「異動が必要」の診断書は有効か

 精神疾患で休職し、回復した際の復職時に「異動が必要」と記された診断書を時折見かけます。主治医主導で異動しなければならない、という場面はあまり想定できませんから、労働者が主治医に訴えた結果、このような文言が入った診断書となるのだと思います。

 このような診断書は有効でしょうか?

 私が産業医をしている企業では、特殊な経緯を除けば、すぐに対応してくれることはまずありません。特殊な経緯とは、何らかのハラスメントなど、職場の要因が明確になっている場合です。また、身体的な疾患では別です。重量物運搬を行う方が椎間板ヘルニアに罹患された場合などは、同じ業務の継続はできません。同様に、夜勤業務のある方に睡眠障害がみられた場合は異動の対象になるか、あるいは同じ業務の日勤のみの業務となることになるでしょう。

 すぐに柔軟に対応できる企業であれば異動は可能だと思いますが、そのような場合は診断書に記してもらうことなく異動が可能でしょう。主治医にも追認してもらう形での診断書で、異動の根拠とすることはあるかもしれません。

 このようなことを書くと、産業医は何もしてくれない、と思われるかもしれません。しかし産業医に人事権はありませんから、異動の決定権限は当然ありませんし、医学的に理由がなければ口を出すことも難しいのです。異動の希望が、職場の○○さんと合わないとか、この業務は自分には合っていない、ということだけでは、そのために病気になったと言われても医学的な理由とは言いづらいのです。他の方が同じ環境、同じ業務を行った場合、同じように不調になるわけではないはずですから。

 復職時点で異動がかなわない方については、職場環境調整を継続してもらった上で年度初めなど異動して復職できるタイミングを探す、いったん復職して異動の希望を出し続ける、などの手段になります。労働者自身の抱えている気持ち、辛さなどについては、職場の上司や人事担当者、産業医に話してもらえると、異動というハード的な対応はすぐには困難でも、業務の割り振り、席の配置などソフト的な対応は可能な部分があります。異動が必要とされる診断書を提出されるよりも、感じられている問題点をお話し頂いたほうが、よりよい職場環境を作ることができるはずです。

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