フリードリヒ・グルダ『俺の人生まるごとスキャンダル』より

”俺がまだ十六歳だった一九四六年、ジュネーブの国際コンクールでだった。コンチェルトを弾いていて、ある箇所にきたとき、俺自身が弾いているんじゃない、「それ」が弾いている、っていう感じがした。なにかこう、背筋が寒くなるような思いがしたよ。なにしろうとくにうまくいっていて、まさにただしきて、思い通りに弾けているときだったからね。後になってわかったんだけど、この感覚は向こうからひとりでにやってくるものじゃない。その都度あらたに努力して獲得しないといけないんだ。”(1「異端の肖像」16頁)