り上げたのだ!

……原子力江戸三人衆と旅エルフ三人組は、それぞれの立場や目的を話し合った。その結果、導き出された答えは一つだった。

「アタイらは遺跡調査の再開のため、オーガの親分を倒したい。そんで、ダンナは獣頭の人斬りを倒して元の世界に帰りたいってことだな?」
「うむ。話が早くて助かる」
メンマと吉貝は、お互いに竹を割ったような性格なのか、妙に話が合う。

「そーだよ!悪いやつをやっつちゃえば解決だよー!」
「まったくその通りで!アッシも頑張りやす!」
ハカセとハチは、お互いに表向きはお気楽な性格なのが影響し、妙に話が合う。

「まだ気なることはござるが……」
「今は気にしても仕方ないゆ。飲むゆ」
「そうでござるな!」
伊能ワンダリング忠敬とポテチは、用心しながらも用心しすぎない性格で、妙に話が合った。

……その夜の宴は朝まで続いた。モンスターが居るのに朝まで宴?と思われるかもしれないが、問題ない。獣耳の人型モンスターが動くなら夜。故に、朝から昼過ぎまで寝て、夜に本格始動する算段だ。

昼過ぎ時、ポテチは畑から這い出す。
「今日もうまくいったゆ」
ポテチは自身の魔力を大地と循環することで、ポテトを急速成長させることができる(ポテサラエルフ魔法の一つ)。焚き火と鍋を用意し、たわわに実ったポテトを収穫しては、次々と鍋に投げ込んでいく。

ポテサラエルフにとって、ポテサラは主食であり、同時に魔力でもある。
「ポテト♪茹でゆ♪潰して♪ポテサラ♪」
ポテチは歌を歌いながらポテサラを作る。そして、山盛りのポテサラをモリモリ食べていく。

……時刻は流れて夕暮れ時。街から遺跡に向かう道を、六人が歩いていた。
「オーガなんて一網打尽だぜ!」
メンマは笑う。
「やっつけゆ」
ポテサラをお腹いっぱい食べてぷよぷよになったポテチが意気込む。
「遺跡を守るぞー!」
ハカセもやる気満々だ。

「とにかく帰って、拙者の放浪記を原子力江戸の皆に伝えるでござるよ」
伊能ワンダリング忠敬は気合を入れる。
「ア、アッシだって、やるときは、や、やりますぜ!」
ハチは武者震い(自称)が止まらない。
「斬るべき敵を、斬るだけよ」
吉貝の目は、何処か遠くを見ていた。

……オーガ達のアジトはおおよそ見当がついていたが、念のため二つのルートで分かれて進んだ。待ち伏せで一網打尽されてしまっては元も子もない。

……メンマ、ポテチ、ハカセの三人は、魔力を追跡してオーガ達のアジトにたどり着き、敵の様子を伺っていた。
「よーし、さっさ決着つけてやるぜ……」
バンブースピアを構えるメンマ。だが、ポテチが異変に気づいた。

「あれ、ハチだゆ!」
ポテチの声にメンマは目を凝らす。
「なに!?」
よく見ると。オーガ達がいる大広間の奥に、檻に入れられたハチが見える。
「くそ!人質かよ!」
「でもでも!吉貝さんと伊能さんがいないよ!」
焦るメンマをハカセが抑えるだ。

「多分隠れてて、スキを見せたところで、一気に攻め込もむつもりなんだゆ」
ポテチも吉貝たちの行動を予想する。おそらく、メンマ達が後から来ることを想定しての作戦なのだろう。
「確かに……。よし、それなら、こっちでスキを作ってやろうじゃねえか」
メンマはバンブースピアを構えると、オーガ軍団に投擲!

「グガァッ!」
メンマのバンブースピアがオーガに命中!だが、致命傷には遠く及ばない。それどころか、アジトに住む全てのオーガの注目を浴びる!
「ほう……きさまがオレたちの邪魔をするエルフか」
オーガ達よりも更に大きいキングオーガがメンマの前に立ちふさがる!

(キングオーガだと!?聞いてねえぞ!)
メンマは予想外の相手に内心驚く。だが、それを顔に出すような軟弱な戦士ではない!
「ハッ!モンスターをやっつけるのが、アタイたちの生き様なんでねえ!」
メンマは手持ちのバンブーからバンブーランスを生成し、キングオーガを挑発する。

「グフフ、その意気や良しと言いたいところだが、オレには部下が居るんだよぉ!」
「ゆ……?」
「来い!ワーウルフ!」
キングオーガが叫ぶと同時に、恐るべき咆哮が空間を支配した!
ウォオオオオオオオン!!

ああ、見上げる夜空には雲ひとつ無く、輝く月は妙なる真円。これほどまで、ワーウルフの能力が発揮される刻があるだろうか!

キングオーガに呼び寄せられたソレは、狼の姿で刀を持つ、まさに、"獣頭の人斬り"であった。

「ルォオオオオオオン!」
ワーウルフが吠える!
「グハハ!こいつは異世界で人斬りをしてきた歴戦のワーウルフよ!オレが手なづけてやったのさ!エルフとはいえ、満月のワーウルフには勝てまい!」

「ぐっ……」
「んゆ……」
メンマとポテチは、ワーウルフの気迫に押されている。ああ、エルフ三人娘の旅路もここまでか!?
「まだだよ!!」

「え……?」
「どういうことだゆ……?」
勝利を諦めていないハカセに、メンマとポテチは疑問を投げる。
「だって!まだ伊能さんたちは諦めてないもん!」

ハカセの言う通り、まだ伊能ワンダリング忠敬たちは来ていない。……だが、来る保証もない。もしかしたらキングオーガの手下にやられているかもしれないのだ。

「どうやら、お前たちにまだ仲間がいるようだなぁ?グフフ……グファファ!無駄よ!無駄無駄!」
キングオーガが笑う。
「どういうことだゆ!?」
「伏兵には、我がペットの魔牛を仕向けたのよ!」

魔牛!それは魔物の中でも知性は低いが力が強く、高知能魔獣に飼育されることもある存在だ。無論、一般的にヒューマンが飼育する牛よりも圧倒的に強い。個体差はあるが。エルフでも数人かかりで相手にしなければならない魔獣だ。

「異界の剣士だかなんだか知らんが、圧倒的な力の前には無力だということを、教えてくれるわ!」
キングオーガが笑うと同時に、四足獣の足音が聞こえてきた。
「ほうれ!もうすぐ魔牛が帰ってくるわ!」
キングオーガが勝利を確信した、その時だ!

「バモオオオオオ!!!!」
角に松明を縛り付けられた魔牛が、キングオーガに突撃!!
「な、あにぃいい!?」
キングオーガ狼狽!
「こいつを手懐けるのに手間取ってしまってな」
「なかなか骨のある牛でござったよ」
魔牛の背中には、吉貝と手を振る伊能ワンダリング忠敬が!

「うわーい!」
ハカセはぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
「さあて、ハチを返してもらおうか」
吉貝は真牛の上で剣を抜く。
「拙者も一肌脱ぐとするでござるよ」
伊能ワンダリング忠敬は、真牛から飛び降りて、抜刀術の構えを取る。

「ええい!どいつもこいつも、皆殺しにしてくれるわ!こっちには満月のワーウルフがいる!真正面から戦おうとするなんぞ、狂ったやつよ!」
キングオーガが叫ぶ。それは威圧の意味が大きかっただろうし、通常では有効な脅し文句だった。だが、この場には、"狂"という言葉に反応する異常存在が!

「狂ったやつ……だと……?」
キングオーガの”狂ったやつ”という言葉に激しく反応する吉貝。

吉貝の言動を見た時、ハカセの脳裏には、ある伝承がフラッシュバックした。古今東西のあらゆる伝奇伝承を収集するクソバカエルフだからこそ、その真実に気づいてしまったのだ。
「ま、まさか……」

はるか遠の地に伝わる、伝説めいた噂があった。どんな悪事も見逃さない”青い目の侍”がいるという噂。狂人じみた剣術で死体の山を築く、恐るべき始末人がいるという噂。そして、青く光るウラン刀を振るう剣士がいるという噂。……その全てが、現実となってハカセの目の前に立っていた。

「ハッキョウ……ズキン……!」
ハカセは無意識に言葉を発していた。

吉貝は、いつの間にか頭巾を被っていた。
「何が目的か知らねえが、たかりにゆすりに人攫い。挙句の果てにモノノケ使って人殺しをやろうってんなな……」
吉貝が、否、発狂頭巾が、声高々に吠える!

「狂っているのは、お前の方だ!!」

カァーッ(例の音↓)!!

「ギョワーッ!!」
発狂頭巾の瞳が青く輝き、ヒューマンならざる脚力で魔牛から飛び降り、オーガを惨殺!もはやザコなど相手に在らない!

「な!なにをしている!お前ら!かかれ!」
キングオーガの司令で、動揺していたオーガ達がメンマに襲いかかる!
「ッハ!なめられたもんだぜ!アタイ達も本気出すよ!」
メンマは襲いかかってくるオークたちにバンブーランスを構え、魔力を込める!
「育て!バンブー!」

「「「グゴァ!」」」
メンマの呪文とともに魔力を注ぎ込まれたバンブーランスは三叉に急激成長!一度に三匹のオーガを刺殺!

「あいつは隙だらけだ!ぶっつぶせ!」
オーガ四人がポテチに向かって四方からと突撃!だが!
「ムニャムニャムニャムニャ……!」
ポテチが呪文を唱え終えると、突如としてポテチの周りの地面が柔らかくなり、オーガたちが腰まで地面に沈む!

ポテサラエルフの魔法は、大きく分けて「ポテトを育てる魔法」と「柔らかくする魔法」がある。今回は後者を使用し、オーガ達を足止めしたのだ。もちろん、大量に食べたポテサラも無意味ではない。ポテサラエルフはポテサラから得たカロリーを消費することで、魔力の代用とすることができるのだ。

「お前たち、ハムにすゆ」
ポテチの無慈悲な宣言の後、オーク達の頭部が粉砕!肉体は余すところなくハムにされることが約束された。

「喰らぇ!」
「喰らわないよー!」
「死ねぇ!」
「死なないよー!」
クソバカエルフのハカセは、クソバカエルフ特有の知性で相手の攻撃を読み、全てを躱していく。……否。躱しているでけではない。

「あれれー?」
逃げているうちに、ハカセは袋小路に追いつけられてしまった。
「降参するなら今のうちだぞ!」
オーガ達が情けをかけようとするが、ハカセはケロリとしている。
「降参?しないしない!だって……」

「バモオオオオオ!!」
「「「グギャア!!!!」」」」
オーガ達が吹っ飛ぶ!吹っ飛ばしたのはハチが操る魔牛だ!
「ハチが来るって分かってたもんね!」
ハカセはハチに笑顔を向ける。
「ヘイ!アッシにかかれば、あんな牢屋の鍵くらい、チョチョイのチョイでさあ!」
ハチもハカセに笑顔を向ける。

四方八方紆余曲折の大乱闘の後、最後に残った敵はオーガキングとワーウルフであった。

「ハカセ!ポテチ!いつものやつ行くぞ!」
オーガキングを倒すため、メンマが号令を出す!
「おーけー!」
「まかせゆ!」

「ムニャムニャムニャムニャ」
ポテチがヒューマンには聞き取れない呪文を唱えつつ、蓄えたラポテサラのカロリーを一気に消費!キングオーガの足元が柔らかくなり、キングオーガの動きが鈍る!

「うわーおー!」
ハカセが全身から魔力を放出!クソバカエルフは膨大な魔力を持つが、魔力の扱いそものは苦手だ。それがクソバカエルフと呼ばれる理由でもある。だが、今は幅広い魔法が使えるメンマという相棒がいる!
「よっしゃ!こい!」
メンマは赤い札でハカセの魔力を受け止める!

バンブーエルフの魔法は二種類ある。バンブーそのものを成長加工させる魔法と、ゴシキノタンザクと呼ばれるエンチャント魔法だ。今回は後者の魔法を使う。赤い札はその見た目通り、火を司る!

「ササノハサラサラゴシキノタンザク!!」
メンマのエンチャント呪文により燃え盛るバンブーランスがキングオーガに向かって投擲される!!キングオーガはポテチの魔法により身動きが取れず直撃!!
「グアアアアアアア!!!!」
キングオーガ爆散!!

一方!
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾がワーウルフに斬りかかる!
「ルゥオン!!」
ワーウルフは持ち前の怪力で発狂頭巾の刀を受ける!

「ギョワーッ!!」
発狂頭巾が斬りかかる!
「ルゥオン!!」
ワーウルフが受ける!
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾斬りかかる!
「ルゥオン!!」
ワーウルフ受ける!
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾斬!
「ルゥオン!!」
ワーウルフ受!

「ギョワーッ!!」
「ルゥオン!!」
一進一退の後部!このまま永遠の剣戟となるのかと思ったとの時だ!
「ルゥオン!!」
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾の持つ名刀"卍切"が、真っ二つにぶった切られた!

「ギョワーッ!!」
折られた刀で冷静に剣戟に応じる発狂頭巾!だが、圧倒的不利は必須!その時だ!
「こいつを使いな!」

「ギョワーッ!!」
発狂頭巾は放り投げられた刀を受け取る!それはどう見ても竹光だ!
「ギョワーッ!!」

だが、発狂頭巾は勝負を捨てず、力の限り竹光を握りしめる。

みしり。

発狂頭巾の恐るべき怪力が、バンブーブレードと共鳴した!

いかなることか!発狂頭巾が握りしめた竹刀は、宝剣の如き輝きを示し、真剣よりも鋭き切れ味を発揮した!
「ギョワーッ!!」

……一瞬の静寂の後、獣耳の人斬りは、五体がばらばらになった。
「ルウォン……」
発狂卍切り。相手の肉体を、頭部、両腕部、両足部、胴部の六つに分断するという、幻の剣技だ。

もはや輪廻すら許すまじという、恐るべきフィニッシュムーブだ。だが、発狂頭巾の体に掛かる負荷も大きい。
「ギョワーッ!!」
勝利した発狂頭巾だが、刀を納めない。否、納められないのだ。

「ギョワーッ!!」
なれない異世界での戦闘によって、体内原子炉は限界まで稼働していた。このままでは暴走してメルトダウンだ。その時!

「旦那ァ!!」
発狂頭巾の背後に突進する男が一人。ハチだ!その手には制御棒短刀が握られている。
「臨界御免!!」
ハチが制御棒短刀を発狂頭巾の背中から腹に貫通するように突き刺す!
「ギョワーッ!!」

発狂頭巾に突き刺さった制御棒短刀が、いい感じに体内原子炉の核反応を中和する。
「ギョワー……」
発狂頭巾の狂度が低くなったところで、ハチは制御棒短刀を引き抜く。傷口は細胞分裂によってすぐに塞がった。
「旦那、大丈夫ですかい?」

「お、おお、ハチか……」
発狂頭巾は……吉貝は、周囲を見て自分の置かれた状況を理解した。
「ずいぶんと派手に立ち回ったようだ。いつもすまねえな」
「へへ、ソレは言わねえお約束ってもんですよ!」
吉貝とハチはにこやかに笑い合った。

……それからいろいろあって、エルフ三人娘と吉貝達はいろいろな話をした。お互いに知らないことだらけだったので、話のネタは尽きなかった。だが、時間の流れは無情なもので、別れの時がやってきた。

吉貝達は古代マンホールエルフ遺跡の転送門の上に立っていた。キングオーガやワーウルフを倒したことで、モンスターに込められてた魔力が周辺の土地に拡散。それにより遺跡が活性化され、今一度だけ、転送門が起動できたのだ。

「短い時間であったが、世話になった」
吉貝は丁寧に頭を下げる。
「なんとも不思議な放浪でござったよ」
伊能ワンダリング忠敬は満足げに語る。
「アッシも楽しかったです。まあ、2日くらいしかたってないんですけどね!」
ハチは、別れの悲しみを誤魔化すように笑った。

「おう!戻っても元気でな!」
「ポテサラ広めるって約束、わすれないでゆ!」
「ばいばーい!」
メンマとポテチ、そしてハカセが見送る中、吉貝とハチと伊能ワンダリング忠敬は、原子力江戸へと帰っていった。


……時と場所と"時空"が変わって、ここは江戸城地下奥深くの研究室。青いの核御紋が淡く光るフスマを開けて吉貝とハチが入室する。
「帰ったぞ」
「おお!無事だったか!」
「ヘイ!なんとか!」
平賀アトミック源内が、吉貝とハチの無事を迎える。

「ん?伊能ワンダリング忠敬はどうしたんじゃ?」
二人を見て訝しむ平賀アトミック源内。
「それがですね、『まだまだアトミック日ノ本にはマンホールがあるかもしれぬ!そうだ!"奥の細道"はマンホールだったはずだ!』ってなこと言って出立しまして」

「"奥の細道"がマンホール?ガハハ!それは思いつかなかったわい!」
平賀アトミック源内は大いに笑う。それを横目に、杉田バイオ玄白がハチににじり寄る。
「ところでェ、異世界で出会った"エルフ"ってのが気になるんだけどねェ?」

「あ!そりゃあもちろん、詳しく話させていただきやすよ!旦那も手伝ってくれますよね?」
「ハチ、もちろん協力するにきまっておるだろう。ただ、俺の記憶は常に曖昧。あまり頼りにしてくれるなよ?」
「またまたぁ!そんなこと言って!」
「「「「ハハハッ」」」」

原子力江戸の町が闇に染まる時、闇を晴らす青き危険な光あり。誰が呼んだか発狂頭巾アトミック。ああ、チェレンコフ光が、今日も平和な町を照らす。


「今回は不思議な街だったゆ」
ポテポテと歩くポテチがつぶやく。
「ああ、こんなこと、エルフ旅でもなかなかお目にかかれないんじゃねえか?」
悠々と歩くのはメンマだ。
「今回も楽しかったねー!」
一番思い入れがありそうなハカセが、あっけらかんと答える。

「ハカセ、良かったのか?異世界に通じるゲートが使えなくて?」
「そうだゆ。ハカセのことだから、もっとこだわゆとおもってたゆ」
メンマとポテチが不思議がる。

「いーのいーの!」
ハカセは腕を大きく降って前に出る。
「まだまだ、大好きな二人との旅を楽しみたいからね!」
ハカセは満面の笑みを二人に向ける。

「な……!」
「ん……!」
あまりにも真正面からの好意に、メンマとポテチはちょっと恥ずかしくなってしまい、もじもじする。

「なになに?どーしたの?」
うつむく二人を下から覗き込むハカセ。
「な、なんでもねーよ!」
「なんでもないゆ!」
二人はあくせくと歩き出す。
「えー、教えてよー」
"森の賢者"と呼ばれるクソバカエルフは、当然二人の気持ちを知っていた。知っていて、聞いちゃうのが、ハカセなのだ。

「ええい!うるさいうるさいうるさい!行くぞ!」
「行くんだゆ!」
「……はいはい」

奇妙な出会いもなんのその、異世界だって気にせずに、三人揃えばなんとかなるさ。

三人のエルフの旅はまだまだ続く!

秋の夜長のとくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~エルフ三人娘vs発狂頭巾アトミック~人斬り魔獣の恐怖!】

おわり

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以下、参考の集団幻覚


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