赤煙術師は紫煙を呪う

壁の向こうから俺のピンチを覗き見ているお前に、まず説明しなくちゃならないことがある。俺の目の前に立っている女、あいつは俺を魔法で殺そうとしている。

見ろ。女の持つ発煙杖から揺らぐ白い煙を。女が手をかざすと煙の色が赤く変わった。そして鋭いトゲに変わって……俺に向って撃ち出される!

俺は素早く横に転がり、さっき倒壊したテーブルの影に隠れる。ここは俺のアジトだが、すでに先制攻撃で自慢のリビングがめちゃくちゃだ。

女の打ち出したトゲは壁に突き刺さり、再び煙となって霧散していく。当たりどころが悪ければ当然即死だ。俺はテーブルの影に隠れながら壁の鏡越しに女を見る。

女の方は鏡に気づいていないようで、追撃の魔力を練っている。白煙は赤煙へ、そして赤煙から橙煙へ。魔力の周波数を上げてテーブルごとぶち抜こうというつもりらしいが……。

俺はローブのポケットからタバコを取り出して火を付けると、大きく息を吸い込み、煙を吐き出した。

(無駄だと思うが、やってみるかねぇ)

俺は右拳に煙をまとわせ、魔力の周波数を上げようと試みる。白煙は赤煙へ、そして、赤煙以上の変化はなかった。

(忌まわしい紫煙の呪いは健在か)

女の方はまだ魔力を練っていた。いまや橙煙は黄煙となり、巨大な槍を形作ろうとしていた。突っ込むなら、今しかない。

俺は煙を目一杯吸い込むとテーブルの影から飛び出した。

「ッ!死ねい!」

女の黄槍が俺に向かって放たれる。確死の一撃だ。だが、わかりきっていた攻撃ならば避けるのは容易。そうだろ?

俺は肺から全ての煙を吐き出す。吐き出した白煙は即座に半円形の赤壁となり、女の黄槍を逸らす。

「な……」

なんだと、どでも言いたそうな顔に右赤拳の強烈なアッパーを叩き込む。

「がはっ!」

女はぶっ倒れたが、死んではいない。俺は発煙杖を蹴飛ばして女に問う。

「”紫煙の呪い”を知っているか?」

「紫煙の呪いだと……」

女は顔色を変える。どうやら当たりらしい。

【つづく】

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