空港の手荷物検査での出来事

 20XX年9月XX日、私はある用事のため北米に向けて成田を発った。しかしこのとき、成田空港で思いもよらぬ事態が発生してしまった。これが原因で、私は二度と手に入らない思い出の品を失うことになってしまった。

 私はその日、成田空港の国際線出発ロビーでアメリカン航空のチェックインを済ませ、出国審査に向かった。私はたいてい、チェックインを済ませるとすぐに出国審査に向かう習慣だ。

 X線検査機にバッグを通すと、モニターの様子を見ていた警備員が私に、

「何か細い、金属製のものは入ってませんか?」

と声をかけてきた。心当たりが無かったのでその旨答えると、警備員は再びバッグをX線検査機にかけ、やはり何かあるらしいことを言う。何度か繰り返すが、何度検査機にかけても金属製のものが映る、と警備員が言うので、やむなく開披検査をすることになってしまった。

 無論、私に異論は無い。怪しいモノを入れたつもりは無い。

 ところが、予想していなかったとんでもないものがバッグから出てきしまった。バッグの底から15㎝くらいの〇〇〇が出てきたのだ。

 私は内心、焦った。

 このようなものが出てくるはずは無い。というか出てきてはいけないはずだ。なぜこのようなことになったのか。この〇〇〇はいったい全体どこから出てきたのだろうか。

「・・・・・」
 
 しかしすぐに思い出した。

 その年の春、久方振りに奥多摩でワンデイトレッキングをしたのだ。あの時、念のためということでバッグにその〇〇〇を入れていた。帰宅後そのことを完全に忘れてしまい、まさに今、機内持ち込み用のバッグとして、〇〇〇が入ったままになっていたそのバッグを持って来てしまったのだ。
 
 ○○〇はバッグの底にちょうどぴったりと収まっていて違和感が全く無く、今回の海外旅行の準備でパッキングをしている間も一切気づかなかった。また、このバッグはどこへ行くにも機内持ち込み用として使っているので、その慣れもあっただろう。

 私は即座に理由を説明した。春に奥多摩へ行ったこと、バッグに入れた〇〇〇を完全に忘れていたこと、この〇〇〇は今この場ですぐに放棄したいこと等々。事実をありのまま正直に伝えた。実際、すべて事実だった。

 しかし、これはすでにアウトだろうと私は思っていた。数センチの小さい〇〇〇なら「忘れていた」で済むかもしれないが、この長さ、このデカさではごまかしきれないだろう。少なくとも○○法違反で書類送検されるであろうし、もしかすると○○〇〇〇〇未遂で逮捕されるかもしれない、と本気で考えた。さて、どうする?どうなる?

「警察の方に立ち会ってもらわないといけないので、少々お待ちください」

 予想通り、警備員は私にそう言って無線を取り出し、「APさん、APさん」と小声で呼びかけた。すぐに一人の制服警官が現れたので、私は先ほど警備員に話した内容を再び正直に説明し、同じ話を計2回聞いている警備員が違和感を感じないようにも注意した。また、ナイフはすぐにこの場で所有権放棄したい旨も強調した。

 警察官は私の話を黙って聞き、話が終わるとポケットからおもむろにメジャーを取り出してナイフの刃の長さを測った後、

「わかりました」

とだけ言ってすぐに去ってしまった。それだけだった。警察官は立ち去り、私は無罪放免。通過を許された。

 呆気にとられたが、まだ安心は出来なかった。

 私が乗るアメリカン航空の便はアメリカ本土へ向かう。南米へ向かうための経由とはいえ、アメリカ本土へ向かう便に乗る場合、手荷物検査で危険なものがひとたび見つかると、現地の警察が問題ないと判断した場合であっても、航空会社の判断でその客の搭乗を拒否する可能性がある。そんな危険人物は乗せられません、というわけだ。

 私はその可能性を考慮し、そうした動きが無いかどうか周囲の様子をうかがいながら慎重に行動し、これ以上おかしな注目を集めることの無いよう気を配っていたが、結局何事も無かった。離陸するまでとそのあとも、何かあるのではないかと警戒していたが、無事に日本を出国することが出来た。

 ただ、セルビアで入手した貴重な○○〇を失う結果になり、無事に済んだとはいえ悲しい思い出になってしまった。

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