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テレビはオワコンじゃない。

最近よく、どうぶつ奇想天外のYouTube動画を見ている。

どうぶつ奇想天外!はTBS系列局で放送されていたバラエティ番組で、1993年から2009年にわたってペットのような身近なものから世界各地に生息する野生動物まで、幅広く紹介し続けた。その膨大なアーカイブ映像を再編集し、配信しているのが上のYouTubeチャンネルである。
懐かしさもあって見てみたら、これが実に面白い。動物つながりで比較すると、個人のペット系YouTuberや動物園のYouTubeチャンネル(※)よりも格段に面白い。企画の練度、情報の密度、映像の質、どれを取っても(当たり前といえば当たり前なのだが)テレビ番組のほうがはるかに上なのだ。

※動物園のYouTubeチャンネルは野生では見られない実験的な試みの動画が見れるので、それはそれで好きだったりする。カバがスイカを食べたり、ライオンが丸鶏を骨ごとかじる様子を間近で撮影できるのは、動物園の強みだろう。
とはいえ映像制作が本業ではないので、テレビ番組と質の差がある、という話。

なぜこんな当然のことに改めて気付いたのかといえば、「テレビはオワコン」と言われて久しいからである。曰く、「ネットが普及して個人が情報を発信できるようになった時代には、相対的にテレビの価値が下がっていく。テレビとYouTubeが視聴者の時間を奪い合うようになると、視聴環境や時間を限定するテレビは不利になる。恐竜が絶滅して哺乳類が繁栄したように、時代についていけないテレビは衰退していくのだ」云々。
ある程度は妥当だと思うし、そういった言説を繰り返し目にしていると本当にテレビはオワコンになったような気分になってくる。実際に僕個人としても、ここ10年ほどテレビは週に30分程度しか見ていない。
だが、改めてテレビ番組の質の高さを目の当たりにすると、テレビの強みとはコンテンツ制作能力の高さにあるのだな、と思う。これはコストの面よりも、人的な面、映像制作のノウハウのような部分にあるだろう。
どうぶつ奇想天外の動画はどれも20年以上前に放映されたものばかりだが、いま見ても面白い。それに対して、例えば個人のYouTuberの動画は、20年後も価値を保っているだろうか?質の高さとは、そういうものだ。

ところが、現在のテレビ番組はどうだろうか。
動物番組で言えば、現在のバラエティはSNSでバズった犬猫のショート動画に薄ら寒いナレーションと効果音を入れたものを垂れ流して、それを見て笑ったり泣いたりするタレントの顔を画面のすみっこにさらし首のように並べるだけである。見るだけで脳が収縮しそうな駄番組は、テレビのオワコンを通り越して文明の衰退を思わせる。
テレビとは、視聴者の立場から見れば無料の娯楽だが、ビジネス的には広告メディアである。マスの耳目を集めることを目的にしている以上、(コロナという事情もあるし)短期的に数字が稼げる低コストな番組に走るのは理解できる。
とはいえ、ネットの流行りにおんぶ抱っこでは、長期的に価値を保てるコンテンツは作れない。テレビ局が持つコンテンツ作りのノウハウを活かす意味でも、最初からYouTubeに流すことを見越した番組作りはできないものだろうか?

どうぶつ奇想天外の動画は、大勢のタレントが出演するクイズ部分を削り、ドキュメンタリー部分のみをアナウンサーがナレーションを吹き替えている。想像するに、タレントを出すと権利関係がややこしくなるのだろう。
それなら、最初から自社社員であるアナウンサーで番組を作ってしまえば、YouTubeに流しやすくなるのではないか?ニュース番組では各局すでに行っているが、ニュースは即時性の高さが求められるため、時間が経つほど価値が下がってしまう。
ロケ映像とスタジオのパートを切り分けて、前者を自社社員で、後者をタレントで盛り上げるような形にすれば、使いやすくなるように思う。例えばトリビアの泉のような番組を、ムダ知識を紹介するパートとタレントがリアクションをするパートで明確に分ければ、テレビで流したあとにYouTubeでも流しやすく作れるのではなかろうか?
NHKは優れたドキュメンタリーを作っているものの、受信料で成り立っている以上はそれをYouTubeに流すことはできないだろう。民放ではFODやTELASAのような自前の有料配信サービスや、TVerやGyaOのような複数局の番組を見れる無料配信サービスがあるが、YouTubeの使いやすさには遠く及ばない。
視聴者の立場から言えば、テレビ局に思い入れがあるわけではなく番組が見たいだけなのだから、プラットフォームは統一してほしい。一週間限定配信のような「オンタイムで見逃した人でもオマケで見せてあげるよ」という形式では、過去の番組をいつでも楽しみたいというニーズは満たせない。どうぶつ奇想天外を見て思ったが、番組単位でYouTubeにチャンネルを作ってくれる形式が一番見やすいように思う。
今どき、面白い番組なら(善悪は別にして)どうせ違法アップロードされてしまうのだから、1円にもならないイタチごっこを続けるよりも、最初からアップしやすい形で番組を作って、公式で上げてほしい……というのが、一視聴者としての率直な感想だ。
テレビの前に座ってオンタイムで見るのが好きな層は、ネットにアップされても変わらずテレビで見続けるだろう。公式でネットに上げても、既存の広告収入モデルを大きく損ねず、むしろパイが増えるように思うが、出来ないものだろうか。

追記

どうぶつ奇想天外のYouTubeチャンネルに、新規で撮影された動画がアップされ始めた。
それがこちら、アナウンサーがカンガルーを捕まえる動画である。

凡百のYouTuberに寄せてテンションアゲアゲで寒い演出の、凡庸な動画である。
天下のTBSが世に送る動画がこれなのか……。

一方こちらは、栃木県にある那須どうぶつ王国で撮影されたインタビュー動画。

動画ウケの良いスナネコをダシに、動物園で行われている試行錯誤などを紹介。簡単なクイズも挟み、とても面白い内容になっている。
これこれ、こういうのが見たいのですよ。

追記2

Tverにて、一部番組がテレビ放送と同時にネットでも配信されるようになったとのこと。
とはいえPCやスマホでリアルタイム視聴が可能になったに過ぎず、「いや、そういうことじゃないんだよな……」という印象。リアルタイムでの視聴はTwitterやチャットなどで友人と感想を共有しながら見る場合には有効だが、それなら動画配信サービスでも同様の機能はある。
TV離れの原因としてよく挙げられる理由が、「決められた時間にテレビの前にいなくてはいけないから」というものがある。それが理由であれば、別に視聴機器をテレビからPCやスマホに変えたところで同じこと。
テレビ番組をネットで配信するのなら、ネット配信をTV放送に近づけるのではなく、ネット配信の特性、例えばバックナンバー配信を充実させるといった方向にしてほしいな……と思う。

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