五十嵐大介「魔女」

ここに描かれているのは魔女の話。

「“大いなる魔女”は大きな力や、ずっと昔から未来へとつながる“流れ”の呼び名。わたしはその一部にすぎない。“森”はそこにはえている木のことではなくて、そこにある全ての命、光や時間がかたちづくるものでしょう。そこにいる事に気づいたときから、誰だってその森の一部になる。それと同じ。わたしは…ただ、気づいただけ。」(「PETRA GENITALIX」)

有限の世界の住人が挑むのは至難の業であるものの、五十嵐大介は選りすぐりの言葉と全身全霊を解き放つことでなしえた描写で、奇跡的にその世界を立ち現せたのである。
ミラに「遥か別の場所で生まれたコトバが、あなたを通して語られる事もある」と教えられたアリシアのごとく五十嵐は、有限のわたしたちには触れることもできないものを語ってみせる。

「お前の役目は“古く大きな知恵”からの伝言をそのまま伝えるべき相手に伝えることだ。」(「SPINDLE」)
「僕らは小さな魂から抜けだして、大きな魂に生まれ戻るだけだ。」(「クマリ」)
「耳をすませば鼓膜が音の振動を受けとめるように、全身をすましたとき、目や腕や内臓全部。「想い」や「心」がうけとめる。世界のうたう「うた」を。」(「うたぬすびと」)

けれどもわたしたちは、大いなる流れを傍からぼんやりと眺めることしかできないわけではない。
「あなた自身のからだで…世界を確かめていきなさい。」(「PETRA GENITALIX」)というミラの言葉は、言うまでもなく、かつては無限の存在だったわたしたちにも注がれている。

そして読んだ後のあなたには、きっと世界が異なった相を見せてくれる。いや、ずっとそうであったことにわたしたちはようやく気づくはずだ。
ためらうことなく、それを祝福と呼ぼう。

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