白い招きは命を囲う

行灯の光がぼんやりと、だが、決して暗すぎず、地下街を照らす。ここは東京のはるか地下深く、有象無象の魔法の店が集う、魔術師が集まる取引所だ。

一人の女が、1軒の屋台の前で足を止める。屋台には、干物のような燻製のような、なんらかしらの動物の四肢と思われる棒きれが、大小ずらりと並んでいる。

「手を借りたいのだが、空いているか?」
その女魔術師、”アカネコ”は、堂々と店主に符丁を伝える。
「手、もちろんあるよ」

店主は表情を変えずに答える。もっとも、黒く丸いサングラスのおかげで表情など見えないに等しいのだが。
「うちの手は、これだけね」

店主が大きな箱を開けると、十数本の棒が見える。どれもこれも、毛皮が残った上質の”手”に見える。
「ようし、買おう。前後揃いで5でどうだ?」

自信満々の”アカネコ”だった。だが。
「いくらなんでもそりゃないね。揃いなら10は貰うよ」
店主も負けてはない。

魔道具に定価は無い。だからこそ、交渉次第でいくらでもどうとでもなる。……とはいえ、相場というものはあるにはあるのだ。
「10だ?随分とふっかけてくるじゃないか?こっちは別の店で買っても良いんだぞ?8でどうだ?」
「ふーむ……」

魔術師たちの魔道具はいつ入荷できるかわからない。そして、いつ売りに来るかもわからない。同じ標品を売りに来る者が多ければその日は安く買い叩かれ、希少な品ならば高値でも売れるときは売れる。

「わかったよ。9でどうね?」
「くどいな。8だ」
”アカネコ”はあくまでも強気に出る。今日は”借りる手”が多く出回っており、安く買い叩くチャンスだ。

「……わかったよ。8で売った」
店主は渋々言うと、前後揃いの”借りる手”を”アカネコ”に差し出す。
「ふん、最初から素直になればよかったんだ」

”アカネコ”は金を支払い品物を受け取ると見せを後にした。
(ウシシ、儲け儲け……)
「儲け儲け……などと思っているんじゃあないだろうな?」
「うわっ!」

【続く】

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