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ユリに携わることについて。

この2年間、ほんと物凄い時間を費やしてユリの前処理剤の開発に
携わっています。実際に私どもの産地では、ザンベジ イエローウィンというユリ2品種に限定されますが全量開始すると宣言して本年から使用が開始されています。
恐らくこれは国内で初の事なんではないかと思います。
実際の出荷が1シーズン通して行われて来ました。ようやく色々な人にそのユリの関わって頂いたお陰で色んな声を聞く機会が秋に入り急に増えたと感じております。

一体、何をどうやっているんだ?いいものだったら使わせて欲しい。という声も間接的に私の耳に入って来ています。なので一回大真面目に書いて置こうと思います。
(きっと、いや必ず長文になるのでお時間ある方だけで結構です。)

私がユリ農家になった時は、堀之内のユリはスカシユリがメインで個人育種家で作り上げオリジナルの早いものや遅いものを組み合わせて生産していました。同時に球根も自分たちで育てて。
赤・オレンジ系と言えば紅の舞。黄色はサマーキングや金杯。その中でオランダから入ってくる品種の花の美しさに感動を覚えた記憶があります。コネチカットキング、美しい黄色でした。ですが、夏は作りにくい・・・。いくらお届けしたくても夏はロスが非常に多い。そこで出てきたのがポリアナです。コネチカットキングよりは花は美しいとは言えませんでしたが夏に生産出来る。出荷出来なければお届け出来ないのです。作れるものを作り届ける。これが生産の基盤には必要と思います。ポリアナが堀之内のスカシユリの黄色の主力になりました。それが長く続き、より生産性が良いものがある。と登場したのがスカシユリと鉄砲ユリの交配種でした。品種名はアラジンデジール。
スカシユリからLAハイブリッドユリへの産地の中では革命的な変化だったんじゃないでしょうか。
しかし、弱点がありました。それを当時の技術委員会が試験をしていたことを記憶しています。早く収穫すると花がシケてしまい開花に至らない。遅く切ってはどうか?市場で咲いてしまう、収穫から出荷まで花に痛みが出やすい。などのことが産地内で議論されていたように思います。

それからピンク、赤、白と多くのLAユリが登場し生産出荷されましたし、今もされています。自分たちはきちんと作れるものを選び、それをどう送花して行くか?
結局、お届けしても多くの方が綺麗に咲いてその花を楽しんでもらえなければその産業は継続しないのだと思います。また、ユリを市場へ送る物流も大きく変化をしてきて、より早く送りだす準備をしなければならない。そのため、お客様のものへ届くまで時間がかかるのです。僕が就農して数年後に園芸課に配属になった内田君(現課長補佐)はその様子を長く見てきた中でこの課題を何とかしないといけないとずっと感じてきたんじゃないでしょうか。それから、僕が共選から個選になり花屋との直接やりとりを増やしてゆく中で青山フラワーマーケット伯野取締役が良く僕のところへ来てくれました。その時に内田君も呼んで良く呑みましたね。(ちなみは私は三年で個選をリタイヤし共選に戻りました。きちんと伝えておくと仲間に支えてもらわなければユリを育てて行くことなど継続できないと打ち砕けました。)
それで、そのLAユリの課題を克服したいと伯野さんに相談しパレス化学の中島さんを紹介されたんです。それから即JA北魚沼とパレス化学が一緒になった前処理剤の開発が開始されました。2年以上はかかったと思います。それで完成した前処理剤がハイフローラリリー スカシLA用でした。
産地は前処理剤を作りたかったのではないのです。自分たちが生産するLAユリをしっかり開花させる方法を模索し、その方法の一つとして前処理剤の使用が効果的だったということなのです。それがスカシLAの部会において全量使用しようという流れになり、冬場、いや周年でスカシLAを生産出荷している深谷との連携が早々に開始されたという流れを作ります。

話を今度はオリエンタルユリに戻します。
僕がユリ農家になったころに購入できるオリエンタルユリの球根なんで数えるくらいしか無かったです。カサブランカ、スターゲザー、スタードリフト、アカプルコ、なとはマルコポーロとか。それから色々なオリエンタルユリが続々と登場しました。当時のオリエンタルユリと言えば、蕾が一つ一つ段を打って上がるタイプが主流でしたね。買い手からのニーズはより大輪なものを!より蕾がもっとコンパクトに上で締まったものを!
それで登場したもの、ティバー、ビビアナ、思い出せませんが集散花序と呼ばれる花の草姿というものです。そういうものの一番の特徴は同時開花性が高いものと言えると思います。
きっとそういうニーズというものが遠くオランダのニーズにも反映されていたに違いないと考えます。

これは僕の意見ですが、オランダにおいても球根が出来るものしか選択されないのです。球根農家ですから。それは僕が切花をしやすい品種を買うのと花屋が売れる花を買うのと何ら変わりがない事だと思います。
その要望から登場した一つの集大成がOTハイブリッドユリだったんではないでしょうか?花はデカい。豪華。同時開花性も高い。
しかし、今のニーズはもう昔のニーズと変わってしまっているんです。
ゆっくり咲いて長く楽しめるユリ。
しかしながら、そのユリが多く使われるようになった。それでやっとその課題が明確になった。この流れはポリアナ→アラジンデジールの流れと変わりがありません。
完璧なものなんかあるわけがない。だからそれで出てきた課題にどう向き合うか?ということがユリに携わるということなんだと思います。

三年前に生花店の店頭フェアに立ってユリを一生懸命売りました。その際に、店頭スタッフから聞き取りをしたこと。その時に店頭にお越し頂いたユリを飾り続けている男性の話を良く聞いてOTハイブリッドが持つ課題が鮮明に見えました。その話を産地に持ち帰り技術委員会で議論し、その課題に対し何らかの方法で向い合おうということが決定されました。自分たちが育てお届けするユリをより長く楽しんでもらえるにはどうするか?
その中で、透かしユリからLAユリに変化をしてきた中で出てきた課題と似ているということに気が付きました。
LAユリのL(鉄砲百合)とOTユリのT(トランペットユリ)の性質が似ているということです。

それでまたパレス化学の中島さんを呼んで同じような議論が行われパレス化学との合同の試験及び開発が始まったのです。
その時はすでにスカシLA用の前処理剤開発の土台、実際に運用する生産現場の土台が出来ていました。そこに当てはめながらプランを立ててテストし検証するを繰り返し、試薬での効果が確認されました。それを共選出荷品で即全量使用しようということが決定され本年の出荷に繋がった訳です。
その舞台裏ではテスト検証が繰り返され、より効果が出る新剤開発が同時に進められてきました。

その試験で発見された一番大きな課題は、ザンベジ・イエローウィン(あえて白系、黄色系と書きません、そこまで書けるほどのテストがされていないからです)以外の色の品種、主にピンク系 赤系、において色素沈着がうまく行われないことが分かりました。色が薄くなるという課題です。
そのテストを行う中で、他の花にあるような品目を網羅できる万能的な前処理剤の開発まで行きつくには何年かかるか分からないことも分かりました。

しかし、ザンベジ・イエローウィンにおいては切り花にしたユリを鑑賞期間中も蕾を太らせながら咲くということが実現され、ゆっくり咲くということが確認されました。

同じ理由で花びらがかけにくくなる。ということになります。花は散る時に、茎から花びらを切り離すことで散ります。そこへの水、栄養が継続的に届けられれば散りにくい、かけにくいということになります。
2品種だけですが、この効果が確認されたものだけでもいち早くお届けしてしたい。それが産地の願いだったわけです。とんでもないコスト、とんでもない労力が生産出荷の舞台裏では繰り広げられています。新剤の開発も継続中。数えきれないほどのユリがテストされ今よりもっと効果が出てくれる剤を!とパレス化学と一緒に取り組んでいます。
この先にある課題がどうなって行くのかなど、正直わかりませんが目に見えてきた課題を一つ一つ潰していくことしか出来ないなぁと感じながら、仲間と取り組んでいるところです。共選ですから、組合ですから、全ての人の合意、確認が行わなければ先に進めない。これは共選の悪いところでしょうか?僕はそうは思いません。
ただ開発の中で言えることは、今のオリエンタル・OTユリの課題があるとすればそれを全て克服する剤には行きついておりません。
また、現在使用している試薬剤を赤系、ピンク系、オレンジ系には使用出来ません。また、他の白系、黄色系にも同様な効果があるか?についても不明です。
しかしながら、ザンベジ・イエローウィン用においては現在開発が進んでいる新剤は今よりもっと良い効果が見えてきた。という段階です。

たった、2品種と言われればそれまでですが、2品種も、それも白のOTユリで主力としているユリ ザンベジの課題を克服しより美しく咲いてくるザンベジをお届けすることが出来るようななりました。露地の畑とは言え、坪に30球しか植えないことで光をしっかり当てて良いものをお届けしたいと取り組んできたユリです。なかなか高い壁がある中で、先日フローラルジャパン店頭フェアではこの取り組みを知っている生花店の女性から、ほんとに綺麗に咲いてくれるよね。というお言葉を頂くところまでたどり着きました。

こうしてまたこれからも、ユリとユリがある社会と携わりながら仲間と一緒に頭を掻きむしって参りたいと思います。

長々、失礼いたしました。

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