全日本高校女子からあげバレー選手権ラジオ中継

「さあ、いよいよ始まります。全日本高校女子からあげバレー選手権エキシビジョンマッチ。実況は私、鳥栖木(とりすき)。解説はおなじみ、元女子からあげバレー日本代表監督、揚見澤(あげみさわ)さんに来ていただいております。揚見澤さん、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「本日は、名古屋国際山ちゃん学院付属高校、対、新潟市立関取高校の対戦となります。揚見澤さん、どう見ますか?」

「両校ともに地元のからあげに誇りを持つ名門ですからね。バレーはもちろん、からあげの面でも名勝負が期待できます」

「なるほど。……そうこうしているうちに、両校の試食用からあげが仕上がりました。山ちゃん付属はおなじみの手羽先揚げ、関取高校はほぼ素揚げの骨付き肉です」

「関取高校の地元でからあげといえば半身ですが、ルール上不可能なので小さくしているわけですね。しかし、『無駄をなくす』という半身揚げの精神は受け継いでいます」

「さあ、味覚審判員が両校のからあげを味見して……両校共に安全可食の判断が出ました。味覚審判員、少々悩みますが……味覚審査の結果、山ちゃん付属の先行となりました」

「6点先取制のルールですと、どうしても先行が有利ですからね。味で判断ということになります。ですが……」

「ですが?」

「味覚審判員と言っても味には好みがありますから、関取高校の味が山ちゃん付属に完全に劣っているわけではない、ということは理解していただきたいところです」

「はい。そのとおりです。私が味覚審査員なら関取高校のからあげに軍配を上げていたかもしれません。そうこうしているうちに、山ちゃん付属のフライヤー(からあげを揚げる選手)が手羽先を揚げています」

「いい手付きですね」

「山ちゃん付属のフライヤーは留学生のデラウマ・ケンタッキー選手、17歳。地元のフライドチキン店で生まれ育ち、日本のからあげ文化を知るためにアメリカから留学してきたという、意欲的な選手です」

「骨ごと揚げるという点ではフライドチキンに近いものがありますからね。ぜひ日本のからあげ文化を学んで持ち帰って欲しいところです」

「さあ、手羽先が揚がりました!こんがりといい色をしています!ここに山ちゃん付属秘伝のスパイスをふりかけました!」

「いやあ、あれは間違いなく美味しいですね」

「山ちゃん付属、揚げたてを冷ますこと無くそのままミトンを手にしたサーバーにパス!サーバーが大きく手羽先を上にほおり投げ……打ち込む!」

スパァン!(手羽先が打ち込まれる音)

『ナイ!(『温度が高すぎてまだ食べることができない』ということを味方に伝える言葉。『食べられない』を省略したもの。)』

「関取高校レシーバー受けて高々と手羽先が舞う!イーター(からあげを食べることができる選手、1コートに常に1人)はナイを聞いてコート外に下がる!間髪入れずにスパイカーが手羽先を打ち返す!」

スパァン!(手羽先が打ち返される音)

『ナイ!』

「山ちゃん付属、捕食できないと判断するが、ややもたついている……どうにか手羽先を返した」

『ル!(『適温まで冷めたので食べることがでる』ということを味方に伝える言葉。『食べられる』を省略したもの。)』

「関取高校これはチャンス!レシーバーが高々と打ち上げた手羽先をイーターが待ち構え……口でキャッチ!」

「変則的な形の手羽先をきれいにキャッチできるのは素晴らしいですね」

「一度口でキャッチすれば手を使えます。両手で手羽先を折り、丁寧に肉を歯でそぎ取っていきます」

「捕食時間は10秒ですが、これは余裕でしょうね」

「関取高校イーター、手羽先をほぼ骨だけの状態にして肉を飲み込み、口を大きく開いて完食を審判にアピールし……旗が上がった!関取高校先取点!」

「いやあ、素晴らしい食べっぷりですね」

「関取高校イーターは3年のベテラン、押揚(オシアゲ)選手。今日のために先週1週間毎日手羽先の早食いを練習してきたそうです」

「飽きないというのもイーターにとって重要な資質ですからね。そこのところは期待できるでしょう」

「関取高校のフライヤー、関 採光(セキ トリミツ)選手、16歳。じっくりと骨付き肉を揚げていきます。関選手は半身揚げの元祖である鳥専門店せきとりの血縁にあたるそうです」

「1年生とは思えない落ち着いた揚げ姿ですね。今後の成長に大いに期待できます」

「さあ、骨付き肉が揚がったようです。素晴らしい色合い。ほんのりカレー味の香りがこちらにも漂ってきます。おっと、揚げてから少し冷ますようですね」

「揚げたてを打ち込むのがセオリーですが、太い骨がある肉や脂身が多い場合は自コートに帰ってきたときに捕食できるように温度を調節しますから、おそらくそれが狙いなのでしょう」

「たしかに、関取高校の用意した肉は鳥の半身をぶつ切りにしたもの。部位によって揚がり具合や温度調整がむずかしいところです。フライヤーが手のひらをかざし、温度を確認します……サーバーに投げた!」

「なるほど……」

「サーバーが大きく骨付き肉を上にほおり投げ……打ち込む!」

スパァン!(骨付き肉が打ち込まれる音)

『ナ……ル!ル!』

「レシーバーがナイと言いかけたがとっさにルに変えた!イーターがからあげの落下地点に走る!間に合うか!?……間に合った!捕食しました!イーター美味しかったと言わんばかりの笑みで口を大きく開けています!」

「山ちゃん付属のイーター、百雲 楠(もぐも ぐす)選手は反応が良い選手ですね。そしてレシーバーの判断も素晴らしかったですね」

「はい。関取高校のからあげにはさまざまな部位がありますが、1揚げ目はまさかの捕食しやすい手羽元でした。コレは意表をついてきましたね」

「変幻自在の半身揚げと呼ばれて恐れられている関取高校ですが、今回ばかりは裏の裏を読まれたと言ったところでしょう」

「これで1-1となりました。エキシビジョンマッチにふさわしく、お互いにドロップなしの素晴らしい試合運びです(捕食に失敗してコート上に落としてしまったからあげは『ドロップ』と呼ばれ、名門校のドロップは高値で取引される)」

「いやあ、今年のエキシビジョンマッチも見どころ満載ですね!」

「はい!さあ!興奮冷めやらぬまま、再び山ちゃん付属のサーブ権となります」

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