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ビジネス書にある“生存者バイアス”という盲点

「認知バイアス大全」マガジン

認知バイアスを集めたマガジン「認知バイアス大全」。200を越える認知バイアスを紹介しています。


成功したひとの話にある落とし穴

ある事故や事件が起こったとき、生き残った人々の話を聞くことができますが、死んでしまった人々の話を聞くことができません。聞くことができる、生き残った人々の話だけをもとに状況を判断することで、その事故・事件について考えることで歪みが生じます。これを生存者バイアスといいます。たとえば、ビジネス書。ビジネス書では、よく成功した企業やアントレプレナーたちの話が例に挙げられ、そこにある共通項を抽象し、それを成功の秘訣として紹介されています。しかし、ここに大きく欠けているのが、「成功しなかった企業」や「没落した企業」です。そういったビジネス書の盲点を紹介した本としてフィル・ローゼンツワイグ氏の『なぜビジネス書は間違うのか』があります。それから、デザイン(設計)における生存者バイアスの危険を紹介した記事もあります。


生存者バイアス

生存者バイアス(survival bias)とは

現在残っているものだけを基準として判断し、淘汰されたものについて考えない傾向

生存者バイアスは、選択バイアス(Selection bias)の1種。


選択バイアス(Selection bias)

適切に無作為なサンプルを抽出しないことで生じる、不正確な分析結果に至る偏りのこと



前後即因果の誤謬

前後即因果(ぜんごそくいんが)の誤謬(ごびゅう)(英語:post hoc)とは、

ある事象が別の事象の後に起きたこととき、前の事象を後の事象の原因と捉えてしまう間違い

です。ない因果関係を、あると混同してしまうもの。呪術や迷信もこの前後即因果の誤謬であることが多い。

生存者バイアスは、この前後即因果の誤謬につながることがあります。たとえば、ある企業の成功について、それが単なる偶然であっても、成功したのは、その企業の特性によるものと信じてしまうとき、生存者バイアスが前後即因果の誤謬につながったといえます。

経済における生存者バイアス

財務業績調査においては、調査期間の終了日に存在していた企業のみが、調査の対象となり、その間に倒産した企業は除外され、消えてしまった企業を考慮にいれないで、調査の結果を出すとき、その結果は、真の状況を示したものではなくなり、歪みが含まれます。

歴史は“生存者バイアス”

歴史には消えていったものたちが不在
source: Connote “History Repeats Itself?”

歴史は、生き残った人々によって語られるため、その殆どがある意味、生存者バイアスといえます。無神論者のミロスのディアゴラス(Diagoras of Melos)は、難破船を脱出した人々の絵について

“神々は人間のことを気にしていないとあなたは言っているが、神々の特別な好意によって死から救われた人々のことはどう考えているのか”

と訊ねられ、次のように返答しています(※1)。

神に見捨てられた人々はここには描かれていない。しかし、その数の方が遥かに多い。

対処

そこにないもの(消えたもの)を材料に加える

私たちの人生やビジネスにおいて、成功した人々の著書や話を大いに参考にします。しかしその一方で成功しなかった人々の声を聞く機会はほとんどありません。こういった成功譚とさきほどあげた前後即因果の誤謬が加わって、わたしたちは、

○○だから成功した

と成功の法則をみた気になります。しかしそこには偶然の一致による要素もたぶんに含まれてきます。たとえば、未だに愛憎含めた知名度の高い、ウィンストン・チャーチルは、第二次世界大戦という状況が彼を首相にしたとも言わています。私たちが成功の法則などを模索するとき、成功譚を参照する際には、この生存者バイアスがあることを念頭においておくと、バランスの良い仮説が立てられるようになることでしょう。


参照


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