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事業戦略、終章、戦略策定の手順。701.顧客との信頼関係を築く。

人間社会には、ある法則がある。
それは「ある人間と信頼関係を築くには、長い年月と血の滲む努力が必要だが、信頼関係を破壊するのは、一瞬で足りる」という厳然たる法則である。

たとえば、ある外食チェーンのレストランでは、長年にわたって、優れた店長が部下をまとめ、顧客も店を信用して利用してくれた。
その店は、長年にわたり、高い収益性を確保していた。

ところが、本社の人事部長に、誠実さを欠いた腹黒い人事を平然と行う人物が就任した。
そして、収益性の高い店舗の店長を、その人事部長の部下の腹黒い奴に取替える人事を行なった。
この店舗にも、人事部長の太鼓持ちをする、腹黒い奴を店長に任命し、優秀な店長を追い払い、めちゃくちゃなことを始めた。

それで、従業員の士気が低下し、店員が、店長に反発して大挙退職。店はめちゃくちゃになってしまった。
客が、「あら!ここの店は店員の態度が悪くなったわ!」と頭にきたり、変な料理を出したりすれば、当然、顧客との信頼関係は破壊され、客は離れ、一発で店は駄目になる。

そして、顧客から失われた信頼を取り戻すには、多大の血の滲む努力が必要となる。
こんな人事が横行する会社では、何年も従業員が努力し培ってきた信頼関係を取り戻すことはできない相談である。
だから、人事の公正さは強調して強調しすぎることはない。

この店には、什器備品や建物の他に、優れたリーダーシップ能力を持った店長。その元で良く訓練された従業員。その従業員たちが日々努力して獲得した顧客との信頼関係という、経理の数字には一切出てこない無形の財産が厳然として存在し、それが店の超過収益力の源泉になっていたのである。
腹黒い人事部長は、この会社財産を軽く吹っ飛ばし、会社に多大の損害を与えたのであるが、これを厳正に処罰しないのであれば、経営者無能と言われても文句は何も言えない。

だから、「顧客との信頼関係は、会社の大切な財産である」ということを忘れてはならない。
この財産を破壊する者は、会社の金銭を横領するような行為を働く者である。
厳罰に処するべきである。

このような、企業の無形の財産を守るためには、「誠実な人間を入社させる」という採用の原則を守らなければならない。

ビジネスは、リピート(繰り返し)によって成立する。
顧客が、もう一度、この店、商品、サービスを利用したいという気持ちにさせて、ビジネスが初めて成功する。
だから、顧客の信頼が一番大切である。信頼があるからこそ、再び店に来てくれるし、商品やサービスを利用してくれるのである。
その信頼関係が破壊された時、ビジネスも傾くことになる。

アメリカ大恐慌時代の人間関係論の大家である、デール・カーネギーは、その著書「人を動かす」(創元社刊)の中で、こんなことを書いている。

「世の中には、自分のことしか考えないガリガリ亡者がたくさんいる。
だから、他人の事を考え、他人の要求が何かを知り、他人の為になろうと行動する人間には、世の中は、恐ろしいほど有利にできている。
というのは、競争者がほとんどいないからだ」

この本は、戦後、日本語訳が出版され、その間、ロングセラーとして今日まで売れ、今でも書店に積んである。
企業の経営者が、新入社員に、まず読むべき本として推薦している。

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土建屋というのは、顧客が信じない業種の一つである。

以前、ある人が家を建てようとした。
ある土建屋が、よそは二千万円のところ、うちは千五百万円で請け負うと言った。
そこで、「これは安い」と工事をさせると、いつまで経っても家は完成しない。そしてラジオを流しながらのんびりと工事をしている。
そして三ヵ月工期が延長になった。完成すると、土建屋が、「実は工事が長引き、工賃が余計にかかったので五百万円値増しをしたい」と言い始めた。

結局、二千万円かかって、その人は騙されたとカンカンに怒っていた。
しかも契約書を正式に取り交わしていなかったという杜撰さである。おかげで、訴えることもできない。
家は一生に一度の買い物で、リピートではないから、何をやっても大丈夫。
そういう不届きな考えを持っている、けしからん奴である。

ある木造住宅の会社は、セールスマンが顧客と相談する時に、顧客の注文の記録を二部取り、一部は顧客に残している。
このようにして、顧客に余計な心配をさせないようにしている。

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顧客の身になって考える。こんな単純な原理で成功を築いた企業は数しれない。だが多くの企業も従業員も、この単純な事実、法則に気付かない。
だから、競争相手もほとんどいない。当然、敵はいない。

仏教に「因果応報」という言葉がある。
他人に対して、親切な気持ちで接した人間には、良い報いがあり、他人に悪さをして、他人に危害を加えた人間には天罰が下る。
これが、「因果応報」の教えである。

商売は、すべからく因果応報の原理で動いている。
顧客に尽くした企業には、顧客はたくさんのカネを落とすし、ガリガリ亡者で、剥ぎ取る事しか考えない企業は、いずれ顧客に見放され潰れる。

今の日本は、餓鬼か妖怪、化け物、亡者の類が巷を百鬼夜行のように跋扈して、少しでもカネがあれば、むしり取る事しか知らない連中で溢れている。

これは非常に大きなチャンスである。

あなたは、競争相手が、顧客に対して、餓鬼か妖怪、化け物、亡者のように、追剥行為をしているなら、手を叩いて喜ぶべきである。
顧客を、そうした妖怪変化の類から奪う絶好の機会である。
あなたは、すぐに、こうした餓鬼のような連中に攻撃を加えなければならない。

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ダイエーの中内功さんは、メーカー、問屋、中小小売店の人間から目の仇にされた。彼らにとって、中内功さんというのは、鬼、畜生に見えたのだろう。
しかし、貧乏な家庭の主婦にとって、仏様のような人だった。貧乏な家庭の主婦たちは、高い商品を自分に売りつけいい加減な商売をしていたメーカー、問屋、中小小売店の人間は、餓鬼か妖怪、化物、亡者のように、自分に追剥行為を働いていると信じて疑わなかった。
だから、みんなダイエーに行った。
そのダイエーが傾いたのは、大企業に成長して、官僚主義や慢心から、お客様の方向を向かなくなってからだ。

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世の中は、他人の利益を図ろうとする人間に、恐ろしく有利にできている。
だから、あなたに「やる気」があれば、追剥行為を働いているのが、どんな相手でも気遣う必要はない。
獅子の威厳とキツネの知恵を持って全力で戦うべきである。もちろん、反撃はあるだろう。しかし、顧客は必ずあなたを支持してくれる。

そして、今まで、赤字覚悟の安売り以外で、顧客が味方について失敗した事業はない。

日本は、明治維新、敗戦、高度成長期につぐ第四の変革期、いわゆる第三次産業革命の時代を迎えている。
その中で、既成秩序の崩壊とともに、その過程で多くのビジネスパーソンが、創業者の苦しみや、職業転換の苦しみに遭うことを余儀なくされるだろう。

そうした中で、「自分は何を指針に生きていかねばならないのだろうか?」と、生きる指針を模索することに悩むだろう。
その悩みに答えようと書かれたのがこのブログである。
その悩みを解消するために、全ての人々は自分の成功のシナリオを組み立て、事業戦略、すなわち「勝ちパターン」を考案し、社会に貢献しなければならない。

この時代、ふてぶてしい確信と、明確な戦略を持って生き抜いた者こそ、これからの時代の勝者であるのは間違いがない。

702.この章のまとめ。

1.顧客を足蹴にして商売をしている奴はいないか?顧客の隠された不満はどこにあるか探しているか?
その連中を蹴落とし、顧客から仏様やロビンフッドのように思われるには、何をすれば良いか?

2.どの顧客に対しても、公平、公正、クリアな取引をするよう心掛けているか?

3.顧客や部下との信頼関係が最大の企業財産であると認識しているか?
その信頼関係を強固にしようと努力しているか?その財産を破壊する従業員を処罰、排除しているか?

4.不適正な人事が、企業財産、特に経理の数字に現れない無形の人的資産や顧客との信頼関係に破壊的な影響を与える。
そのように適正人事の重要性を認識しているか?

5.顧客には公平に接するよう、従業員に教育しているか?

6.あなたのライバルはカネを顧客からむしり取ることしか考えないガリガリ亡者か?
もし、そうなら、あなたは手を叩いて喜び、このライバルを蹴落とすにはどうすれば良いかを考え、実行すること。

7.あなた、あなたの企業の従業員は、顧客の身になって考えているか?

8.因果応報の教えは、くだらない仏教用語にすぎないのか?それとも、成功の黄金律なのか?

9.あなたは顧客にとって、仏様か?ガリガリ亡者の追剥か?どうして、そう考えるのか?顧客に聞いてみたか?

10.今まで、赤字覚悟の安売り以外で、顧客が味方について失敗した事業があるか?
私は寡聞にして知らないので、実例があれば、筆者までご連絡されたい。

これで、事業戦略のブログは終わりです。

次回からは、「ヘリコプターマネーでなぜ悪い」を投稿する予定です。ご期待ください。

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