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黒い魔術は死を喰らう:第1話
行灯の光がぼんやりと、だが、決して暗すぎず、地下街を照らす。ここは東京のはるか地下深く、有象無象の魔法の店が集う、魔術師が集まる取引所だ。
一人の女が、1軒の屋台の前で足を止める。屋台には、なにやら黒く干からびた、指の長さくらいの棒きれが、ずらりと並んでいる。
「30年モノが1本欲しいのだが」
その女魔術師、”アカネコ”は、舐め回すような視線で品物を吟味する。
「30年モノなら、ここらへんがど
黒い魔術は死を喰らう:第2話
”アオカラス”が取り出したその本は、奇妙な皮のハードカバーで、大きなファイルのようにも見える。開くと、何かの声のような音とともに、ひとりでにページがめくられる。
「今回の仕事は回収だ。ただ、どうやらムシが湧いているらしい」
「うえ……虫が湧いてるって、そんなのもう価値ないんじゃないですか?」
「はぁ……」
”アカネコ”の的はずれな質問に、”アオカラス”はさぞがっかりしたといった感じで、大仰にため
黒い魔術は死を喰らう:第3話
”アオカラス”と”アカネコ”は、仄暗い地下街の裏路地を通り、”渡り鳥の間”へとやってきた。
「これはこれは、”アオカラス”先生!遠出ですか?」
迎え入れたのは、若い魔術師だ。
「今回も世話になるよ。”シロモグラ”君。”ハイユリカモメ”は元気かね?」
「はい!相変わらず師匠は元気で、あっちこっち飛び回ってますよ」
「ハハハ、それは結構。いずれはキミがトリになる。今のうちによく学ぶといい」
”アオカ
黒い魔術は死を喰らう:第4話
”アオカラス”と”アカネコ”、二人の魔術師は、立入禁止のテープが張り巡らされた廃墟へとやってきた。廃墟の周りには、複数の警察官が立ち、警備を行っている。
「やあ、ご苦労さま」
「お待ちしていました、こちらです」
警察官の案内で、2人は廃墟の中に入る。
「警部!魔術協会の方がお見えです!」
呼ばれた警部が振り返る。くたびれたコートを着ているが、現場を歩き回っている経験豊かな証拠でもある。
「おー
黒い魔術は死を喰らう:第5話
人の生きた経験は蓄積され、それは死後も肉体に残る。黒魔術師は、残された経験を引き出す。それこそが魔法。死体がなければ魔法は使えない。故に、このような事件が起こる。死体目的の殺人だ。
「で、結局は私の仕事なんですよね?」
「ああ、もちろん。他に誰がいる?」
”アカネコ”の不機嫌な問いに、”アオカラス”は顔色ひとつ使えずに答える。いつものことだ。
「ハァー……、わかりましたよ。『トリは見渡し、ケモ
黒い魔術は死を喰らう:第6話
"アカネコ"の呪文に反応し、サシの関節が曲がる。それは、一つの方向を指差した。”アカネコ”は廃墟を出て、サシの指し示す方角に向かって歩き出した。残された”アオカラス”は、警部に事情を聞く。対話によって知識を得ること。これも魔法使いの力を蓄える方法だ。
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廃墟を後にした”アカネコ”は、サシの指し示す方角を見る。廃墟の裏は手入れされていない雑木林だが、よく見ると、人が何度も通っ
黒い魔術は死を喰らう:第7話
”アカネコ”は、小屋の中の声に意識を向ける。
「俺もこれで、魔法使いなれる。今に見ていろよ。俺をコケにした奴らめ……」
小屋の中からは、ずっと独り言が聞こえてくる。誰かと話しているような気配はない。
”アカネコ”は考えた。小屋の中の男は、まだ魔法を使えないだろう。もし、すでに魔法が使えるのであれば、『魔法使いなれる』とは言わない。何らかしらの方法で、死体で魔道具を作る方法を知ったのだ。となれば、
黒い魔術は死を喰らう:第8話
”アカネコ”に声をかけたのは、”アオカラス”だった。
「やれやれ。ここにたどり着くのはなかなか骨が折れたぞ」
かなり無理矢理に藪をかき分けてきたのか、”アオカラス”の体や頭や顔には、枯れた葉っぱがいくつもついている。
「相当厄介なムシがついたようだ。結界を貼るとはな」
「結界?そんなのありました?」
”アカネコ”には何のことかさっぱりわからなかった。
「いいか?この小屋にはな、人よけの結界がは
黒い魔術は死を喰らう:第9話
マルは小屋の奥、暖炉の煙突に吊るされていた。魔道具制作の一般的な方法の一つ、燻製だ。
「ふむ……手荒だが、よくできている。そのまま持っていっても問題ないだろう」
”アオカラス”はなれた手付きでマルを煙突から引きずり出すと、赤黒い液体と羽ペンで転送魔法の印を手早く刻む。
「……これでよい」
印を刻み終わると、マルは姿を消した。東京地下深くの魔術協会本部へと送られたのだ。
「それじゃさっさと行き
黒い魔術は死を喰らう:第10話
”アオカラス”の誘導魔法に従い、羽の指し示す方向に向かって二人は進む。だが、指し示す方向は目的地そのものだ。
「ぐえぇ、また草むら!」
つまり、回り道があっても真っ直ぐ進むしか無い。
「というか、なんで私が先頭なんですか!?」
「つべこべ言うな!追跡魔法を切らさないようにするためにはな、高い集中力が必要なんだ。ほら、さっさと進め!」
先頭で草むらをかき分ける”アカネコ”は文句が絶えない。”アオカ
黒い魔術は死を喰らう:第11話
”アカネコ”はとっさに動こうとするが、警部の拳銃が向けられて動きが止まる。
「そうだ。いい子だ。そのまま動くなよ」
「なんで警部が……」
「いや、あいつは警部じゃない」
「え?」
「あいつがムシなんだよ。いつ入れ替わったのかはわからんがね。僅かだが、マルを燻した特有の匂いがする」
「ハッハッハ。そのとおりだ……と言いたいところだが、キミの推理には少々ミスがある」
”アオカラス”に正体を見破られ
黒い魔術は死を喰らう:第12話
「ヤツの心臓を狙え!弾丸を取り出すんだ!」
「はい!」
二人は短い作戦会議を終わらせると二手に分かれる。
「グガアアア!」
「こっちに来たかよ!」
”アカネコ”は毛の生えた干からびた棒を手に取り、一瞬もったいないと思ったが、そんな事を言っている場合ではないと考え直し、呪文を唱える。
「”チェン・キャッ・ミド”!」
クサが大きく腕を振り上げ、”アカネコ”を殴り抜ける!だが、その拳は空を切った。
黒い魔術は死を喰らう:第13話
”アカネコ”とクサの眼の前に”アオカラス”が駆けつける。その右手には、干からびた黒い5本指の鉤爪のようなものを持っている。
「”取り除け”!」
”アオカラス”の呪文に答えるように、5本指の鉤爪はミシミシと動き出し……クサの心臓に向かって一直線に伸び、突き刺さった。
「グ……」
鉤爪はクサの心臓をえぐるように動き、そして埋め込まれた骨を引き抜いた。クサはそのまま倒れ込み、もはや動かなくなった。