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「思考力」と「効率化」で目指す甲子園

今日は前回までの #教えて翔さん シリーズではなく、なんとなく気になったニュースを元に、書いていこうと思います。

僕が気になったニュースはこちらです

この記事は広島の私立高校である武田高校という高校の野球部の話です。武田高校なんて高校は正直聞いたことがないし、記事を読む限りかなり山奥にある学校で、調べたところ偏差値も58−61ほどと、そこそこの進学校のようでしたが、野球に関しては全くの無名校です。
ここで広島県の高校野球事情に少しだけ言及しますが、広島の王者と言えば、広陵高校。中国地方で見ても有数の野球名門校で、カープの野村投手や巨人の西村投手、小林捕手など数多くのプロ野球選手を排出しており、最近では一昨年の夏、一気に甲子園のスターにのし上がった中村奨成捕手(現在カープ)の出身校でもあります。そんな超名門広陵高校や、広島工業(新井貴浩選手の母校)や広島商業(柳田悠岐選手の母校)などの古豪、さらに新興勢力如水館や広島新庄(ジャイアンツ田口麗人投手の母校)などの高校を中心に甲子園進出を争っている、中国地方屈指の激戦区です。
そんな広島県の中で無名高校が甲子園に行くことの難しさは推して知るべしで、実際過去の夏の優勝校を見ても、広陵、広島工業、広島商業、如水館、広島新庄の5校以外が優勝したのは15回のみ。(広島県が単独で代表校を決めるように独立したのが第40回大会からなのでその時点から集計。)昨夏が第100回大会だったので広島県からは計61回優勝校が決まっているわけですが、その実に75%以上が先述した5校で占められています。

広島県は比較的高校数も多く、伝統的な名門校が多い場所ですので、新興勢力が出づらく、ましてや山奥の進学校が甲子園を目指すのは本当に困難な道です。単純比較はできないけれど、確率だけで見れば甲子園出場は東大に入るよりも倍くらい難しい。

(その辺りの確率論はこちらのブログを参考にさせていただきました↓)

何が言いたいのかというと、とにかく難しいことにチャレンジしているのだということ。ちなみに先ほどの記事が本当だとしたら、平日の練習時間がわずかに50分とのこと。これは信じられない…。
僕自身は静岡の弱小進学校でやっていましたが、それでも放課後16時くらいから20時頃までは毎日練習をしていた記憶があり、終わってからも自主練習をしていくのが当然だったので、21時頃までは年中練習をやっていました。それでも全然勝てなかった。
高校生当時は本当に辛かったのですが、ただただ辛い練習をたくさんしたところでダメなんだな、と今となればそう思います。だって他の高校もそのくらい練習していたし、私立の強豪校なんかも、有力選手が集まっている上により優れた環境、指導者、設備で長時間練習しているわけで、なかなか差が埋まりません。と言うか差が開く一方かもしれません。
もともと運動能力の高い選手が集待っていてなおかつ圧倒的な環境と練習量をこなす野球名門校にいかにして勝つのか、当時はそのことを頭を使って考えてプレーしていたつもりでしたが、最後の夏はストライプのユニフォームの私立強豪校に完膚なきまでに叩き潰されたのでした…今思い出しても辛い。

そんな自分の苦い経験があるからこそ、このてのニュースには心が踊りますし、甲子園に進学校が登場すると嬉しくなります。熊本の済済黌とか、滋賀の彦根東、膳所とか…
そんなこんなでかなりワクワク記事を読んでいましたが、この記事というかこの高校の取り組みは素晴らしいと思いました。大切だなと思ったところをピックアップすると『理不尽ではなく数字で苦しむ』『具体的な数字を目標にする』の2点。
そもそも謎の上下関係から始まる日本の高校野球は、理不尽の掃き溜めのようになっていると思います。先輩後輩の上下関係は厳しく、挨拶もどこかおかしい、そもそも坊主に理由はあるのかわかりませんがほとんどの高校が坊主で監督も死ぬほど恐ろしい方が多いです。いわゆる軍隊式。これは何故かといえば、辛い練習を恐怖心を使って強制していたからでしかなく、そういった練習は選手自身の自主性や思考力を奪い「どうすれば叱られないか」ばかり考えながら、手を抜く方法を考えるような選手を育ててしまう恐れがあると思います。その場しのぎの練習をするようになり、結果自分の足りないものが何かとか、自分の伸ばすべき長所が何かをわからずに(わかっていたとしてもそれを伸ばす機会も与えられずに)盲目的に全体練習に取り組んでしまう。
『理不尽ではなく数字で苦しむ』というのはこの武田高校の特徴で、かなり革新的だと思うのですが、普段の練習試合のデータなどから各自の能力が数字として顕在化させることによって、各個人のストロング/ウィークポイントを明らかにし、さらにドラフト指名選手とかとその数字を比較することで自分の現在位置を認識できる。これは「思考力」の強化のために行なっていると思います。数字をみて自分で課題を見つけることができるのは社会人になっても絶対に生かすことのできる能力だし、たとえ数字に現れなくても自分を客観視して、どうしたらもっと上にいけるのか思考して能動的に取り組むことができる能力(思考力)というのは、何をやる上でも非常に大切な能力だと思います。高校野球の現場でこれを実践しているのはすごいこと。

さらに個人としてもチームとしても『具体的な数字を目標にする』ということ。武田高校は”チームホームラン○本”や”球速140km”などとてもワクワクする目標設定をしていします。この目標自体全く日本の高校野球っぽくないのですが、本来「ホームランを打ちたい」とか「速い球を投げたい」は野球少年にとっては誰もが抱く夢だったりするので、そんな目標を掲げられること自体、選手としてはワクワクしてしまうと思います。
さらにいえば、ホームランは何よりも効率的な攻撃だし、速い球に勝る武器もないので単純に効率だけみてもこの目標は理にかなっており、より効率的な方向に努力のベクトルを向けることができます。しかもそれで広島県でベスト8を成し遂げていること。結果が出ているからこそ、選手たちもこの方針を信じて努力できる。
たった24人の選手で、入学時点で有力選手がほとんどいないにも関わらず、思考力の強化と数字による目標設定、それらによる正しい方向性の努力によって個人の力量を効率的に向上させ、そういった結果を出していることは、練習時間や人材に限りのある地方の進学校などにとって励みになるものなのではないでしょうか。

なんでこの武田高校がこのようなスタイルに至ったのか、それに関してもこの記事の中で言及されているのですが、岡嵜監督の異色の経歴によるところが大きいようです。王道広島商業野球部から神戸学院大学野球部を経て社会人野球をやり、渡米してプロを目指し、アメリカでカルチャーショックを受けた。帰国して独立リーグでプレーした後にホッケー部の監督として結果を残し、野球指導者に・・・こんな経験してる指導者の方、本当に少ないと思いますし、アメリカの野球を経験したことは岡嵜監督の中でも大きかったようです。「自ら選択してやる。やらされていない。」ということ。

岡嵜監督の指導方針として”大きく育てたい”という思いがあるようで、彼は決して甲子園出場やプロ野球選手輩出を最終目標にしていない。もっと広い視野でこのスタイルを貫いているのだと思います。

さて、やっとここでタイトルの回収をしていきたいと思いますが、「思考力」と「効率化」は日本の高校野球界の新しい課題だと思います。今も昔も野球部といえば「体育会系の部活」の代名詞です。坊主、厳しい上下関係、しごき、長時間の練習、必要以上に厳しいルール など。これはこれで僕としては「世の中の理不尽さを学ぶ場」としてすごくよかったと思うのですが、やはり今の時代にそぐわないし、もう世間もこんな人材を求めていないのでしょう。昔であれば、上司の命令に盲目的に従い、課された仕事はたとえ苦しくてもサービス残業だろうがなんでもやり抜く、そんな軍隊式会社人間は一定の需要があったことだと思います。今も需要はあるのかもしれませんが、これからの時代の生き方は着実に変わっていっているような気がします。きっとそんな時代のキーワードは「思考力」と「効率化」です。

日本が「モーレツサラリーマン」たちのパワーで世界一の経済大国にまでのし上がったのももはや過去の話。働き方も変わっているし、人口減少もあって残業構造自体も大きく変わっていくことだと思います。そんなとき、個人個人は「思考力」が問われる。自分が今何をすべきか、をしっかり言語化して説明でき、それに向かって努力できる自発的な「思考力」と、結果まで最短距離で駆け抜けるための「効率化」する能力が重要になっていく気がしています。

僕は高校野球が大好きですが、そこからプロ野球選手になる人なんて本当に限られた人しかいません。(ある記事で見かけた数字だと、プロになる確率は約0.03%とのことでした!!)だからこそ、ほとんどの選手が社会人になった時にしっかりと役立つこの姿勢を高校時代に身に付けることは何ものにも代え難い価値があると思います。その教育的な指導も入れながら、結果を出すことこそ、学校の部活の難しいところなのですが、着実に結果を出している学校が存在し、それがこうやってメディアで特集されることが非常に良いことだと思いますし、他の高校があとを追うようになると、これからの体育会の学生のイメージもかわるし、学校の部活として”高校野球”がある意義がより一層出てくると思います。

将来、日本の野球界もJリーグのようにユースチームを持ち、幼い頃から野球の英才教育を施すことが当たり前になるかもしれませんが、これだけ人気があり人々をひきつけ続けている日本の高校野球が、今後もさらに発展していくためにも、武田高校野球部には学校の部活ならではの”教育的かつ強くなる”活動を取り組み続けて欲しいと思っていますし、こんな高校や指導者が増えることを願います。

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