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夏休みとくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~夏の浜辺の幽霊騒ぎ~】

「海の香りがすゆ……」
峠の街道から海岸を見下ろす三人組。鼻をヒクヒクさせているのは、ミスリル銀の保管箱を背負う、ズングリとしたポテサラエルフのポテチ。顎の力が弱く舌っ足らずで、ポテトサラダを主食とするエルフだ。

「波の音がここまで聞こえそうだぜ」
耳を澄ますのは、胸にサラシを巻いて竹の軽鎧に身を包む、ギザギザ歯で長身のバンブーエルフ、メンマだ。バンブー林で鍛えられた聴力は、かすかに届く海の音を耳に捉える。

「ほらほら!あれだよあれ!」
元気にぴょんぴょん跳ねながら船を指差すのは、ボサボサの金髪に簡素な貫頭衣でニコニコ笑う、クソバカエルフのハカセ。クソバカエルフなんて名前だが、別名”森の賢者”とも呼ばれる叡智に満ちたエルフだ。

彼女たち三人は、ヒューマンならざる旅エルフである。各地でヒューマンと交流し、時には手助けをすることで、エルフがヒューマンの良き隣人であることを知らしめるという任務があるのだ。だが、今回はちょっと息抜きといったところで……。

「よっしゃ!乗り遅れないように急ごうぜ!」
「「おー!」」
メンマの号令に、三人は道を急ぐ。今回の目的地は船に乗って移動する、リゾート地の離島だ。夏の暑い時期には各地から観光客が訪れる名所である。

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三人が他の観光客と一緒に船に揺られること暫く。波は穏やかでトラブルもなく、船は無事に離島にたどり着いた。
「うおー!青い空!」
メンマは快晴の空を見上げる。
「白い砂浜……」
ポテチは波が打ち寄せる砂浜を眺める。
「緑のワカメ!」
ハカセは海中の海藻を見た。

そう、ここはワカメエルフの里なのだ。エルフの里といえば閉鎖的なイメージがあるかもしれないが、必ずしもそうとは限らない。この島は貿易船や観光客を受け入れており、それがヒューマンとの良好な関係を築く要因となっているわけだ。

「ようこそ~ワカメビーチへ~」
だいぶおっとりとしたワカメエルフが三人を出迎える。ワカメエルフは半水生のエルフであり、海中での活動に適応した結果、全体的にふくよかなエルフが多い。そして、海藻栽培という気の長い生業ゆえか、性格もゆったりした傾向があるとか。

「手紙を出してたメンマとポテチとハカセだ」
「お待ちしてました~楽しんでいってくださいね~」
「ああ、お言葉に甘えさせてもらうとするよ」
メンマはギザギザの歯を煌めかせて笑う。
「あのあのー!」
ハカセが元気に手を上げる。
「例のアレ、さっそくお願いしまーす!」

「は~い。どうぞこちらへ~」
ワカメエルフは三人を建物に向かって案内する。
「なあ、わざわざ着替える必要あるか?」
なんとなく気乗りしていなさそうなのはメンマだ。
「必要必要!ポテチもそう思うよね?」
「んゆ、せっかくだし、経験してみるのも悪くないと思ゆ」
「そんなもんかねー……」

「そんなもんだよ!」
ハカセは率先してワカメエルフの後についていく。そして、三人は建物内部に案内された。
「どうぞお好きものを~」
「「「おお……」」」
そこには、様々なデザインの水着が用意されており、着替える用の部屋も併設してあった。

ワカメエルフは海中での生活のため、水着の発展が早かった。地上生活用の服とは異なる海中に特化した服は、ワカメエルフにとっては必要不可欠な衣類だ。

クソバカエルフには、多くの文化に触れて体験し、叡智を高めたいという、本能のようなものがある。今回、水着を着てみたいと言い出したのは、当然ハカセだ。

「いろいろあって迷ゆね……」
ポテチは水着をじっくり見る。ポテサラ道具を始めとする様々な道具を使うポテチにとって、水着の造形や道具としても利便性など、気になるところが多くあるのだろう。

「ま、アタイはどれだっていいんだけど……」
「そんなこと言わずに、ほら、アレとかどう?」
冷めた目で水着を見渡すメンマに、ハカセが一つの水着を指差した。
「ほう……こりゃあ、いいじゃねえか」
どうやら、メンマのお眼鏡にかなう水着があったらしい。

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それからいろいろあって、三人は順番に選んだ水着を披露することになった。
「一番手はアタイだ!これでも拝みやがれってんだ!」
着替え室の扉が開き、水着を来たメンマが飛び出した!
「「これは……」」
ハカセとポテチが息を呑む。

「いつもとあんまり変わんないゆね」
ポテチの言う通り、メンマの水着はサラシのように巻かれた海藻とハーフパンツ。バンブー鎧を脱いだ普段着とあまり変わらないといえば、実際そのとおりだ。
「変わらないのがいいんだよ。水中でも普段どおりの動きやすさ。それが一番ってな!」

しかし、バンブー鎧が無いことで、いつも以上に鍛え上げられた肉体が良く映えている。太陽に照らされた腹筋が、バンブーを噛み砕く筋力を表しているかのようだ。

「つぎはポテチの番だゆ。ふふふ、ポテチのないすばでぃを見せてやるゆ……」
なんだか気合の入ったポテチが着替え部屋へと入っていく。……そして数分後。
「これが理想の体型ってやつだゆ!」
水着を来たポテチが飛び出した!
「「これは……」」
メンマとハカセが息を呑む。

「お前、そんなにプヨプヨだったのかよ!」
ハカセが驚く。ポテチの水着はセパレートのビキニだ(ずんぐり体系に合うワンピースは残念ながら見当たらなかった)。
「アハハ!ポテチぷよぷよ!」
ハカセはケラケラと笑う。

「ゆん!ポテサラエルフの中では理想的な体型なんだゆ!」
全体的にポヨポヨしたポテチが胸と腹を張る。無論、ポテチの言葉に偽りはない。ポテサラエルフは魔力をカロリーに変えて蓄えるため、ポヨポヨした体型というのは、それ自体が理想的な魔力貯蔵タンクなのである。

そして、カロリーをたっぷり蓄えた肉体を駆動させるための内なる筋肉も、ポテサラエルフの体にとって重要な要素だ。ポテチの体は、一見するとただのポヨポヨボディに見えるが、実際は筋力と魔力を備えた理想的な戦闘体型なのである。

「それじゃー最後、行ってきまーす」
最後にハカセが着替え部屋に入る。
「……なあ、ポテチ」
「なんだゆ?」
「ハカセの体って、見たことあるか?」
「……記憶にないゆね」
ハカセは常に簡素な貫頭衣を身にまとっており、あまり体型を顕にしない。

クソバカエルフは膨大な魔力を持っているため、防具としての衣類を必要としない。むしろ、過剰な防具は魔力を扱う邪魔になる要因だ。故に、多くのクソバカエルフは簡素な衣服を身につけることが多く、ハカセも例外ではなかった。

しかし、水中ともなれば、ダボダボの貫頭衣は水の抵抗を多く受ける枷となってしまう。つまり、ハカセもめったに見せない全身を見せるはずだが……。
「おまたせ!」
着替え室の扉が開き、水着を来たハカセが飛び出した!
「「これは……」」
メンマとポテチが息を呑む。

「それ、水着なのか……?」
メンマは複雑な表情でハカセを見る。
「変わった形でしょー」
ハカセは得意げにくるりと回って全身を見せつける。その姿は、手首から足首までをピッチリと覆うスーツのようなものだった。
「変わった形っていゆか……」
「ああ……」

メンマとポテチは水着事態のデザインにも驚いていたが、それ以上に驚いた点があった。((で、でかい……!))
ハカセは隠れ豊満であった。

「(着痩せは聞いたことあるけど、ここまで着痩せすることあるか!?)」
メンマがヒソヒソ声でポテチに話しかける。
「(世界は広いゆ……)」
ポテチもヒソヒソ声でメンマに答える。

「なになに?どーしたの?」
「いやいや!なんでもねーんだよ!やけに似合ってると思ってな!」
「うんうん!似合ってゆ!」
メンマとポテチは首をブンブンと縦に振る。

「それじゃあ、海を楽しむぞー!」
「「おー!」」
ハカセの号令に、三人はビーチへと駆け出した!

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それから日が暮れるまでの間、三人はそれぞれの楽しみ方で海を楽しんだ。ハカセは得意の泳ぎでワカメエルフと一緒に海藻畑を泳いだり、魚を捕まえたりした。ポテチは磯焼きなどの料理を体験したり、砂浜に埋まったりした。メンマはバンブーいかだで波に揺られたり、釣りをしたりした。

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そして時刻は過ぎ、波の音だけが静かに響く夜。三人は砂浜で焚き火を囲んでぼんやりと星空を眺めていた。
「たまにはこういう休暇も必要だよな……」
笹酒を飲みながらメンマがつぶやく。
「悪くないゆね……」
寝転がって空を見上げるポテチがつぶやく。

「来てよかったでしょ?」
そんな二人をニコニコ顔で見つめるハカセ。
「ああ」
「んゆ」
メンマとポテチも、笑って答えた。
「……どれ、寝る前にちょっと、水でも汲んでくるか」
メンマが立ち上がって水袋を背負う。
「ポテチも一緒に行くかゆ?」
「いや、酔い醒ましにちょいと散歩も兼ねてさ」

「そういうことなら、いってらいっしゃいだゆ」
「迷子にならないでねー」
「すぐそこだってーの!」
二人に見送られてメンマは林に向かう。ここは島とはいえ、小さな山や池があり、湧き水が出る場所もある。飲水には困らないし、星明かりでも通れる道がある。

だから、夜でも迷わないし、よほどのことがなければなにも問題はない。はずなのだが……。
「……なんか肌寒いな」
メンマは気温の変化に気がつく。
「ま、冷たい湧き水が出てるからだろうな。夜はこんなに冷えるとは思わなかったが……」

メンマは道を歩き、湧き水までたどり着き、水袋いっぱいに水を汲んだ。
「くうー!涼しいどころか寒いな!とっとと帰って焚き火に当たりたいぜ!」
いつの間にかメンマの周囲には、薄っすらと霧が立ち込めていた。
「なんだこの霧……」
異常に気がついたメンマは周囲を見渡す。

「なんか、普通じゃないよーな……ん?あれは……」
メンマは一つの影を見つける。それは、黒いローブをかぶった人影のようで、なにか長い棒のようなものを担いでいた。
「な、なあ、あんた……」
メンマは恐る恐る、その人影に話しかける。

「なん……です……か……」
人影はゆっくりと声を発しながら、メンマの方を振り返る。その顔は、骸骨のように白く、瞳の部分には黒い穴が空いていた。そう、まるで……。
「ぎゃーーーー!!!!死神ーーーー!!!!」
メンマは死神の姿にめちゃくちゃ驚いて一目散に逃げ帰った!

土煙が舞い上がるほどの超特急で砂浜に帰ってきたメンマ!
「ポテチ!メンマ!で、出た!!出たぞ!!」
「出たって何が出たんだゆ?」
ポテチがゴロゴロしながら問う。
「し、死神だよ!!」
「死神ゆ……?」
ポテチは、信じられないといった顔でハカセを見る。
「死神なんて、いないいない」
ハカセも答える。

死神とは、黒いフードを被ったドクロで、命を刈り取る大鎌を持つ存在だ。多くは古戦場などの死の香りが色濃い場所に出るものであり、リゾート地に現るものではない。だからこそ、ハカセはいないと即答した。

死神の恐ろしいところは、実体がないところだ。同じ非実体モンスターでも、スケルトンのように物体を介して攻撃してくるタイプは、物体を介してダメージを与えることができる。しかし、完全に非実体の場合、肉弾戦中心のメンマは攻撃する手段がないのだ。

そんなわけで、あり得ない存在だとしても、万が一戦闘になったことを想像すると、メンマにとって死神というのは恐ろしい存在なのだ。
「メンマちょっと飲み過ぎかもしれないゆ。今日はもう寝ゆ?」
「あ、ああ……」
ポテチの言葉に、メンマは素直に従った。

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そして翌日。相変わらず晴天で、ビーチには多くの観光客が訪れいてる。
「昨日の死神、酔っ払って見た幻覚だったのかな……」
メンマは船着き場で釣りをしながらぼんやりと考える。
「ん?おいおいおいおい!」
海を眺めるメンマがなにかに気がついた!

「サメだー!サメが出たぞー!」
メンマが見つけたのは海岸に向かってくる背ビレ!完全にサメだ!
「え?サメ!?」
「キャー!」
「ウワーッ!」
一瞬にしてビーチは大パニック!

「サメなんて~めったに出ないはずなのに~」
ワカメエルフたちもゆったりあたふたする。ワカメエルフの中には、もちろん戦闘力の高いエルフもいる。ただ、ワカメ畑の警備に大半を割いており、比較的安全なビーチにはほとんど戦力が無い。

メンマは戦おう武器を構えようとする。だが、メンマが扱うバンブーウエポンはバンブー製であり、浮力が非常に高い。故に、水中相手には満足な攻撃力を発揮できない。
「ハカセ!行けるか!?」
「まかせて!」
メンマのヘルプにハカセがが答える!
「うおーりゃ!!」
ハカセの魔力を込めたパンチがサメに炸裂!!

クソバカエルフは膨大な魔力を持つが、魔力の扱いが上手くない。それゆえにクソバカエルフなどと呼ばれている側面がある。しかし、炎や風などの属性攻撃が通用しない海中では、”魔力を込めた打撃”というシンプルな攻撃が最大効率の攻撃だ。

ザッパーーーーン!!ハカセのパンチによりサメは気を失い、海面にプカプカと浮いた。
「うおおー!すげえ!」
「強いわ!」
「かっこいー!」
観光客がハカセの活躍に拍手喝采!
「えへへ。ありがとー!」
ハカセもみんなに手を振る。こうして乱入したサメは片付いたわけだが……。

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時刻は過ぎ、波の音だけが静かに響く夜。三人は砂浜で焚き火を囲んでぼんやりと星空を眺めていた。
「それ、なんか変ゆ」
昼間のサメ騒動を聞いたポテチが疑問を持つ。
「変ってなんだよ?」
「このビーチにはサメなんてめったに来ないってことんだゆね?だったら、来た理由がなんかあるはずだゆ」

「まあ、そりゃ確かに……」
メンマは納得するが、それらしき理由は全く思いつかない。
「警戒するにこしたことはないゆ。……そうだゆ」
ポテチは何かを思い立って立ち上がった。
「今夜はポテチが水を汲んでくゆ。メンマの見た死神、気になゆ」

「ああ……!」
サメ騒動ですっかり忘れていた記憶が蘇る。
「気をつけろよ」
「分かってゆ」
ポテチは水袋を背負い、湧き水の場所に向かった。

昨夜に続き、星は明るく、夜でも迷わないし、よほどのことがなければなにも問題はない。はずなのだが……。
「……なんか寒いゆ」
ポテチは気温の変化に気がつく。
「まあ、冷たい湧き水が出ゆ場所は、総じてちょっと寒いもんだゆ……」

ポテチは湧き水までたどり着き、水袋いっぱいに水を汲んだ。
「なんか嫌な予感がすゆ……」
いつの間にかポテチの周囲には、薄っすらと霧が立ち込めていた。
「ゆゆゆ……」
異常に気がついたポテチは周囲を見渡す。

「誰か!誰かいゆ!?……ん?」
不安なポテチは一つの影を見つける。それは、黒いローブをかぶった人影のようで、なにか長い棒のようなものを担いでいた。
「ゆ、ゆ、ゆ……」
メンマは恐る恐る、その人影を凝視する。

「ごよう……で……すか……」
人影はゆっくりと声を発しながら、ポテチの方を振り返る。その顔は、骸骨のように白く、瞳の部分には黒い穴が空いていた。そう、まるで……。
「んゆーーーー!!!!死神ーーーー!!!!」
ポテチは死神の姿にめちゃくちゃ驚いて一目散に逃げ帰った!

土煙が舞い上がるほどの超特急で砂浜に帰ってきたメポテチ!
「ハカセ!メンマ!で、出た!!出たゆ!!」
「出たってもしかして……」
メンマが問う。
「し、死神だゆ!!」
「死神!」
メンマは、やっぱり出ただろうと言いたげな顔でハカセを見る。
「死神なんて、いないいない」
ハカセは相変わらずだ。

「見たんだゆ!」
「見たんだよ!」
ポテチとメンマはハカセに詰め寄る。
「んー、それじゃあ、明日の水くみはまかせて」
ハカセはまるで、死神の正体を見抜いたかのうようにニコニコ笑う。
「おうおう!ハカセも見ればわかるってもんだ!」
「そうだゆそうだゆ!」

メンマとポテチは、フンスフンスと鼻息を荒くしてハカセに詰め寄る。
「アハハ、二人の気持ちはわかったから、今日はもうおやすみしようね」
「「……うん」」
メンマとポテチは、ハカセの提案に乗った。その夜、ポテチとメンマはハカセに寄り添い、一塊になって眠ったそうな。

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翌日の昼、ビーチにはメンマたち三人しかいなかった。昨日のサメ騒ぎで、念のため一般の観光客にはひとまず大陸の方に戻ってもらったのだ。
「こう静かすぎると、リゾート地ってのもなんか落ち着かねーな」
昨日まで人々の声で賑わっていたビーチだが、今やすっかり静かになってしまった。

「よーし、今のうち、今のうち!」
ぼんやりするメンマとポテチの腕を取ったのはハカセだ。
「え?」
「んゆ?」
ハカセは頭上に疑問符を浮かべる二人を引っ張り、湧き水の場所に向かう。
「なんで?まだ昼だぞ?」
「そうだゆ?死神は夜に出たんだゆ?」

「ふふふー、それはどーかな?」
メンマはすべてを見透かしたような目で答え、林を進んでいく。湧き水の場所に近づくと、段々と涼しくなってきた。……いや、涼しいというより、むしろ寒い。
「ハカセ、この感覚だよ」
「んゆ……」
メンマとポテチが身構える。だが、ハカセはゆうゆうと歩き続ける。

いつの間にか周囲は霧が濃くなっていた。メンマとポテチがビビる中、ハカセは足を止めて叫んだ。
「ヒートエルフさーーーーーん!!!!!!お話しましょーーーーーー!!!!」

「「ヒートエルフ……?」」
メンマとポテチが目を丸くする中で、”それ”は姿を表した。黒いローブを纏い、白い仮面をつけたエルフだ。
「わ、私の話……き、聞いてくれるんですか……」

「うん!!」
ハカセは元気よく返事をする、ハカセの笑顔をみて安心したのか、黒ローブのエルフは頭を下げる。
「あ、ありがと……ございます……フヒヒ……あ、すみません……うれしくて笑いがフヒ……」

黒ローブのエルフはおずおずと三人に近づいてくる。
「なあ、ハカセ。ヒートエルフってなんなんだ?」
メンマが問う。
「えっとねー、熱を食べるエルフだよ」
ハカセが答える。
「熱を食べるエルフ……聞いたことがあゆ」
ポテチが何かを思い出す。

「確か、温度をエネルギーにすゆエルフだったはずゆ」
「そ、そのとおりで……」
黒ローブのエルフが申し訳無さそうに答える。
「あ!だからアンタが近くにいると寒かったのか!」
「は、はい……」
黒ローブのエルフが申し訳無さそうに答える。

「メンマとポテチ、死神と見間違えた!」
「ああ、なるほど!」
「そういうことかゆ!」
ハカセの言葉で、メンマとポテチは納得した。
「なんだよ!同じエルフだってんなら挨拶させてもらうぜ!アタイはバンブーエルフのメンマ!」
「ポテサラエルフのポテチだゆ」

「ヒ、ヒートエルフのコルドです……」
コルドおずおずと挨拶をした。
「ところで、なんでこんな島にヒートエルフが?」
ハカセの疑問は最もだ。ヒートエルフは熱を食べる性質上、温暖な土地に住む。旅エルフだったとしても、いきなりワカメエルフの里に単身で乗り込むことは少ない。

「えーっと、それはですね……」
コルドが恥ずかしそうにモジモジする(表情は仮面で見えないが、動きは明らかにこっ恥ずかしそうだ)。
「「「それは……」」」
三人が息を呑む。
「遭難、しちゃいまして……」
「「「ズコーッ」」」
三人が盛大にずっこける。

コルドの言葉が確かなら、数日前の悪天候でこの島に流れ着いたことになる。嘘はついていないし辻褄は合う。なにより、コルドに悪意は一切感じられなかった。
「そ、それで、この島の熱を食べて体力を回復しようとしていたってわけかい?」
「はい!お、お陰様で、元気になりました……」

「メンマがビビってた死神もたいしたことないゆね」
ポテチがニヤニヤとメンマを見る。
「お、お前だってビビって逃げてきたじゃねえか!」
たまらずメンマがポテチに言い換えす。
「ゆ……!」
ポテチはぐうの音も出ない。

「と、とにかくゆ!これで死神騒動は解決したゆ。ワカメビーチにも平和が戻ったゆ」
ポテチはいろいろなことを丸く収めようとする。だが、そこに待ったがかかった。
「まだだよ」
ハカセはいつになく真剣眼差しで海の方を見る。

「明日、大きな船が来る」
ハカセはまるで未来予知のような事を言う。しかし、これは荒唐無稽な戯言ではない。クソバカエルフの叡智は凄まじく、過程をすっ飛ばした回答が言葉となることは珍しくない。しかし、あまりに過程をすっ飛ばすため、聞いた人によっては無茶苦茶な理論に聞こえてしまうのだ。

それゆえに、クソバカエルフは"会話が通じないエルフ"という意味で呼ばれているが、実際は高度すぎる思考にだれもついてこれないだけなのだ。
「明日、船が来るんだゆね?」
ポテチはハカセの言葉を疑わない。
「うん!」

「だったら、しっかりとっちめねえとなあ!」
メンマも来る強敵に備えて気合を入れる。
「あ、あの……!」
コルドも声を上げる。
「わ、わたしにできることは……」
引っ込み思案でビクビクしているコルドに、ハカセは渡って答えた。
「踊りたいように、踊って!」

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そして翌日!
「来たぞ!幽霊船だ!」
遠くを見張っていたメンマが声を上げる!観光客はすべて避難しており、巻き込みの心配なない。
「乗船準備、いつでもいいゆ!」
気合の入ったポテチが杖を構える。その杖はポテトを潰す道具に似ていた。
「わ、私も頑張ります……!」
コルドも臨戦態勢だ!

幽霊船の見た目はかなりボロボロで、長い航海を行っていたものに見える。それがサメの生息海域を侵犯し、追いやられたサメがこの島にたどり着いてしまったのだろう。ゆえに、根本の原因である幽霊船をどうにかしなければ、サメ問題は解決しない。だが、解決方法はシンプルだ。この船を倒せばいいのだから!

「ハイヤーッ!」
メンマが船に一番乗り!バンブーランスで次々とスケルトン乗組員を刺す!だが!
「ええい!こいつら全然効いてねえ!」
スケルトン乗組員は衣服をいているが、実体はスケルトン。一点貫通の刺突攻撃では有効打にならず!

「なら、これでどうだああ!!」
メンマがバンブーランスに魔力を込めると、とたんに太さが増強!まるで丸太のようなバンブーの横薙ぎがスケルトンをまとめて海に放り出す!
「うおおおりゃああああ!!」
スケルトンが吹っ飛ぶ!

一方ポテチは!
「んゆ!」
スケルトンに対して重い打撃が炸裂!足を折られたスケルトンは崩れ落ちた。
「こんなもんかゆ?」
ポテサラエルフは魔力を脂肪に蓄える。そして、脂肪を蓄えたまま機敏に動く筋力も同時に兼ね備える。その肉体が放つ打撃は、魔力を宿したスケルトンの骨をも砕く!

メンマとポテチが雑魚を相手にしている間に、ハカセとコルドは船長らしきスケルトンと見合っていた。
「一騎打ちだよ!やっちゃえ!」
「う、うん……!」
コルドは怯えながらも頷くと、スタッフを構える。
「シュー……シャー!!」
船長らしき海賊帽のスケルトンが襲いかかってきた!

「ひゃあ!」
コルドはスケルトンのサーベル攻撃を回避!黒いローブが残像を残すように翻る。
「シャーッ!シャーッ!シャーッ!」
スケルトンの連続サーベル攻撃!
「ひ!ひゃあ!うわ!」
それらをすべて紙一重で回避するコルド。

一見するとコルドの圧倒的不利に見える。だが、徐々に船長スケルトンの動きが鈍ってくる。
「シャーッ!」
「おっと!」
コルドはスタッフをうまく使って攻撃を受け流し、さらに回転するような動きで攻撃を回避する。その動きは、まるで戦場を舞う死神のようで……。

「あれが死神エルフの異名を持つヒートエルフか……」
あらかた雑魚スケルトンを倒したメンマは、コルドの戦いに注目する。
「寒くなってきたゆ……」
同じくあらかた雑魚スケルトンを倒したポテチも、コルドの戦いに注目する。

ヒートエルフは文字通り、周囲の熱を食らう。黒いローブと仮面は、食らった熱をなるべく逃さないようにする旅装束だ。コルドは戦いながら、紙一重で攻撃を回避し、踊るように船長スケルトンの熱を奪う。
「シ、シャーッ!」
明らかに船長スケルトンの疲労が見えてきた。

「そ、それじゃあ、フィナーレですねフヒヒヒヒ!!」
ここぞどばかりに不気味に笑うコルド!彼女はスタッフを素早く回転させる。すると、なんたることか!周囲の熱を奪う効果とスタッフの回転が合わさり、巨大な氷の鎌となったではないか!
「最後の熱。刈り取りますよぉ!」

コルドの氷鎌が振り下ろされる!
「シャーーーーーーーッッッッッッ!!!!!」
船長スケルトン斬首!!

「命よ、我が魂に……」
コルドは氷鎌の演舞を舞うと、弔いの言葉をつぶやいた。

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幽霊船退治から数日後、ワカメビーチには平和が訪れていた。浮き輪で遊ぶ子どもたち。バーベキューを楽しむ若者たち。パラソルの下で寝そべる夫婦。釣りを楽しむ老人。老若男女あふれるリゾート地だ。

そしてそこには、ヒートエルフのコルドもいた。
「い、いらっしゃいませ……」
相変わらず引っ込み思案なコルドだが、接客にも少しづつなれてきたようだ。もともとは偶然にこの島に流れついたのだが、周囲の熱を吸うという性質を活かして、この夏はこの島で旅費を稼ぎながら過ごすことにしたらしい。

コルドの湧き水カキ氷は非常に好評で、サメや幽霊船が出たにも関わらず、今年のワカメビーチは大盛況だったそうな。

……一方その頃、三人はというと。
「次はどこに行くんだゆ?」
「海は堪能したし、次は山かな」
「山!?ポテトいっぱいあゆ!?」
「あるかもしれないし、ないかもしれないねー」
「未知なゆポテト目指して、出発だゆ!」
ポテチは遠くに見える山に続く道をずんずんと進む。

「しかたねーな。ハカセ、たまにはポテチについてみってみようぜ」
メンマは、仕方ないなあというはにかみ笑顔でポテチについていく。
「うわーい!おもしろそー!」
ハカセはワクワク顔で二人の後を追うのだった。

リゾートビーチの休暇を終えて、ワカメエルフと縁を持ち、足並み揃えてえんやこら、種族は違えど今日もゆく。
三人のエルフの旅はまだまだ続く!

夏休みとくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~夏の浜辺の幽霊騒ぎ~】

おわり

(感想ハッシュタグは #エルフ三人娘 だと拾えるので嬉しいです)

以下、参考の集団幻覚


サポートされると雀botが健康に近づき、創作のための時間が増えて記事が増えたり、ゲーム実況をする時間が増えたりします。