2023年12月 小さな杜のようす

◍ 秋は朝陽や夕陽で空が赤や薄紫など暖かな色に染まるマジックアワーについつい手が止まってしまい、空を眺めます。瀬戸内の穏やかな水面を太陽が照らしキラキラ輝く海を見かけると、軽トラを道の端に停めて味わいたくなります。夜が長くなり、寒く厳しい季節にはとくに、自然の美しさから、癒しや地球につつまれているような一体感を感じます。自分自身も含めて、今を生きる地球の生きものが本来あるべき姿で在れるように祈ります。

◍ 陽が暮れるのが早くなり、5時過ぎになると山の谷間にある放牧場は暗くなってきます。午後から島を西に東に餌集めをして戻ってくると、もう薄暗く、軽トラに餌のコンテナと水を積んで山に入ると、ぼんやりと見える程度。

餌を食べているときが一番、ブタの健康が分かりやすいので、全頭が餌をいつもどおり食べているか?水はもっと欲しがっていないか?を見ながら餌と水を配ります。

ある日の餌やりで、お肉になっているグループの残り2頭のうち1頭が餌を食べに来なかったので、探すと横になっていました。子ブタだったら寄生虫が一番に疑われるのですが、もう100㌔近い大きなブタの不調。肺炎を疑い、注射器と薬を取って戻り、抗生剤を注射しました(ペニシリンの場合、14日間はお肉にできない休薬期間というものがあります。我が家では、大きなブタに抗生剤を打つことなんて1年にあるかないかの頻度ですが、短くても1ヵ月くらいは出荷をしません。)

そのブタに気を取られていて、茶色のおデブのお母さんブタの出産兆候に気づかず、翌日、出産。夏にアブに食べられた傷口をさらにカラスが突かれ、握りこぶし大の穴が空いた・・・なんでも壊す種ブタ(オス)。カラスから守るためネットのある放牧場に同居させていたこともあって、出産に備えてカラス対策のネットを隙間なく張ったり、壊れた産室を修理が間に合わず、生まれたばかりの子ブタを食べられてしまいました。カラスに子ブタをやられた日、調子の悪かった100㌔近いブタは死にました。

子ブタの全滅は、私たちの責任です。あれをしておけば…と思ったことは、こんなことが次に起きないように対策に生かすしか、私たちにできることはありません。

子ブタを食べてブタの味を覚えたカラスたちは、空きっぱなしのブタや人間の通り道からネットをくぐって放牧場に入り、また、種ブタの穴を突きだしました。種ブタはカラスを追い払うことに気が回らないのに、人間の私にはすごく警戒していて、餌をやっても私が遠くに行くまで様子をうかがっています。「この関係だと、飼い続けるのが難しいなぁ」と悩んでいたのですが、茶色のブタの妊娠が終わり、フェロモンの増加に敏感に反応した種ブタは、交尾に向けてスイッチが入り、それに合わせて警戒心もすっかり消えて、今は食欲も回復しています。

死んだ大きなブタは、業者に届け、肥料として生まれ変わります。

◍ 「わたしたちは食べたものからできている」という言葉がありますが、ブタを育て、彼らのお肉にさわる仕事をしていると、その言葉が本当だということを感じます。

ブタを飼い始めたころ、手に入るものを何でもブタに与えていました。直前まで魚のアラを食べて育ったブタのお肉は魚くさい。給食センターから出る大量のタマネギの皮を野菜や残飯とともに炊いた餌を食べていたブタのお肉はタマネギ臭がする。

前回までのブタたちは、素麺くずを多めに食べたために、脂が多めで、融点が高く(溶けにくい)、こってりとしたお肉でした。素麺くずも落ち着いてきたので、くず米多めのスープに戻っています。ウシも出荷前にはお米を食べさせて、美味しいお肉にすると聞いたことがあります。お米をたくさん食べると、脂の融点が下がり、お肉を口に入れた時に脂が溶けやすく、甘みを感じるそうです。

今の季節、ブタたちはオリーブ農家さんから商品にならないオリーブの実をたくさんもらい、ポリポリと食べています。はたしてどんなお肉なのか…季節季節の果物や野菜を多めに食べたブタたちのお肉。一期一会のお肉を料理すること、食べることを味わっていただければ幸いです。