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【小説】番外・コーヒーブレイク

「白澤さん、何頼みます?」
「シーズンのものがいいな……抹茶ホワイトチョコレートだって。これにするよ」
 外出して一仕事終えた帰り、あまりの寒さに音を上げてカフェに飛び込んだ。
 この時期は外仕事が堪える。そこまで寒がりではないが、昨年が温かい冬だったからか余計寒さが辛く感じるのかもしれない。
 たまたま空いていたソファー席を抑えられたのはついていた。寒いのは俺だけではなく、冬のカフェは混みがちだ。こういう時に連れがいると楽で、白澤さんに待っていてもらう代わりに俺が注文にいくことにした。
「フラペチーノとホットがあるみたいですけど」
「ホットにしようかな」
 それじゃよろしく、と白澤さんの財布と共に送り出される。こういう時、俺の財布から金が出て行ったことは一度もない。白澤さん曰く、レシートを貰ってきてくれれば大丈夫だと言っていた。俺はそのあたりの処理はわからないから、なるほど、とそれに甘えている。
 注文は滞りなく進み、自分のアメリカーノと白澤さんの抹茶ホワイトを抱えてソファーに戻る。ほのかにお茶の匂いと、甘ったるいチョコレートの匂いがする。
「お待たせしました」
「おかえり、早かったね」
「いいタイミングだったみたいです」
 店内は客がちらほらといるだけで、新たに入店する人は見えない。どうやらちょうど客の切れ目に入店したらしい。
「白澤さんの、すごい甘い匂いします」
「ホワイトチョコレートは甘いだろうね……」
 ソファーに腰を下ろし、甘い匂いのカップを白澤さんの方へ置く。俺の手元にあるカップからは、香ばしいコーヒーの匂いしかしない。
「白澤さん、何でも食べますよね」
 甘いのも辛いのも、と付け足して言えば白澤さんは微かに笑った。
「新しいものが好きなんだ」
「……季節限定とかも?」
「いろんなことを考えて作られているなあと思って」
 白澤さんは人間が好きだと言っていたし、人間が考えて作ったものも好きなのだろう。俺は新しいものを目にはするけれど、好んで選ぶ方ではない。
「美味しいね」
「……そうですね」
 甘い匂いがする。ひとりのときなら知らなかった匂いだなと思いながら、自分のカップに口を付けた。