デスクワーク女性

カラダを蝕む影の暗殺者「座りすぎ」から自分を守る4つの方法

「座ることは新たな喫煙」とここ数年で特にいわれはじめ、多くの方が座りすぎは良くないんだと認識されていると思います。


しかし、すぐに身体が悪くなるわけでもなく、せいぜい肩がこる程度のことだと見逃しがちです。


近年、座り過ぎについては様々な研究(1)(2)(3)がされており、世界保健機関(WHO)においても「座り過ぎは、世界中で毎年200万件の死亡を引き起こしている」し、予防できる死亡原因第4位にランクされています。


また、日本人の1日あたりの座る時間は、アメリカや中国などの5時間に比べ、7時間と長くなっています。


さらに、フィットネス参加人口という観点で見ても、日本人は3.3%と欧米諸国(アメリカ17.4%、ドイツ11.0%)に比べると低めで、数十年変わりなく推移しており、運動習慣が獲得されているとは言い難い状況です。


最近あまり体を動かしていないなぁと心当たりのある方も多くいらっしゃると思いますが、これは概ね日本人全体に当てはまることなのです。


この記事は、なぜ座りすぎることや動かないことが体に良くないのか、どの様にすれば良いのかをお伝えし、あなたがより良い毎日を送るための一助となる事を目的にしております。



▽目次
・なぜ座りすぎてはいけないのか
・自ら習慣を作るしかない
・座りすぎリスクから身を守るには                      
・車椅子の方の場合
・まとめ

☆この記事は、10分で読めます




なぜ座りすぎてはいけないのか

要因は細分化すると多く考えられますが、ここでは3つ取り上げてみたいと思います。


①筋骨格系に慢性的な負荷をかけ、身体機能低下や発痛物質を生じさせる

スランプシッティング(slump sitting、写真下)と呼ばれるダラッとした姿勢は、姿勢を保持するのに役割を持つ体幹筋(腹筋群や横隔膜、骨盤底筋など)や、下半身の筋肉を使わない状態に陥ります。




体幹筋の機能低下により、正常な姿勢が取れなくなり猫背になります。


正しく立つことが出来ない状態は、ヒトとしての機能を失っているといえ、様々な身体の不調に繋がります。


例えば、正しく立てないことは体の緊張度を高め交感神経優位となり、不必要に心拍数、心拍出量(心臓が送り出す血液量)、血圧をあげ、また体の回復を阻害します。


座り姿勢は、第2の心臓と言われるふくらはぎの筋肉が使われないため、足に血液が滞留し心臓への負荷やむくみに繋がります。


また、頭が前に出た状態の座り姿勢は、肋骨が潰れ、肺の拡張と横隔膜の機能を阻害します。(横隔膜は吸気の80%を担うとても重要な筋肉)


適切な呼吸パターンは失われ、浅く早い呼吸や首肩へのストレスを増大し肩こりや首の痛みに繋がります。



②動いていない状態と変わらないため、生活習慣病のリスクとなる

数々の研究から明らかになっていますので多くの方がご存知だと思いますが、適度な運動は心臓血管系に良い影響を与え、運動不足はリスクを高めます。


多くの生活習慣病は、血管の健康と関係があります。


運動は、血管の内皮細胞(血管の内側部分)の機能を改善し、血管系のトラブルを回避します。


その他、もちろん座り過ぎによる単純なカロリー消費の低下による肥満もリスクとして挙げられます。



③脳への刺激不足となり、機能を低下させる

体の機能すべてそうですが、脳は筋肉のように使えば成長し、使わなければその機能を失います。


身近なところでは、アウトプットしない知識は不必要と判断し記憶が薄れます。


脳の役割は思考する、感情を抑制するといった高次機能をはじめ、本能的な生命活動の維持など様々ありますが、体を動かすという大役を持っています。


体を動かすということは、大量の情報を脳へ送り込み、あらゆる部位が刺激されます。


ハーバード大学医学部のジョン・レイティー博士は著書(a)で、「運動は直接的に私達を賢くするわけではないが、脳由来神経栄養因子の作用により、認知、記憶、学習を高めることが出来る」と言っています。


脳由来神経栄養因子(BDNF)は、脳や末梢神経にあり、神経細胞の生存維持、神経突起の伸長促進、神経伝達物質の合成促進などの作用があり、アルツハイマー病患者の脳では、減少が認められます。(4)



自ら習慣を作るしかない

「仕事中に集中していると立つのが面倒くさい」

「ついつい忘れる」

「職場がそれを許してくれない」

など、立つことに対して億劫になっているお声を耳にします。


「分かります!」と過去の自分に重ねたりしますが、それを言い訳にしていると体はどんどん良くない方向へ転がっていきます。


私がクライアント様に伝えることですが、どれだけ忙しくても、1日歯磨きを怠ることはないでしょう。


それは、幼い頃からの習慣でもありますし、磨かないことによる体へのツケを知っているからです。


毎日の歯のメンテナンスで虫歯を防げるように、1日数回立ち上がって動く、あるいは1日10分の体のメンテナンスで肩こりや腰痛をはじめとした体の不調も防げるのです。


私達の痛みやコリといった多くのことは、正しく動けない、あまりに動かないことにあります。


世界中の運動指導者が知るシステム「Functional Movement Screen」を開発したアメリカの著名な理学療法士グレイ・クックも「Move well,move often」こそが大切と言っています。


パソコンやスマホから離れた暮らしが出来るならそれがベストかも知れませんが、現実問題多くの方には困難でしょう。


そうなると、その枠組の中で自ら出来ることを探す他にこの時代を健康に快適に行く術はないと思います。


ホモサピエンスが20万年前に出現してから、ここ数十年前までこれほど毎日長時間椅子に座ることはありませんでした。


DNAに基づいて子供の頃に獲得した運動パターン ー立つ(姿勢)、歩く、走る、しゃがむ等ー はいつしか、当たり前のように”正しく”出来なくなっています。


皮肉なことに、他の動物が到底出来ないことを成し遂げる脳を獲得したものの、他の動物が当たり前に出来ていることを失い、学ぶことにお金を費やすようになったのです。


私の仕事はまさにそれを再構築する仕事ではありますが、近年、トレーナーや理学療法士、ヨガ、ピラティスインストラクターを始めとした運動指導者が急増しているのも、この時代背景があってのことです。


「正しい動き」は専門家から学び、その後、「たくさん動くか」はあなた次第です。



座りすぎリスクから身を守るには

では、普段気をつけるべきはなんなのか。


4つのポイントをお伝えします。


①不必要に座らない
②25分に1度3〜5分動く
③1日10分エクササイズをする
④正しい動作を獲得する



①不必要に座らない

これはとても大切なことです。


前述したように、座りすぎはあらゆる不健康をもたらします。


いま座る必要があるのか、それを1度考え必要でなければ立つという選択をしましょう。


座るよりかは立っている方が、体幹や下半身の筋肉を使うことが出来ます。


また、容易に体を動かすことが出来るという点でもメリットがあります。(座る→立つ→動くは、ややハードルが高くいが、立つ→動くは想像以上に出来る)



②25分に1度3〜5分動く

これはポモドーロ・テクニックを応用しています。


ポモドーロ・テクニックとは、25分+5分を4回繰り返す時間管理術のことです。


開発者のイタリア人シリロが人間にとって最大限の生産性と効率性を引き出せる時間が「25分+5分」であることを突き止めたことでできたそうです。


時間管理のアプリがあるので、それで管理して行うと良いでしょう。


5分の間にトイレへ歩いたり、飲み物を取りに行ったり、10〜20回スクワットをしたり、エクササイズやストレッチをしたり何でもOKです。


ただ立つだけでも座っておくよりは良いですが、足を動かすことが重要です。


私は、片足スクワットをしたり、隣のトレーニングルームへ移動し筋膜リリースやエクササイズをしたり、先日ツイートしたエクササイズ「セラタススクワット」をしたりします。




③1日10分エクササイズをする

2016年の研究にて(5)では1日65〜70分の中等度から高度の運動により、座りすぎのリスクを排除でいるとありましたが、2019年の研究(6)にて1日20~40分の中等度から高度の運動(150分/週以上必要)により排除できると少し時間が短縮されました。


しかし、それでも全く運動をしていない人からすると、ハードルは高めなのではないでしょうか。


そこで、まずは毎日歯磨き感覚で、1日10分自宅やオフィスでエクササイズをすることをおすすめします。


最初にお伝えしたとおり、使わない機能は失われます。


私達の1日を振り返ると、動かしていない関節可動範囲が多くあるのに気づくのではないでしょうか。


例えば、腕は圧倒的に体より前側でしか使わないですが、後ろ方向へも50度の可動域(肩関節)を持っています。


この範囲を動かしていないのであれば、脳に刺激が行かずその部分の動きは忘れ去られることになります。


このような場所が体中に点在しているのです。


エクササイズを行うことで、関節の健康を守ることに加え脳を活性化することに繋がります。



④正しい動作を獲得する

長らく運動不足になっていると、身体機能が低下します。


私のジムでも30の項目からなる身体動作評価を行いますが、ほぼすべての方が初回では満点の半分以下のスコアです。


このような方が、例えば、運動に目覚め筋トレやランニングをいきなり始めても、まず体のどこかに無理が掛かり怪我をすることになるでしょう。


これは実際、大変多く遭遇するケースです。


結果、怪我のために一旦運動を中止し、せっかく重い腰を上げたのにまた運動から遠ざかることになります。


まずは、正しい動作を獲得することが大切です。


正しい動作は、良い呼吸、良い姿勢、良い関節を持っていることが前提です。


それから正しい動作を身につけていくことになります。


こうして文字にすると、遠いなぁと感じますね?


しかし、これまでのライフスタイルが今のあなたを形成しているのです。


運動をし始めるまでが長くなればなるほど、更に改善に時間がかかることになります。


まずはご自身の現状を知り、正しく動ける体を作ってください。



車椅子の方の場合

車椅子での生活をされている方においては、座り姿勢そのものによって、体にかかる負荷が変化します。(今回は割愛させていただきます)


より一層体幹を安定させる事が必要となる場合もあります。


関節を動かし体をメンテナンスをすることの重要性は変わりません。



まとめ

生活の利便性が高まれば高まるほど、私達の身体機能は失われていきます。


働くというのは、誰もが自らの幸福のためにしていることですが、そうして手にしたお金で、失った健康(幸福)を取り戻しに行くという矛盾に陥っています。


両方を両立するには、工夫やアイデアが必要です。


習慣つくりには環境が大切ですので、いかにすれば達成できるか1度考えて頂ける機会になれば幸いです。


【参考文献】

(1)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3827429/pdf/pone.0080000.pdf
(2)https://annals.org/aim/article-abstract/2091327/sedentary-time-its-association-risk-disease-incidence-mortality-hospitalization-adults
(3)https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)30370-1/fulltext
(4)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18708092
(5)https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)30370-1/fulltext
(6)http://www.onlinejacc.org/content/73/16/2062
・脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方 NHK出版
・「座りすぎ」ケア 完全マニュアル 姿勢・バイオメカニクス・メンテナンスで健康を守る 医道の日本社


書籍やセミナー代に使用させていただきます。 インプットした内容はあなたにより良い情報として発信します。