三匹が行くコロンビアの旅(5)Modus Operandi

<20XX年2月9日>
 朝5時に起床。
 仕事メールのチェックと簡単な記録の更新作業をしていると、ルピタが一人で起きだしてきて、元気に「オハヨー」と発声。
 やがて皆も起き始めて、しばらくするとフリエータもやって来た。

 皆で朝食。
 前回のサンタンデールへの旅でも食べたことのあるタマルという料理である。タマルの作り方や中身は、国や地方によって特色があるらしい。この日、食べたタマルはバナナの皮に包んで蒸したもので、中身はライス、ビーンズ、ビーフ等が入っていた。

 10時ごろになると、フリエータが車を取りに戻るためいったん自宅に帰るというので、私とルピタも共に同行し、例のプレイグラウンドでルピタを少し遊ばせていると、お手伝いのルーシアがやってきて、ルピタと初対面の挨拶。
 ルピタは、例によって恥ずかしがって逃げたり隠れたりしていたが、別れ際には寂しくなったのか、ルーシアとハグをして見せた。

 フリエータが運転する車でドン・ネストルの新宅に戻り、アレクサ、ドン・ネストル、ドニャ・クラウディアを拾って、「Homecentor」へ向かう。
 「Homecentor」は、日本でいうところの文字通りホームセンターであり、かつ実際のお店の名前である。前回のコロンビア旅行でも見て回り、なかなか面白かったので今回も行ってみたいと希望していたのだ。ボゴタ市内にいくつか店舗を構えていて、今回行くHomecentorは、どうやら前回と同じ店舗のようである。
 ちなみに、「Homemarcket」というホームセンターもあるらしい。

 1階部分の駐車場に車を止め、2階の店舗フロアへ。フードコートでとりあえず腹ごしらえだということになり、エンパナーダの店でそれぞれ思い思いのエンパナーダを注文。テーブル席についてその場で食べる。

 日本でもコロンビアでも、ホームセンターというところにはいろいろと面白いものが置いてある。コロンビアでは、日本には置いていないような商品や、珍しいデザインのものなどを置いていることがある。問題は、買って日本に持って帰るには、商品のサイズに限界があるということである。庭に置くようなものや、家具のような大物は買っても持ち帰ることができない(持ち帰る気にはならない)。プレゼントとして家具を購入するというような場合を除き、大物を買って「家に置いておいてほしい」とドン・ネストルに頼むのもいかがなものかとも思う。
 結局今回は、車内に置く小物(スペイン語版)を少々購入した。

 家具を見てみよう、ということでHomecentorの近くにあるTugoという家具を扱う店へ。
 わりと有名なところらしく、たまたま目に留まったので寄ってみたのだが、実はアレクサファミリーも入るのは初めてらしかった。
 店内の雰囲気や扱っている家具の「カテゴリー」は、日本で言うところの「東京インテリア」。まさにそっくり、ということでアレクサとも思わず顔を見合わせた。私もアレクサも東京インテリアの雰囲気が好きで、ときどき行く。今回、Tugoで買うものは特に無かったが、面白い発見であった。
 店舗スタッフが首から下げていた「Tugo」のロゴの入ったボディバッグ。気になったのでもし販売しているなら欲しいと思ったが、売ってはいないようだった。残念。

 帰路、私が座っている助手席側(この国では右側)をすり抜けていくバイクが、右後ろのタイヤを指さしながら、何か盛んに叫んでいる様子が見える。
 アレクサやフリエータにこの様子を伝えると、車を止めるための言いがかりのようなものだから気にしなくて良いと言う。しかし、同じように指さしながら叫んでいるバイクが立て続けに3台となると、状況は違ってくる。さらに、バイクのみならず、右隣りに並んで車を走らせている女性までが、右後ろのタイヤを指さしながら叫んでいるので、「ホントに何かあるようだ」とアレクサに問い直す。

 やがて、サイドミラーでよく見ると、右後ろのタイヤが緩んできてぼこぼこ言い始めている様子が目に入る。どうやら本当にパンクのようだ。
 車を歩道側に寄せて止め、フリエータやドン・ネストルがあれこれと策を練り始める。ドン・ネストルは近所の店にとりあえず声をかけて助力を乞い、フリエータはどこやらに電話をかけ始める。このあたりは、あまり治安のよいエリアではないという。

 最終的に、保険会社に連絡してサポートを頼んだようだ。おそらく最も安全確実な方法だろう。自力でタイヤ交換するには少々手間のかかる車だったうえ、道路端でモタモタ作業するのはあまり賢いやり方ではない。

 サポートスタッフの到着を待つ間、今回の旅の主賓である我々3人は、ドニャ・クラウディアと共に流しのタクシーを拾って現場を離脱。ひと足早く帰宅。
 その後の話では、フリエータは保険会社のスタッフと合流した後、保険会社が提携している整備工場でパンク修理の処置を受け、タイヤに刺さっていた、長さ4センチ程度のクギのような金属物を発見。これがパンクの原因だったという。

 アレクサによると、これはModus Operandiだという。
 つまり、街中にある個人経営の自動車整備店などが、飛び込みの客を獲得する手口の一種だというのである。すなわち釘が刺さってパンクし、その車がちょうど自分たちの店のあたりで停車して飛び込みの修理に来るよう、路上の然るべき位置に釘を仕掛けておくのだという。

 いわゆる犯罪の手口のことを、Modus Operandiと言うことがある。
 防犯や犯罪対策を考えるうえで、犯罪手口の収集や分析は極めて重要な作業と言えるだろう。このあたりではどのような手口が使われるか知っていれば対策も立てやすいが、手口を知らなければ、使い古された手口にさえ引っかかってしまうに違いない。

 Modus Operandi、久しぶりに聞いた…。

 しかしその一方で、今回のパンク事件では、次のような問題点も明らかになった。
・パンクなどに備えて予備のタイヤはあるが、交換の仕方がわからない。固定されている場所からどのように取り外すのかもよくわからない。
・歩道側に寄せて停車した際、車内に5人いる状態でエンジンを切っている。
・かと思いきや、すぐにタクシーを拾って移動を開始するわけでもないのに、複数の人物が車外に出て待つように言う。何人かが、車のそばになんとなく立って待っている

 この日は日差しが強く、窓を閉め切って空調を止めた状態の車内に5人も乗っているのは、危ない。車の窓を閉めておくのは基本中の基本だが、閉め切っているからこそ空調は切らない。熱射病の危険が生じるから当然である。
 また、必要もないのに、車外に出て車のそばで複数の人間が立って待っているのも危ない。車が故障して困っていますと周囲に宣言しているようなものだからである。外に出なければならない理由が無いなら(襲撃されたとかでないなら)、窓を閉め、ドアをロックし、車外には出ない。
 エンジンを止めない理由として、空調を止めないためというのももちろんあるが、危険回避上の問題でもある。すなわち、車を寄せて止めた状態であっても、危険回避のため、パンク状態でも構わずクルマを緊急に発進する場合がある(襲撃された場合等)ということである。
 そういう危機意識が乏しいと、エンジンを止めて待とうという発想が生まれる。

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