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ヘリコプターマネーでなぜ悪い。9.スコット・サンテンス氏の主張。

ここで、今年、3月10日に那須里山舎から刊行された、スコット・サンテンス著、朴勝俊氏訳「ベーシックインカム☓MMTでお金を配ろう」に、いろいろ面白い数字が出ているので、紹介したいと思う。

最近、アメリカで行なわれている現金給付、補償、財政赤字の額などに関する情報が日本で得られなくなっている。
このサンテンス氏の本には、それが書いてあるので、少し引用させてもらいたい。

まず、アメリカで行なわれた現金給付、補償等について、7ページ〜10ページまで、こう述べている。

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‥‥2020年3月27日、米国政府は「コロナウィルス援助・救済・経済安全保障法」を成立させ、誰からも税金を取ったり借り入れをしたりせずに、何もないところからおカネを生み出して2兆ドル〔270兆円〕以上もの財政支出をしました。
その中には、大人には1200ドル〔16万2000円〕の、そして子供には500ドル〔6万7000円〕の景気刺激小切手が含まれていました。

さらに9ヶ月後、「統合歳出法」によって、これまた誰からも税金を取ったり借り入れをしたりせずに、9000億ドル〔約122兆円〕が支出されました。
これには大人と子どもひとりあたり600ドル〔8万1000円〕の景気刺激小切手が含まれていました。

そしてさらに3ヶ月後、「アメリカ救済計画法」によって、誰からも税金を取ったり借り入れをしたりせずに、1兆9000億ドル〔約257兆円〕の財政支出がなされました。
加えて、大人と子どもひとりあたり1400ドル〔18万9000円〕の景気刺激小切手が出されました。
今度は、子ども一人あたり250ドル〔3万3750円〕から300ドル〔4万500円〕が6ヶ月ごとに払い込まれることとなりました。

つまり、1年も立たないうちに、1兆ドル〔135兆円〕もの現金が、アメリカのおよそ85%の人々の銀行口座と郵便受けに、無条件で、じかに送られたのです。

政府は「財源を調達した」わけではありません。ただ支出をしただけです。

‥‥‥‥アメリカの人々がおカネを必要としていたから、政府は何もないところからおカネを作り出したのです。
大事なのは、これは新しいことではないということです。そもそも自国通貨を発行している国では、おカネというものはこのように生れるものなのです。

この事実は最近では、あまり秘密のことではなくなりました。
アメリカ政府は税金で支えられているわけではありません。政府は通貨を無から創り出します。支出によっておカネを生み出すのです。
税金とは何かといえば、それは(とくに)おカネの価値を維持するために、世の中に出回っているおカネ(マネーストック)から、その一部を取り除くものなのです。

‥‥‥要するに「おカネのなる魔法の木」は実在します。すべてのおカネは人間が発明したものであり、作り出せるおカネの量には、本当に限界がありません。

しかし、どの時点においても、おカネと交換できるモノやサービスの量には限界があります。
その限界は現実のもので、常に変化するものです。
それは、その時点における需要に応じた供給を行うための、利用可能な天然資源や、人間の労働、機械の働き、知識、技能、時間、エネルギーなどの量によって決まります。
本当に重要なのは、おカネではなく、おカネで図られるモノのほうです。おカネは、交換されるモノを大まかに測るための、人間の拵(こしら)え物にすぎません。

課税も重要であり、それには色々な理由があります。
でも、通貨を発行する政府にとって、財政支出ができるようにすることは、課税が必要な理由には含まれません。
これが現代貨幣理論(MMT)として知られるものの核心です。

従来の考え方では、アメリカ政府が財政支出を行なおうとすれば、まず税金や借り入れでおカネを手に入れる必要があるとされていました。
それに対してMMTでは、政府はまずおカネを支出し、その後で循環しているおカネを取り除くために、課税や借り入れを行うとされています。
ちょっとした違いのようですが、私はここが非常に重要な点だと信じるに至りました。
この違いを認識することが、本当の意味でのベーシックインカム‥‥‥の導入を含む、より良い未来への道につながるのです。

それは、‥‥‥毎月、より多くの金額が支給されるものです。つまり、物価安定目標を超えない範囲で、できるだけ大きな金額です。

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つまり、国債を財源として1兆ドル〔135兆円〕を国民に配り、さらにコロナで傷ついた事業者を救済して巨額の支出を行なっても、ハイパーインフレにも、財政破綻にもならなかったということです。
そして、24ページで、こう述べています。

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2020年に、米国政府は3兆1000億ドル〔約419兆円〕もの財政赤字を出しましたが、その年の終わりには、前年の同じ時期と比べた物価上昇率は1.36%にすぎませんでした。
連邦準備制度委員会(FRB)の物価安定目標は2%の物価上昇ですから、空前の規模の財政赤字でも、その目標に達しなかったわけです。

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つまり、約419億円の財政赤字を計上しても、インフレ率は1.36%にすぎなかった。これはれいわ新選組、日本経済復活の会のシミュレーション結果を裏づける数字である。
つまり、アメリカでは、1兆ドルを国民に配っても、ハイパーインフレにも財政破綻にもならなかった、ということです。

また、操業度、稼働率について、21ページと23ページで、次のように述べています。

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経済用語には稼働率というものがあります。
これは、供給の天井にぶつかることなく、より多くのものを作り出す余地が、どれだけあるかを測ろうとするものです。

1973年には、米国は89%の生産能力で操業していたと推定されます。
それからは稼働率が低下傾向にあります。
パンデミックの時の最低値が63%で、現在は76%まで戻っています。
つまり現在でも、米国経済が停滞し、一部の部門では供給も抑制されているので、全体として100%の稼働率とは言えないのです。
ある特定の分野では最大限の能力が発揮されているかもしれませんが、他の多くの分野では、まだそれに近い状態ではありません。

‥‥‥コントロールできないほどの全般的なインフレを起こさずに、本当の意味での100%の経済能力を達成できる財政赤字の金額は、いったいどのくらいでしょうか。
steineromics(スタイネロミクス)が第二次世界大戦の経験に基づいて簡単な計算を行なった結果は、GDPの27%、つまり年間およそ6兆ドル〔810兆円〕というものでした。
これは、18歳以上のアメリカ人全員に対して、毎年2万4000ドル〔324万円〕の小切手を切るのに十分な金額です。

‥‥‥これは、連邦準備制度理事会(FRB、アメリカの中央銀行)の物価安定目標を超えるような、全面的なインフレを引き起こすほどの財政赤字額が、実際にはどれくらいなのかを議論する目安にはなるでしょう。

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つまり、アメリカで稼働率を100%にするためには、6兆ドル〔810兆円〕の財政赤字が必要だということです。
そして、6兆ドル〔810兆円〕の財政赤字のうち、いくらかをベーシックインカムに回した場合について、サンテンス氏は、26ページ〜27ページでこう述べています。

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さて、米国政府がアクセルを踏み込む決断をする一方で、この国のキャパシティの限界が本当に、年間6兆ドルの財政赤字に相当するところにあると仮定しましょう。
2021年7月の現在の財政赤字は2.5兆ドル〔約338兆円〕ですが、一年前にさかのぼって、さらに3.5兆ドル〔約473兆円〕の国債を追加して、アメリカの成人みんなに毎月1200ドル〔16万2000円〕の小切手を送ったとしたら、何が起きたでしょうか。
天が落ちてくるのでしょうか。米ドルは世界の基軸通貨ではなくなってしまうのでしょうか。

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サンテンス氏は、ベーシックインカムの支給対象者を絞る(ターゲッティング)に反対しています。
一律に国民全員にお金を配り、高額所得者から、あとで税金などで、ベーシックインカムを取り戻せば良いからです。

スコット・サンテンス氏は、もしアメリカ国民全員に一月1200ドルを配ったら、インフレになるか?どうか?について、事例を上げた上で、「どちらとも言えない」と述べている。

たとえば、1200ドルをもらって、みんながそれをベッドの下に隠してしまえば、インフレは起きない。
またインフレで金時計の価格がインフレになっても、貧困層には関係のない話だ。
1200ドルをスマホの音楽サイトで使っても、財が不足してインフレにはならない。
1200ドルで住宅ローン、学生ローンを返済したら、市場からおカネが消えるからデフレになる。
1200ドルでみんなが株を買えば、資産インフレになる。
人々が、これからインフレになると予測すれば、インフレになるし、デフレになると予測すれば、デフレになる。
需要が供給を上回っても、生産能力が増大すれば、デフレになる。

重要なのは、ある時点での需要と供給であり、その時点の需要に応じた供給は、利用可能な資源、人間の労働、機械の働き、知識、技能、時間、エネルギーの量などによって決まる、として、サンテンス氏は32ページで、こう結論づけています。

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‥‥‥新しく創出されたおカネで、みんなが毎月1200ドルを使えるようになったら、何が起こるでしょうか。
そう、お察しのとおり、その答えは、確実な答えはありません、ということです。全ては状況しだいです。

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そして、現在のアメリカで起きているインフレについて、日本版の序文でこう述べています。

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現在、2022年秋において、世界各国が直面している物価上昇の大部分は、供給側の撹乱(かくらん)が相次いで起こったことと、過剰な強欲、そして企業の利潤獲得の結果です。
これらによって、消費者の需要を満たす経済力は低下し、商品市場で投機が加熱し、利益をさらに増やすための便乗値上げが進んだのです。

コロナ禍と、ロシアのウクライナ侵攻、ジャスト・イン・タイム生産方式の負の側面としてのグローバル・サプライチェーンの脆さ、そして政府が適切な対応を取らなかったこと、こうしたことが組み合わさって、激しい物価上昇の連鎖反応が起こり、2022年をつうじて多くの国々を苦しめることになったのです。

‥‥‥あまりにも多くの人々が、たくさんのおカネが創られ、消費者に配られて、基本的なモノやサービスに支出されたせいで、インフレが起こったのだと勘違いしています。

だからこそ、できる限り多くの人々に、一つ前の段落に書いたことと、本書の内容を理解してもらう必要があるのです。(3ページ〜4ページ)
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一度、日本の稼働率を100%にするために、どれくらいの財政赤字が必要か?計算する必要があるかもしれない。

アメリカでも日本でも、最大の問題は、需要が不足していることだ。
政府が、民間の稼働率100%になるまで、ヘリコプターマネーで国民におカネを配って民間消費支出が増えたら、日本では何が起きるだろうか?

以上、サンテンス氏の考えに興味を持たれた方は、「ベーシックインカム☓MMTでお金を配ろう」(那須里山舎刊)、朴勝俊訳、1100円(税込)を買われることをおすすめします。面白いことがいっぱい書いてありますよ。MMTを一層深く理解することができます。

私が思うに、最近になって、なぜベーシックインカムの議論が盛んになったのか?
それは、生産の自動化、ロボット化、AIの普及などで労働者の仕事がなくなり、安い労賃の仕事に甘んぜざるを得なくなる。
その結果、需要が失われ、供給能力が過剰になりデフレになる。
社会全体の生産能力が高まっても、企業が供給する財やサービスの需要がない。

そういうことだと思う。

この解決法は、仕事を失った労働者のセーフティーネットと需要増を兼ねて、政府が国民におカネを配るしかない。
そうすれば、企業の財やサービスに対する需要が生れ、デフレも解消するだろう。

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