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バンブーエルフ2周年とくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~大洪水を止めろ!~】

「しっかしよく降るな……」
雨がしとしと降る街道を歩く三人組。先頭を歩くのは、胸にサラシを巻き、竹の軽鎧に身を包み、ギザギザ歯で長身のバンブーエルフ、メンマだ。メンマの差すバンブーパラソルからは、ポツポツと当たる雨の静かな音色が響く。

「んゆ、早く屋根のある場所で休みたいゆ……」
メンマの後ろを歩くのは、ミスリル銀の保管箱を背負う、ズングリとしたポテサラエルフのポテチ。顎の力が弱く、ポテトサラダを主食とするエルフだ。ポテチは大きなポテトの葉っぱを傘にして、ぽてぽてと歩く。

「二人とも!もーすぐだよ!」
最後尾を元気に歩くのは、簡素な貫頭衣を着て、ボサボサの金髪でニコニコ笑うクソバカエルフのハカセ。ハカセはクソバカエルフ特有のあふれる魔力で全身をコーティングしており、傘を差さずとも雨に濡れていない。

彼女たち三人は、細かい種族は違えども、ヒューマンならざる旅エルフである。引きこもりがちなエルフは時おり旅に出て、他のエルフとパーティを組み、外の世界の知識や文化に触れ、同時に自分たちが無害な隣人であるということを伝えているのだ。

今回、三人はとある山を目指していた。なんでも、不思議な湖があるらしい。メンマはバンブー栽培の新たな可能性を求め、ポテチはポテト栽培の新たな可能性を求め、ハカセはなんだか面白そうだということで意見が一致し、こうして道を歩いてきたわけだが……。

「こう雨続きじゃ、山道なんてどうなってるか分かったもんじゃないぞ」
メンマは少々げんなりしながら歩く。
「ポテチも時期を間違えたと思ゆ」
ポテチもぽてぽてと歩く。そんな二人を元気づけるように、ハカセが声を上げた。
「……あ!ほらほら!村が見えてきたよ!」

ハカセの言う通り、家がポツポツと見えてきた。
「お!こいつぁ、ありがてぇや!早速雨宿りさせてもらおうぜ」
メンマは傘を閉じて走り出す。その速さは三人の中でも群を抜いており、二人を完全に置いてけぼりにしそうな速度だ!

「お、置いてくなゆ!」
ポテチも傘を放り投げて走る!だが、メンマの速さには追いつけない。
「アハハ!ポテチ、ゆっくり行こう?」
ハカセもポテチに合わせてゆっくり走り出した。

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「一番乗りーっ!」
元気よく村に到着したメンマだったが、なにやら様子がおかしいことに気がつく。まだ昼間だというのに、誰も外に出ていないのだ。
「おいおいまさか……」
まさか、モンスターによる略奪か?メンマは警戒してバンブースピアを構える。

「おーい!誰か!いないのかぁ!?」
メンマは声を張り上げる。すると、近くの家の扉が開き、住人が恐る恐る姿を現した。
「……おお!旅エルフだ!旅エルフの方が来てくださったぞ!」
住人は驚きと喜びに叫ぶ。

旅エルフの旅には、自分たちの種族がヒューマンにとって協力的であることを示すという目的がある。はるか昔、旅エルフという文化がなかった時代は、かなりの頻度でエルフの森焼きが発生していた。だが、長い旅エルフ活動の甲斐あって、今では様々なエルフがヒューマンの隣人となった。

多くのエルフはヒューマンよりも戦闘能力が高い。故に、困っているヒューマンを助けて心象を良くすることも、旅エルフの活動のひとつになる。言い換えれば、問題ごとを抱えているヒューマンたちにとって、旅エルフは救世主のようなものなのだ。

住人の様子を見て、おおよその状況を察したメンマはバンブースピアを収め、住人に歩み寄る。
「なんか、訳ありって感じだな?」
「ええ、今、この村は危機に瀕しています。どうか、助けていただきたく……」
「あー、待った」
メンマが、住人の言葉を遮る。

「ど、どうかしましたか……?」
緊張する住人に、メンマは笑顔で答えた。
「続きは屋根のあるところでいいかい?」
「……はい!もちろんです!どうぞこちらへ」

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それからしばらくしてポテチとハカセも合流し、三人は村長の家に案内されていた。
「皆様、よくぞおいでくださいました」
村長が改めて挨拶する。
「おう、こっちこそ、雨の中で今日もまた野宿かって心配してたところなんだ。助かったぜ」
「んゆ」
「うんうん」
メンマの言葉にポテチとハカセも頷く。

「で、何があったんだ?」
メンマは仕事をする顔になる。依頼を受けるからには、真剣に話を聞くというのがメンマのスタイルだ。
「はい。問題はこの雨なのです」
「雨?」
「ええ、例年ならそろそろ作付の時期なのですが、十日以上もこの雨続きで、畑が水浸しになってしまいましてな」

「この村では何を育ててゆ?」
畑といえばポテチの出番だ。ポテサラエルフの里には、当然のようにポテト畑が広がっている。ここまで農耕の叡智を備えたエルフはなかなかいない。
「はい。こちらです」
村人が皿に載せて差し出してきたのは根菜だった。見た目にはポテトの一種のようだ。

「ポテト!」
ポテチが目をキラキラさせる。だが、直後にその光は別の光に変わった。
「……このポテト、ずいぶん"柔らかい"ゆね?」
ポテチが根菜を指で軽く突くと、ズブリと根菜に指がめり込んだ。しかし、加熱した痕跡は感じられない。これは一体?

「こいつは、俺たちの村で育てている水ポテトってんだ」
住人の若者が答える。
「「水ポテト?」」
メンマとポテチが首を傾げる。
「おいおいポテチ、お前も知らないのかよ」
「聞いたこと無いゆ……」

ポテサラエルフは農耕の叡智を備えたエルフではあるが、世界は広い。まだ見ぬポテトもある。そういった"外の世界の知識"を得ることも、旅エルフの目的のひとつだ。

「なんで水ポテト?」
別の意味で首を傾げたのはハカセだ。
「はい。元々このあたりは、これほど雨が降る土地ではないのですよ」
「あー、なるほどね!」
村長とハカセは二人だけで納得している。
「おいおいおいおい!ちゃんとアタイらにも分かるように説明してくれよ」

クソバカエルフはその名前に反して、恐るべき魔力量と知恵を誇る。しかし、それゆえに過程をすっ飛ばす会話が繰り広げられることが多い。多くのエルフやヒューマンにとって、会話で理解を深める部分は、クソバカエルフにとっては言葉にする必要もない、自明なことなのだ。

しかし、それゆえにクソバカエルフとの会話はなかなか噛み合わない。過程や前提をすっ飛ばした会話というのは、ほとんどの者にとって意味不明なものである。その結果、”何を言っているのかわからない”というイメージが先行し、クソバカエルフという名が定着してしまったのだ。

「それについては俺から説明させてください」
村の若者が解説役を買って出た。
「水ポテトは本来、干ばつにも耐えられる乾いた土地で育てられているポテトなんです。地中の少ない水分を蓄えて、丈夫に育ちますから、このあたりの土地にも適しているんです」

「ということは、今の状態だと水が多すぎゆってことゆね?」
ポテチはおおよそを理解したようだ。
「はい、そのとおりです」
「なるほどね……」
メンマは理解しているか若干怪しいが、とりあえず頷いておいた。

「要は、雨が降りすぎて困ってるから、なんとかして欲しいってことだよな?そういうことなら、いくらアタイらでも手に余るっていうか……」
「いえ、まずは原因を調べてほしいのです」
「原因?」
「はい。あれを御覧ください」
村長は窓の外を指差す。

三人は窓の外を見る。
「ありゃあ、山の上に……雲か?」
メンマの疑問の通り、やや遠くに山があり、その上部は雲に包まれていた。
「はい。あの山に降った雨が川や地下水となって流れ、村の畑を潤します。ですが、あの雲は雨が降り出してから、ずっと動かないのです」

「それは、困ったゆね……」
ポテチは畑の惨状を憂いて、しんみりする。ポテサラエルフにとって、畑はポテトを生み出してくれる、第二の母といってもいい存在だ。それはどこの土地の畑でも変わらない。だが、そんなポテチの哀愁をよそに、ハカセが声を上げる。
「たいへんだ!」

「なんだよハカセ!びっくりするじゃねえか!」
「洪水が来るよ!」
ハカセの過程をすっ飛ばした解だ。
「……はい。我々もそれを心配しております」
村長はハカセの言いたいことを理解しており、神妙な面持ちで頷く。

「洪水……あ!まずいじゃねえか!」
メンマも今回ばかりは理解できたようだ(ポテチは言うまでもなく理解しており、黙って頷いていた)。
「あの雲が自然のものでしたら、我々も諦めが付きます。ですが、もし、魔物のせいでしたら……」
村長が恐る恐る言葉を発した。

「よっしゃ!」
メンマが元気よく声を上げる。
「そういうことなら任せてくれよ!さっと行って調べてきてやるよ。もちろん、魔物がいたら、ぶちのめしてやるからな!」
メンマは不安そうな村長と村人を見渡し、笑顔で答える。
「んゆ!」
「ほいほーい!」
ポテチとハカセも同様だ。

「おお……ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
村長を初め、村人たちが御礼の言葉を述べる。
「おいおい、礼は終わってからにしてくれよな!それじゃあ行くか!」
メンマはポテチとハカセに号令をかける。
「……あ!ちょっと待ちゅゆ」
メンマの号令に、ポテチが待ったをかけた。

「どうしたポテチ?」
「ポテチは畑を見捨てられないゆ。それで、試してみたいことがあるんゆが……」

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場所は変わって近くの畑。
「ムニャムニャ……ムニャムニャ……」
ポテチはヒューマンには聞き取れないムニャムニャ声で、ポテサラ魔法の呪文を唱える。ポテサラ魔法にはいくつかの種類があるが、今回は土壌活性化の呪文だ。

「本当にうまくいくのでしょうか?」
「さあな。だが、やって見る価値はあると思うぜ」
不安な村長の問いにメンマが答える。
「ムニャムニャ……ムニャムニャ……」
ポテチは呪文詠唱を終え、畑の真ん中に立った。
「それじゃポテチは埋まゆから、山の方は頼んだゆ」
「おう、任せろ!」

メンマが答えたのを確認すると、ポテチは畑の中にズブズブと埋まっていく。自らの魔力を大地と循環させて、畑を活性化させる魔法だ。雨で養分が流れた畑も、これで多少は土壌を改善できるはずだと、ポテチは見込んだ。

ポテチは畑を整える。その間に、メンマとハカセが二人で山に向かうというのが、今回の作戦だ。
「よし、それじゃあハカセ、アタイらは山に行こうぜ」
「ほーい」
だが、二人が山に向かおうとしたその時だ!

「ごぼごぼ……」
畑の中央から溺れるような音が!
「やばい!ポテチが溺れてるぞ!」
メンマが腕を畑に突っ込み、ポテチを掘り起こす!
「し、死ぬかと思ったゆ……」
溺れかけたポテチが収穫された。
「まさか、ここまで水浸しになってたとはな……あ!そうだ!」
メンマは何かを思いつく。

「ハカセの水を弾く魔法、ポテチにかけられねぇか?」
「おー!できるよ!」
クソバカエルフのハカセは膨大な魔力を持つ。簡単な強化魔法なら他のモノにも掛けられる。
「っぽい!」
ハカセが手を一振りすると、ポテチの周囲の雨が弾かれるようになった。

「これなら安心して畑に埋もれゆ」
ポテチは再び畑に沈んでいった。
「よし、それじゃあハカセ、今度こそアタイらは山に行こうぜ」
「ほーい」
だが、二人が山に向かおうとしたその時だ!

「ごぼごぼ……」
畑の中央から溺れるような音が!
「やばい!ポテチが溺れてるぞ!」
メンマが腕を畑に突っ込み、ポテチを掘り起こす!
「し、死ぬかと思ったゆ……」
溺れかけたポテチが収穫された。
「ハカセの魔法、すぐに効果なくなったゆ……」
「あー……そういうことかよ……」

クソバカエルフがクソバカエルフと呼ばれる理由は、過程をすっ飛ばした会話以外にもう一つある。膨大な魔力を持つが、魔力の扱いが壊滅的に苦手なのだ。強化魔法くらいしか魔法が使えず、距離が離れれば、すぐに効果が消えてしまうほどに。

「しかたねえ、山にはアタイが一人で行くよ。なに、バンブーエルフの足なら直ぐに行って来いさ」
「あはは、ごめんごめん」
「すまんゆ」
ハカセとポテチは謝るが、メンマにとってはいつものことだ。旅エルフ同士、支え合って生きていく。メンマが困ったり、ワガママを通そうとした時にも、二人が支えてくれたように。

「それじゃあ行ってくるぜ!」
メンマは一人、山へと向かって走り出す。その速さは馬でも追いつけないほどだ!

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メンマは山に入り、木々を飛び移りながら移動していく。バンブーが生い茂るバンブー林で生きるバンブーエルフにとって、森の移動は走るよりも遥かに早い。
「しっかし、こりゃひでぇな……」
メンマは足元の山道を見る。馬なら数時間の距離と聞いていたが、今は長雨でぬかるんでおり、徒歩の移動すら困難だ。

村人たちも、自分たちで山頂の雲を調べたかったに違いない。だが、この地面では、ヒューマンと馬ではどうしようもなかったのだろう。そんな事を考えながら、メンマは川沿いに山を登っていく。

……しばらく進んだメンマは、眼の前の光景に驚いて、足を止めた。
「な、なんだこりゃ!」
そこには、川をせき止める巨大な木造のダムがあった。
「村の奴ら、ダムの話なんてしてなかったが……」
メンマが思案したその時!ブオオー!ブオオー!ブオオー!

突如鳴り響く戦笛の音!
「何だぁ!?」
メンマは背中に背負った数々のバンブーウェポンに手を添える。どの位置、どのタイミングで攻められても最適解が出せるように。それは抜刀の構えに似ていた。

しかし、メンマの警戒は杞憂に終わった。
「どうか武器を収めてくださいビバ」
メンマの前に現れたのは、武器を持たない小柄な出っ歯のゴブリンだった。
「アンタ、もしかして、ゴブリンビーバーか?」

「はい、そうでビバ」
ゴブリンビーバーの長らしき者は、頭を下げて敬意を表す。ゴブリンビーバーは、川をせき止めるダムを作ることで有名なゴブリンだ。稀に下流に重大な被害を及ぼすために、駆除されることもある。だが、本来は知性が高く、対話も可能な魔物だ。

「アンタらがこの雨の原因ってわけでもなさそうだが……。それにしても、このダムは大きすぎねぇか?」
メンマの言う通り、目の前のダムはゴブリンビーバーの一般的なダムより遥かに大きい。
「はい、それに関してはお話したいことがありまして……」
「あー、待った」
メンマは、ゴブリンビーバーの言葉を遮る。

「ど、どういたしましたか……?」
緊張するゴブリンビーバーたちに、メンマは笑顔で答えた。
「続きは屋根のあるところでいいかい?」
「……はい!もちろんです!どうぞこちらへ」

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「で、何があったんだ?」
メンマは仕事をする顔になる。依頼を受けるからには、真剣に話を聞くというのがメンマのスタイルだ。
「はい。問題はこの雨なのでビバ」
「雨?」
「ええ、例年ならそろそろ作付の時期なのですが、十日以上もこの雨続きで、ダムが溢れそうになってしまいましてビバ」

「あー、なるほどな。あの山の上の雲があやしいってんだろ?」
「な、なぜそれを?」
「麓のヒューマンの村で依頼を受けてきたんだよ」
「そういうことビバか」
出っ歯のゴブリンビーバーリーダーが頷く。

「あんたらは、あの雲についてなにか知らねぇのか?」
「もしかしたらビバが……」
出っ歯のゴブリンビーバーリーダーは自信なさげに答える。
「なんだっていいよ。アタイは何も知らねえんだ。言い伝えだろうが予感だろうが、少なくとも、ここに住んでるアンタらの方が情報は握ってるはずだ」

「そういうことでしたら、我らに伝わる伝承ですが……」
出っ歯のゴブリンビーバーリーダーは語りだした。
「……!」
メンマはその語りを聞き、そして、危機の大きさを理解した。
「こいつぁ、気合い入れねぇとヤバいな」

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一方その頃、ポテチとハカセはというと。
「ムニャムニャ……スヤスヤ……」
ハカセの魔法で水分を弾いているポテチは畑に埋まり、自らの魔力と大地の魔力を循環させていた。一見すると、地中に埋まって眠っているようにしか見えないが、実際に眠っているのだ。

ポテサラエルフにとって、畑の中での睡眠状態というのは、最もリラックスした状態である。同時に、淀みなく魔力を循環できる状態でもある。決して、惰眠を貪っているわけではない。そう、決して。

一方ハカセはというと、ポテチが埋まっている場所の真上に座っていた。一見するとボーっとしているようにしか見えないが、実際にボーっとしているのだ。

クソバカエルフにとって、ボーっとしているよう状態というのは、肉体駆動のリソースを可能な限りシャットダウンし、あふれる叡智にすべてのエネルギーを集約し、集中している状態でもある。決して、暇だからぼんやりしているわけではない。

……二人の瞑想めいた状態は夜明けまで続いた。

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「ハカセ!起きろ!」
ゴブリンビーバーダムからとんぼ返りしてきたメンマの声。
「……ほえ?」
ハカセの鼻ちょうちんがパチンと弾ける。
「モゴモゴ……おかえいメンマ」
ポテチも畑の中から這い出してくる。
「寝ぼけてる場合じゃねえぞ!今すぐ出発だ!」
ハカセとポテチを叩き起こしたメンマが、山を指差す。

「なになに?どーしたの?」
ハカセが目をこすりながら、ふわふわした口調でメンマに答える。
「ダイマイマイだよ!」
「……ダイマイマイ!?」
固有名詞を聞いただけですべてを理解したハカセは、畑から這い出ようとモタモタしていたポテチを引っこ抜く!
「ポテチ!大変だよ!」

スポンっと引っこ抜かれたポテチは、ハカセに抱えられながら状況を把握する。
「……とにかく急がないといけないんだゆ?」
「そのとーり!」
ハカセはパッと手を離す。
「そういうことなら、急ぐしか無いゆな」
着地したポテチはミスリル銀の保管箱を背負う。臨戦態勢だ。

「ハカセ、ポテチを頼めるか?マジで急がねぇとヤバいんだ」
「ほいほーい」
ハカセはポテチを抱きかかえる。ミスリル銀の保管箱はかなり重く、ポテサラエルフの体力があるからこそ、長旅でも持ち運べるのだ。ハカセはその重さに加えて、ポテチまで抱えている。こんな状態でメンマに追いつけるのか?

答えは、"短時間なら可能"である。
「かっ飛ばすぞ!」
メンマはバンブー魔法でバンブーを伸ばし、そのしなりを利用して、連続棒高跳びのように山に向かう!
「よーし!いっくぞー!」
ハカセは溢れる魔力で全身を強化して全力疾走!空中を駆けるメンマと同じ速度で山に向かう!

「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!」
ハカセに抱きかかえられているポテチは、あまりのスピードと振動で体がブルブルと震える。
「少し我慢だよー?」
ハカセは声をかけるが、全力疾走は止めない!恐るべきクソバカ特急は山を一気に駆け上る!
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!」

バンブー高跳びと木々のジャンプを繰り返すメンマが、一足先に雲にたどり着いた!
「ハイヤー!」
勢いよく飛び出して着地するメンマの足元で、バシャンと水音が響く。
「ここは……」
メンマの足元は水辺だ。”あの山には、なんでも不思議な湖があるらしい”。その情報を思い出す。
「そういうことかよ……!」

「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!」
「うわっほーい!!」
ポテチとハカセも一足遅れて到着した。
「ポテチ!ハカセ!こりゃあダイマイマイの巣だ!」
メンマの声に二人が霧の中を見上げる。そこには、ドラゴンほどの大きさもあろうかという大きさのカタツムリがいた!

ダイマイマイは、一言で言ってしまえば、巨大なカタツムリだ。だが、一般的に知られている大きさはヒューマンの身長程度。であれば、この大きさは何だ?背負っている殻ですら、大きめの一軒家ほどのサイズがある。
「なあ、良い知らせと悪い知らせがあるんだが」
メンマがつぶやく。

「こういう時は、良い知らせから聞くのがお約束ってもんだゆ」
ポテチが皮肉交じりに答える。
「良い知らせってのは、だ。不思議な湖は本物だったってことさ」
「それでそれで?悪い知らせってのは?」
ハカセは当然答えがわかっている。だが、ここで発言するべきは"問い"だということも理解していた。ハカセの叡智が空気を読んだのだ。

「不思議な湖が魔力のたまり場で、それに目をつけた魔物が居座って、そんでもって巨大化しちまったってことだよ!!」
メンマが吠えると同時に、巨大ダイマイマイの首が倒れかかる!カタツムリといって侮ってはならない。その質量だけで巨大な倒木に等しいのだ!

「ハイヤー!」
「うわーお!」
「んゆ!」
三人は余裕を持って回避!いかに強力な攻撃と言えども、動きは緩慢。当たらなければどうということはない!だが!
「あいつを倒すにゃどうすれば良いんだ!?」
「塩だゆ!」
「デカすぎて手持ちの塩じゃ足りねえぇよ!」
「んゆ……」

ナメクジやカタツムリが、塩で水分を奪われるというのはよく知られている。だがしかし、家よりも大きなカタツムリを倒すには、どれだけの塩が必要か。しかも周囲は霧、つまり水分に包まれているようなものだ。例え一樽の塩をぶちまけたところで、ダメージは殆ど無いだろう。

「殻の真ん中!バンブーで狙って!」
ハカセの知識が打倒策を見出した!ダイマイマイの多くは殻の中心に致命器官を保持する。通常のカタツムリとは大きく異なる特徴だ。しかし、巨大化に付随する殻の頑丈さに特化したダイマイマイは、最も頑丈な中心部で弱点を保護するように進化した。

「殻の真ん中だな!喰らえ!」
巨大な殻の中央を狙い、バンブージャベリンを投擲するメンマ!だが!
ガイィン!!
「弾かれただぁ!?」
通常のダイマイマイの殻であれば、バンブージャベリンは安々と貫通したであろう。だが、あまりに大きく、ぶ厚い殻は撃ち抜けなかったのだ。

「くそ!どうすりゃいいんだ!?」
もはや打つ手なしか!?だが、ポテチは諦めていなかった!
「ハカセ!ポテチを投げてほしいゆ!」
「……わかった!」
すべての作戦を理解したハカセは、ポテチを放り投げようと、全身に魔力を巡らせる。
「んおおおーーー!」

「メンマ!ポテチが行くよ!」
ハカセはメンマに声をかけ、ポテチを放り投げた!
「……!よっしゃ!タイミングは合わせる!」
ハカセの声で作戦を理解したメンマは、新たなバンブージャベリンを生成。そして、白い短冊を取り出して魔力を込める。
「ササノハサラサラゴシキノタンザク!」

バンブーエルフが使う魔法は大きく二種ある。一つはバンブーを成長させ、加工し、鍛える魔法。そしてもう一つが、五色の札に魔力を込めて効果を発揮する、ゴシキノタンザクと呼ばれる魔法だ。

今回メンマが使用したのは白の短冊。白銀の名の通り、固く冷たい金属の象徴、そして、枯れゆく秋の象徴だ。
「これでも……」
メンマはバンブージャベリンに白い短冊を貼り、投擲!
「喰らえ!!」

メンマが投擲したバンブージャベリンは、金属の性質を持ち、硬質化しながらキリモミ回転でダイマイマイの中心部に直進!しかし、このままでは先程と同じように弾かれてしまう。だが、メンマは一人ではない。頼れる仲間がいる!
「ムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャムニャ」

ダイマイマイの中心部、メンマのエンチャントバンブージャベリンが届く直前。ハカセに放り投げられていたポテチは、詠唱を終えていた。ポテサラエルフの魔法は大きく二種ある。一つはポテト栽培のための畑魔法。これは戦いではあまり役に立たない。だが、もう一つは、戦闘においても恐るべき効果を発揮する。

「後は任せたゆ」
魔法の施行を完了したポテチは、ダイマイマイの中央から離れて落下する。そして同時に、その位置に高速回転エンチャントバンブージャベリンが直撃!ダイマイマイの中心部を穿とうと、高速回転で火花を散らす!
「穿けぇ!」

メンマの声と同時に、ダイマイマイの殻に亀裂が走る。メンマの魔力が成した業か?否、それだけではない。先程と比較して、明らかに"殻が柔らかくなっている"のだ。これこそが、ポテサラエルフのもう一つの魔法だ。

顎の力が弱いポテサラエルフは、食べ物を柔らかくするためにポテサラ魔法を生み出した。その結果として、ポテトをポテサラにして食べるエルフとなったのだが、"柔らかくする"という魔法の概念そのものは継承され、独自の進化を遂げた。

どのような物体であれ、魔力を注ぎ込むことができれば、”柔らかくすることができる"。それこそが、ポテサラエルフ第二の魔法だ。無論、ダイマイマイの殻も例外ではない!

ギュイイイイイイン!!エンチャントバンブージャベリン高速回転!ポテサラ魔法によって本来の強度を失ったダイマイマイの殻を、そのまま貫通掘削!!反対側へと貫通したところで、ようやく勢いを失った。

ズゥウウウウウウン!!!!
「……」
ダイマイマイは倒れた。それと同時に、ゆっくりと霧が晴れていく。大洪水の危機は防がれたのだ。

「やったぜ!!」
ぐっと拳を握りしめて喜ぶメンマだが、苦手なゴシキノタンザク魔法を使ったせいか、膝をつく。
「つ、疲れたゆ」
魔力を出しきってヘトヘトになったポテチは、大の字で地面に寝転がる。
「やったね!いえーい!」
魔力も体力も余裕たっぷりのハカセは笑う。

「おい、ハカセ」
ヘロヘロのメンマが声を振り絞る。
「なあに?」
「アタイとポテチ、村まで届けてくれよな……」
それだけ言うと、メンマはぶっ倒れた。
「ほいほーい」
メンマは二人を抱える。
「ゆ?ちょっと待つゆ!?」

「待たないよー!」
ポテチの制止を聞かなかったことにして、ハカセは全速力で山を駆け下りた。
「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆーーーーー!!」
ポテチの声が山彦となって、遠くの空まで響き渡った。

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……そして翌日。ぶっ倒れたメンマは、一晩寝たら回復して元気になっていた。水ポテトをたらふく食べて、体力と魔力を回復したポテチも元気いっぱいだ。ハカセはいつもどおり元気だ。
「皆さん、ありがとうございます」
村長が頭を下げる。

「なあに、こっちこそ泊めてもらった上にごちそうになって、ありがとうな!」
メンマが笑う。
「水ポテト、美味しかったでゆ」
ポテチも幸せそうに笑う。
「ゴブリンビーバーさんたちのこともよろしくね!」
ハカセが笑顔で、出っ歯のゴブリンビーバーのことも話題に上げる。

「はい、もちろんです」
村長はしっかりと頷く。
「ゴブリンっていうから悪いやつかと思ったけど、ダムでこの村も守ってくれてたんだもんな」
村の若者も頷く。
「ああ、アイツらのダムはすげーぜ。言葉も話せるし、異文化交流でもしてみたらどうだ?」

「それは……」
メンマの言葉に少々悩む若者。
「なに、旅エルフの方だって異種族じゃ。言葉が通じれば、対話もできるじゃろう。それに、この村の安定した水源は、ゴブリンビーバーのダムのおかげかもしれないんじゃからな」

「そう言われてみると、一年中ずっと水が流れてくるのは、ダムのおかげかも知れませんね」
「そういうことじゃ。我々ヒューマンも、知らないところで他種族の世話になっているのかもしれん、というわけじゃ」
村長は晴れた空を見上げる。そこには雲ひとつ無い雄大な山があった。

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メンマとポテチ、そしてハカセは村を後にして、街道を歩いていた。
「で、これからどーするよ?不思議な湖はアタイたちの期待に答えてくれなかったわけだけど」
メンマは笹の葉を咥えながら、二人に問う。

「目的がない旅ってのもいいもんだゆ。しばらく道なりってのはどうだゆ?」
ぽてぽてと歩くポテチが気楽に答える。そんな二人の前に立ち、後ろの方を指差すハカセ
「ほらほら!あれ見て!」

「おお……」
「ゆゆ……」
メンマとポテチが振り返ると、そこには大きな虹がかかっていた。ダイマイマイが引き起こした長雨が晴れたことを表す、大きな成果だ。

「なんか、あれを見たら元気が出てきたゆ」
「アタイもだ!」
先程の無気力はどこへやら。ポテチとメンマは元気に前を向き直す。
「さあ行くよー!」
「おう!」
「んゆ!」
ハカセの号令に、二人が力強く返事をする。三人のエルフの旅は、まだまだ続く!

バンブーエルフ2周年とくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~大洪水を止めろ!~】

おわり
(感想ハッシュタグは #エルフ三人娘 だと拾えるので嬉しいです)

以下、参考の集団幻覚


サポートされると雀botが健康に近づき、創作のための時間が増えて記事が増えたり、ゲーム実況をする時間が増えたりします。