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【小説】#15 怪奇探偵 白澤探偵事務所|百乃と日菜子のお菓子の家

あらすじ:事務所の前に降り積もるイチョウの葉を掃除していた野田の前に、青い珊瑚のかんざしについて依頼をした百乃と日菜子が現れる。いつになく元気のない彼女たちに声をかければ、お菓子の家を一緒に作って欲しいと言う。事務所に迎え入れ、事情を聴いてみることにしたのだが――。
シリーズ1話はこちら https://note.mu/suzume_ho/n/nd6bc9680df73

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 紅葉と言えば秋だが、新宿のイチョウが見事に色づくのは決まって十二月を過ぎてからだ。
 クリスマスが近づくと、事務所の前にイチョウの葉が降りしきる。枯れ葉の山に馴染みの依頼人――丸井さんが足を取られたことがあって、決まって朝一番と、日が沈む前の掃除が欠かせない。
 近頃、日没の時間はずいぶん早くなった。冬至が過ぎれば日も長くなるのだろうが、このところは十六時頃に外へ出ると真っ赤な夕焼けが目に入る。そこにイチョウの葉を集めていくのは、赤と黄がそろって結構いいな、なんて掃除をしながら考えていたりする。
 枯れ葉を集めると、案外まとまった山になる。これらは燃えるゴミとして処理されるため、まとめてゴミ袋に移し替えてやらなければならない。チリトリで枯れ葉の山を袋に移している最中、近くにふと人影が表れて止まった。
 顔を上げれば、そこには以前珊瑚のかんざしの依頼をしてくれた少女――百乃さんと、日菜子さんが立っていた。日菜子さんは学校の帰りらしく、制服に身を包んでいる。気になったのは、彼女たちの表情の暗さだった。近くまで来たからと顔を見せてくれることは今までにもあったが、今日はただ挨拶に来たわけではなさそうだなと何となく思う。
「こんばんは、今日はお出かけですか?」
 声をかければ、百乃さんはぶんぶんと首を横に振る。やはり、何かあったらしい。もしかしたらまた依頼したいことがあるのかもしれない。百乃さんの隣にいる日菜子さんは、小さな手提げの紐をぎゅっと握りしめている。
「では、オーナー呼んできますね。事務所の応接ソファーにどうぞ」
「違うの、今日は白澤じゃなくて助手くんにお願いしたいことがあるの!」
 思いもよらない言葉に、ゴミ袋と箒を握ったまま呆然と立ち尽くしてしまった。
 オーナーではなく、俺にお願いしたいことがある。いったい何の依頼なのか見当もつかない。俺にですか、とそのまま疑問を口にすれば、日菜子さんが手提げを差し出してぺこりと頭を下げた。
「お菓子の家、一緒に作ってくださいっ」

 お菓子の家というのは、言葉のままお菓子の家のことなのだろうか。それとも百乃さんがあちらから持ち込んだものにそういった品物があるのだろうか。混乱しながらも二人を事務所の応接ソファーに通し、詳しく話を聞くことにした。
「……では詳しくお伺いしても?」
 オーナーが切り出すと、日菜子さんは手提げ袋から大きな封筒を取り出し、中身を拡げる。テーブルの上にクッキーのレシピの切り抜きとトレーシングペーパー、お菓子の家のパーツの型紙が並んだ。
「日菜子の家では、クリスマスにお菓子の家を建てるんです。今年は百乃さんとやってみたらと母に勧められて、この間ふたりで作ってみたのですが……うまくいかなくて」
 クッキーのレシピには日菜子さんのお母さんが書いたらしいメモが張り付けられている。焼きあがったら重しを乗せて屋根をまっすぐにすること、アイシングはめげずに混ぜること、倒れそうになったらしばらく待つこと、と作っている間に起きそうなトラブルに対処するには十分な助言が並んでいる。アイシングが固まる前にさわって崩れてしまうとか、盛りをがんばりすぎて組み立てきれないとか、そういう具合だろうか。うまくいかないというのがどの部分のことかわからないとどうにも手の貸しようがない。
「どういう風にうまくいかないんですか?」
 尋ねてみれば、百乃さんがしょんぼりと肩を落として首を横に振る。
「ヒナはできるの……わたしができないの。こんな感じになっちゃって……」
 百乃さんはしょんぼりしたままケータイを差し出す。写真には、木っ端みじんに砕け散ったクッキーの破片の山としょんぼりとテーブルに突っ伏す百乃さんが写っている。日菜子さんの手が優しく頭を撫でているそれは微笑ましいのだが、木っ端みじんになってしまったクッキーはなかなかインパクトがある。これは落として欠けたとか、上手く焼けなかったとかそういう感じではない。握りつぶしてしまった、というのが一番近い気がする。
「これは……力みすぎて?」
「扉と壁をくっつけるとき、何だか力が入りすぎちゃって……」
 隣で同じ写真を見ていたオーナーが腕組みをして少し考え込むような仕草をした。何か、心当たりがあるのだろうか。ちらと表情を窺えば、オーナーは百乃さんをじっと見つめて少し困ったような顔をしている。
「……馴染むまで、細かい作業をするのは簡単ではありませんから」
 言葉を聞いてはっとした。俺も日菜子さんも、百乃さんが人間でないことを知っている。今は少女の姿をしているけれど、本来の姿とは違うのだ。オーナーの言葉のニュアンスからして、どうやら人の体に馴染むまで様々な動作に困難が伴うらしい。つまり、俺や日菜子さんが自然にできる指先の力を調節するということが百乃さんにとっては難しいことなのだろう。
「……わたしもヒナと一緒に作りたいけど、できなくて」
 百乃さんがしょんぼりと肩を落としているのを見るのが忍びなく、どうすれば彼女の悩みを解決できるだろうかと考えてみる。
 クッキーが木っ端みじんになってしまうということは、彼女も言っている通り力が入りすぎているのだろう。なぜか。丁寧にやろうとして、体に力が入りすぎているのではないだろうか。緊張している、というのが正しいような気がする。日菜子さんと一緒にやりたい、失敗したくない、という気持ちと、何度やってもクッキーを砕いてしまう焦りで堂々巡りになっているような気がする。
 もし緊張が原因だというのなら、緊張しないように何度か練習することでよくならないだろうか。
「オーナー、あの、こういう手作業を何度か行うことで慣れる……というのはできますかね?」
「そうだね。力加減を調節することに慣れればそう難しくはないと思う」
「わかりました」
 オーナーの言葉を聞いてほっとする。時間が経たないとどうにもならないわけではないのなら、百乃さんが十分に練習できる環境を用意すればいいのだ。つまるところ、俺のやるべきことはいくら砕けても問題がないようにお菓子の家を作るためのパーツを焼く、ということになる。
 二人へ向き直る。今日はずっと、不安げな表情のままだ。お菓子の家を作ることを楽しみにしていただろうに、このままクリスマスを迎えさせたくはないと思った。
「では、お二人の依頼をお請けします」
 百乃さんと日菜子さんは、顔を見合わせてからお互いの手をとってにっこりと微笑む。ようやく暗い表情ではなくなったと俺もほっとした。
「俺と一緒に作るというか、作ることに慣れるのがいいと思います。日菜子さん、型紙お借りしていいですか?」
 日菜子さんがテーブルに出してくれたお菓子の家の型紙を預かる。一度型を作っておけば、同じものを用意するのはさほど難しくない。むしろ俺の仕事となる部分はそこだけなので、依頼の内容自体はとてもシンプルなのだ。
「俺がこの型紙でいっぱいクッキー焼くので、それで練習しましょう」
「たくさん必要だと思うけど……いいの?」
「大丈夫です。俺、そういうのは得意なので」
 百乃さんはほっと安堵した様子で、日菜子さんはとても嬉しそうに俺の顔を見て頷いた。まさか、自分がこういう風に依頼人を安心させるように話すことになるとは想像していなかった。今更驚くようなことではないかもしれないけれど、依頼を請けるというのは自分を頼ってくれた人を安心させてあげることなのだと気づく。依頼人――ふたりの役に立てばいい、と思った。

 百乃さんと日菜子さんの都合が良い休日に、と約束をして二人を見送った。さて、早速支度をしなくてはと事務所に戻るとオーナーがにこにこと微笑みながら俺を見ている。あまりにわかりやすい笑顔だったからか、妙に気になってしまった。
「どうしたんですか、なんか顔が……ゆるいですけど」
「いや、野田くんを指名したお仕事ははじめてだな、と思ってね」
 オーナーにではなく、俺に依頼したいと言われたのは初めてのことで、言われてみれば確かにそうなのだけれど気が付いていなかった。俺ができることで役に立てるならそれがいいと思っていたし、依頼を請けて仕事としてやるのはいつもと変わらないから意識していなかったのだ。気が付いてしまうと何となくくすぐったい気持ちになる。
「得意なことで頼られるのは嬉しいね」
「……お菓子作るとかより、体動かすほうが得意ですけどね」
 それは私が君に頼んでいることが多いね、と言ってオーナーはまだ微笑んでいる。確かに、事務所の整理整頓とか、昨年と同じように届く鑑定依頼物の整頓だとか、届け物や郵便局へのお使いとか、事務所の中では体を動かすことを頼まれることが多い。
 普段の仕事のことはおいておくとして、オーナーのご機嫌な様子は少し珍しい。少女ふたりの依頼を請けたことが喜ばしいのか、それとも俺を指名した依頼があったことがよかったのか、どちらでも何となく気恥ずかしい想像で、直接オーナーに聞こうとは思わない。
「私に何か手伝えることがあったら言って」
「クッキーをたくさん焼くと思うんで……一緒に消費してくれますか?」
 お安い御用だよ、と言うオーナーは、やっぱりまだ微笑んでいた。

 約束の日、期待と不安のないまぜになったような顔をした百乃さんと、うきうきとした様子の日菜子さんが事務所に訪ねて来た。キッチンをレンタルすることも考えたけれど、時間貸しの場所で焦らずに取り組むというのは緊張を増すだけなのではと思い、オーナーに相談して二階のリビングでやることにしたのだ。
 二人を部屋に通し、早速練習の支度として二人の前に堅パンを並べる。二人は堅パンを初めて見たらしく、手に取って珍しそうに眺めた。どの仕事をしているときだったか、バイト仲間に貰ったことがある。あまりに固くて記憶に残っていたのだ。
「最初はこれで練習しましょうか、落としても割れないくらいなので」
 堅パンを手に取り、皿に軽く当てるとカチンと音がする。奥歯を使ってようやく食べられるほど固いものだから、練習にはちょうどいい。最初から本番と同じクッキーを使うのではなく、まずは堅くて割れづらいものを使って組み立てる練習をしてもらおうと思ったのだ。オーナーからも、練習をするならそれがいいとお墨付きをもらっている。
「うまくできなかったらどうしよう……」
 百乃さんは、いつもの元気はどこへやら俯いたままでいる。日菜子さんも心配そうにしていて、やはり何度やってもうまくいかなかったというのが気になっているらしい。失敗してしまった、というのは案外心に引っかかって残るものなのだ。俺にも覚えがある。
「そのための練習ですから。大丈夫です、たくさん練習できるように準備してありますから」
 堅パンの予備は潤沢だし、本番に使うのと同じクッキーは足りなくなったらすぐ焼けるように準備してある。だから練習で何度失敗しても大丈夫なのだと伝えたいのだが、失敗を歓迎していると伝わって欲しいわけではない。とにかく大丈夫ですと言えば、百乃さんはくすりと笑った。
「助手くん、今日はよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
 空気が和らいだのがわかる。日菜子さんと百乃さんがそろって手を伸ばす。うまく組み立てられない、という百乃さんの不安を軽くさせられたのだろうかと、二人の手元を見守った。

 百乃さんの指先は、思いのほか繊細な作業が苦手なようだった。
 持ち上げて並べることはできても、接着しようという段階になると指が力んでしまい端から砕けてしまう。抑えるとか持ち上げるだけなら問題ないのだが、接着する面に別のものをくっつける、というのが難しいようだ。
 本番はアイシングクリームを使うことになるだろうけれど、今は練習なのでチョコペンを使って接着の練習をしている。割れた堅パンを使って何度か繰り返してはみたが、一人だけでやろうとするとうまくいかないようだ。逆に言えば、一人ではなく、二人でやればできるのだ。
「日菜子さん、百乃さんの堅パンを支えてもらえるかな」
「わかりました!」
 別の作業をやりながらだとうまくできないというのであれば、協力する人がいれば良い。日菜子さんが支えているものに、百乃さんの持つ面をつけるだけなら並行作業にはならないだろう。二人は息を止めんばかりにそうっと堅パンを立ててぴたりとくっつける。そっと手を離せば、くっつけたそれは割れずにその場に立っている。
「で……できたわ助手くん、ヒナ!」
「モモさん、良かったです!」
「このまま残りの面やってもいい?」
「はい! やりましょうモモさん!」
 うまくいった、と手を握り合い、すぐさま次の工程へ取り掛かる二人を見てつい口元が緩む。昨日のオーナーと似たような顔をしているかもしれない。頬をかいて、二人を見守るのに戻る。
 他の面をくっつけてみること数回、百乃さんの指先の力はだいぶ抜けてきた。日菜子さんの助けを得ているのもあるけれど、明らかに砕ける堅パンの数が減ってきている。この調子なら、間に用意していたクラッカーや別のクッキーは必要ないかもしれない。
「この感じなら、クッキーでもいけそうですね。やってみますか?」
 尋ねてみれば、二人は顔を見合わせてこくりと頷く。あとはすぐにできるようになるだろうな、という確信があった。一人でできないなら二人で、というのが身についてしまえばさほど難しいことではないのだ。

 堅パンをお菓子の家を象るクッキーに変え、何度か組み立てを繰り返す。クッキー同士をくっつけるときに力を入れすぎて割れるだとか、接着に使っているチョコが固まっていなくて倒れてしまうとか、そういった失敗を越え、昼過ぎにはお菓子の家と呼ぶにふさわしい形ができあがるようになってきた。
「助手くん、もう一つできた!」
「できました!」
 冷蔵庫には組み立てに成功したお菓子の家が二つほど並んでいる。今出来上がったもので三つになる。接着に使ったチョコが固まれば、このままデコレーションが出来そうだ。
 日菜子さんと百乃さんが互いを讃え合いぱちぱちと拍手をしている。慣れだよ、とオーナーの言っていた通り、何度も繰り返し同じ手順を繰り返すことで加減を指先が覚えたらしい。うまくできるか不安そうだった百乃さんは、今やすっかり自在にお菓子の家を建築できるようになっている。日菜子さんがそれを見ているのも、なんだか微笑ましい。
「これで本番も大丈夫だと思いますよ。今日の感じでいけば……」
 日菜子さんがはっとして時計を見た。それから、百乃さんの袖を引いて耳元にそっと手を添える。百乃さんは日菜子さんの言葉を聞いてから、あっと声を上げた。何かあっただろうかと様子を窺えば、二人は変わらず笑顔のままで顔を見合わせてから、俺へ視線を投げた。
「本番、今日これからなの!」
「日菜子のおうちで、母と作るんです」
 なるほど、百乃さんがうまく作らなければとか、失敗に対してプレッシャーを感じていた理由がようやくわかった。人ではないということを知っている俺や日菜子さんの前と違い、日菜子さんのお母さんがいるとなれば普段と状況が異なる。人ではないことを話すわけにいかないし、とはいえお菓子の家を作るのを全く手伝わないのもおかしい。かといって、クッキーを粉砕してしまうのであればせっかくのパーティの空気を壊してしまう。
 二人はぱたぱたと帰り支度を始めている。日菜子さんは散らかったままのテーブルを見て、困ったような、焦ったような顔で俺を見上げた。
「あのっ、野田さん……お片付けはどうすればよいでしょうか」
「俺がやっておくから気にしないでいっすよ。そろそろ時間なんでしょう?」
 時計を見て思い出したということは待ち合わせをしているとか、日菜子さんのお母さんが帰ってくる時間とかなのだろう。依頼人に片付けをさせるわけにもいかないし、お菓子の家が作れるようになった以上、依頼は完了している。
「……ありがとうございますっ! しっかり作ってきます!」
「助手くん、本当にありがとう! あとで写真、送るね!」
 支度を終えた二人は、もう大丈夫とばかりに外に飛び出していく。そこに、依頼のときに見た不安そうな顔はなかった。そろそろ日が沈む頃の、うす暗い新宿しょんぼりと立ち尽くしていた彼女たちではなかった。
「写真、楽しみにしてますから!」
 はあい、と元気な返事が返ってくる。昼間の明るい街に、きらきらとイルミネーションが光る。そういうもののほうが、彼女たちに似合っている。もう不安でないのなら、できると自信を持てたのであれば、俺は彼女たちの役に立ったのだと思う。

「野田くん、お疲れ様」
 リビングの片付けに戻れば、砕けた堅パンやら、使わなかった予備パーツのクッキーをつまんでいた白澤さんがいた。残ったクッキーを使って、白澤さんもお菓子の家を作っていたので笑ってしまった。とりあえず一息つきたくて、ソファーに腰を下ろす。
「今回は全部野田くんにお任せしてしまったね。私にできることがあったらよかったんだけど」
 お菓子の家にチョコペンで模様を書きながら、白澤さんがぽつりとつぶやく。できることがあったらと言いつつ、どうすれば百乃さんの指先が動作に慣れるとか、堅パンの手配であったりとか、白澤さんに協力してもらったことはたくさんある。俺ひとりで出来た仕事、というわけではない。
「いや、白澤さんがやって覚えるのが良いって教えてくれたからですよ。それに、俺はクッキー焼いただけですし……色々、フォローありがとうございました」
 御礼を言えば、白澤さんはお菓子の家のデコレーションをする手を止めて、俺をじっと見つめてから小さく笑った。
「……うん、そうだね。よかった、野田くんの初依頼が無事に終わって」
 白澤さんが満足げな顔でチョコペンを手放す。屋根の模様だの、窓枠だの、ドアノブがしっかり書き込まれたお菓子の家が出来上がっている。何というか、何でもできる器用な人なのだなと何度も認識しなおしてしまう。
「百乃さん、上達が早かったね」
「本番も上手にできればいいんですけど」
 最後に彼女たちが残したお菓子の家は、チョコペンで接着しただけなのに案外しっかり固まっている。接着にチョコを使うから暖房を控えめにしていたのがよかったのかもしれない。冷蔵庫にはすでに家が二つあるから、これは食べてしまうことにして屋根に手を伸ばした。ココア味のクッキーは、食べなれた味がする。
「……前に一度作ったことがあってよかったです。こうだよなってわかるというか……」
 妹にねだられて一度お菓子の家を作ったことがあってよかった、と何となく思う。全く経験したことがないとか、知らないことだと力になれたかどうかわからないだけに役に立ってよかった。白澤さんもお菓子の家の屋根を摘まむ。
「うん、野田くんは上手に教えられていたと思うよ。……お茶飲むかい?」
「あ、欲しいです。白澤さんと同じので大丈夫です」
「わかった、座って待っていて」
 はい、と返事をして目の前にあるお菓子の家を見つめる。出来上がった瞬間の二人を思い出し、じんわりとよかったなという気持ちが湧いてきた。二人の依頼に応えることができたという安堵と共に、クッキーを齧る。キッチンからコーヒーのいい匂いがする。二人から送られる写真が今から楽しみで、また口元がゆるんだ。