見出し画像

事業戦略、第五章、コストリーダーシップ戦略。504.活動基準原価計算(アクティビティ・ベース・コスティング)の利用。

従来の考え方では、原価とは、工場の生産活動によって発生する原価と考えられてきた。
しかし、今日、この考え方は不適切となってきている。
これからの時代、新しい考え方が必要である。
それには、マイケル・E・ポーターの価値連鎖(バリュー・チェイン)という考え方が重要である。

生物学用語で食物連鎖(フード・チェイン)という熟語がある。チェイン(CHAIN)とは、「有機的な関連性を持った」というような意味がある。
バリュー・チェインというのは、「価値の有機的な相互関係」と訳すことも可能だろう。

企業活動には、いろいろな活動(アクティビティ)がある。
原材料、資材、生産設備等を購入する調達活動。
その原材料を工場において機械等で加工する生産活動。
工場で生産された製品を出荷、配送する出荷活動。
その製品を販売する販売活動。
顧客が購入した製品の故障を修理するアフターサービス活動。
さらに廃品を処理するスクラップ活動というのが、環境保護がやかましくなった現代ではあるかもしれない。

このような企業の主たる活動をプライマリーアクティビティ(主活動)と呼ぶ。

この主活動に対して、企業全般の管理活動、人的資産の調達、教育、管理活動。技術開発活動といった、主活動を支援する支援活動(サポート・アクティビティ)がある。
これらの企業の活動(アクティビティ)の作業の中から、伝票処理枚数、作業時間というような、原価配分基準を適宜選らんで、特殊的な原価調査のための計算を行う。
これが、活動基準原価計算(アクティビティ・ベース・コスティング)の意義である。

この活動は、それぞれバラバラに行われるのではなく、有機的に相互に関連しあって、企業の収益獲得に貢献し、価値を生み出している。
この企業の価値を生み出す生態系を価値連鎖(バリュー・チェイン)と呼ぶ。

この原価計算の考え方は、原価計算が工場の中、経理部というセクションでのみ行われるという従来のセクト主義、縦割りの官僚的組織では機能しない。
活動基準原価計算は、企業のあらゆる人間によって行われなければならない。
経理部というのは、活動基準原価計算の使い方を企業のあらゆる人間に教え、その計算に必要な活動の原価を適切に計算してあげねばならない。
そして、企業の全ての活動は、有機的な関連性を持っているという東洋医学的発想、哲学で原価管理が行われなければならない。

ーーーー
たとえば、工場から出荷する製品の検査を厳格に行なえば、顧客の使う製品の故障が少なくなり、アフターサービスの人員を削減できるだろう。
優秀な工員を採用し、教育訓練に金を使えば製品の歩留まりは良くなるだろう。
優れた物量管理の情報システムを構築し、異常点を端末で即時に把握できるようにすれば、会社の生産管理部署の仕事ははかどり、管理人員は少なくて済むだろう。
顧客のニーズを販売部署が把握し、設計部署に送れば、不要な機能を削除した製品を設計できるに違いない。
また、生産工程を良く調査すれば、原材料や部品の使用量を節約し、直接作業労働を省いた製品の設計にすることができるだろう。
廃製品の部品をリサイクル可能なものにすれば、下取り品の廃棄コストを削減できるだろう。

ーーーー
この例は、私が思いつくままに、幾つか挙げたものである。

これは生態系の発想に似ている。
森の木や植物は、光合成によって成長し葉や実をつける。
その葉や実を昆虫や草食動物が食べる。その昆虫や動物は相互に共生の関係を持っている。
その昆虫や草食動物を肉食動物が食べ、排泄物や死骸が土中の微生物によって分解され、植物の肥料になる。
(これを生物学では『食物連鎖・フード・チェイン』と呼ぶ)
同じように、企業の活動も、森の生態系のように相互依存の有機的な関連性を持っている。(これを『価値連鎖・バリュー・チェイン』と呼ぶ)
これは人体の活動にも例えられる。人間の様々な器官は、相互に依存関係にある。人間の諸器官は、相互に概念的、有機的に結び付きあっている。

これからの時代、原価管理は異なる部門の関係者の協力なしに不可能である。官僚主義は、原価管理の最大の敵である。

活動基準原価計算の特徴の第二点は、原価集計単位が会社や部門とは限らないことである。
情報技術の発展により、今日、生産管理は部品ごとに行われ、販売時点管理の導入で、スーパーの商品は一点一点で管理できるようになった。
また、場合によっては、知識労働者個人に原価を集計することも可能である。
人事評価や報酬の算定のために、個人別に原価を集計することも可能にになっている。

また、原価を個人、製品等に配賦する計算も、パソコンを使えば、かなり複雑な計算を簡単に行なってくれる。
昔、コンピューターが高価だった時は、原価計算は費用のかかるものだった。
また、製造業中心で、原材料費、直接労務費の割合が大きかった。
そういう時代には、製品の生産量という指標で原価管理を行なえば良かった。
また、パソコンなどというものも無くて、手作業で原価計算を行なっていた。
だから、原価計算の手間、経済性を考えなくてはいけなかった。
しかし、時代は変わった。生産工程もどんどん自動化されている。原材料費、直接労務費の比率も低下し、知識労働の原価の比率が高まってきた。
また、コンピューターの性能が向上し、様々な有益な情報が、簡単に計算して得られるようになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?