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「あの日にかえりたい」(昭和50年 1975)荒井由実

 2曲目に、ユーミンの中で一番好きな曲を取り上げたいと思います。

 なぜ、この曲が好きなのか、自分でもよくわからないのですが、気が付くとユーミン声で口ずさんでしまっています(笑)

 調べてみると、ベースが細野晴臣、ギターが鈴木茂、キーボードが結婚前の松任谷正隆、コーラスが山本潤子と、そうそうたる面々のミュージシャンがレコーディングに参加しています。

 失恋した女性の葛藤と、その後の決断を歌にしたものになっています。
 まず、曲の冒頭の歌詞から、

 ♪泣きながらちぎった写真を 手のひらにつなげてみるの

と、のっけから悲しい場面が登場します。確かに、この頃のテレビドラマの世界で、そういうシーンを何度も目にしたことがあります。ちぎった写真は、そのままはらはらと手から下に落ちることが多く、(普通なら、ちゃんとゴミ箱に入れるだろうにな…)と思ったものです(笑)しかし、それでは、哀しみを表現することにならないのでしょう。
 また、写真を大きめの灰皿の中や、ややもすると、洗い場の三角コーナーの中で燃やす、という行動に出る役者も居ました。この場合は、ちぎるときの気持ちよりも冷静な気持ちで過去を断ち切ろうとする表現要素があると思います。三角コーナーの中で燃やす場合は、そりゃあもう、その写真に写っている人を冷徹に捨て去ろうという気持ちの表現になろうかと思います。
 でも、最も、冷徹な断ち切り方は…と想像すると、それは、写真を握りつぶしてからゴミ箱にポイ、だと思います(笑)要するに、写真を燃やすという行為は、“亡き人を火葬する”のと同じだろうと思います。それが、灰皿の中なのか三角コーナーの中なのかは別として、火葬して見送るというそれなりの気持ちがある行為だと思います。

 話を戻すと、曲の中の女性は、ちぎった写真をごみ箱に捨てるどころかパズルのようにつなぎ合わせてしまうわけです。もう、この冒頭の歌詞だけで女性には元恋人への未練があることが分かります。

 1番の歌詞の最後では、

 ♪青春の後ろ姿を 人はみな忘れてしまう
  あの頃のわたしに戻って あなたに会いたい

という、無理な願いを、それでも願います。
 青春時代のことを忘れずに、純粋な気持ちのままで、あなたにもう一度会いたい、という気持ちなのでしょうか。

 2番の歌詞の最後です。

 ♪今愛を捨ててしまえば 傷つける人もないけど
  少しだけにじんだアドレス 扉にはさんで帰るわ あの日に

 この最後の歌詞で、やっぱり、やられてしまいます。
 この女性が昔の恋人を思うことで傷つけてしまう人が現在居ることを告白し、さらに、涙でにじんだ自分の住所を書いたメモか手紙を元恋人の家のドアにはさんでいきます。
 おそらく、昔通りに愛し合えないことをわかっていながらも、なおもそれを求めずにおれない、という気持ちがあるのかもしれません。
 そして、「扉にはさんで帰る」というのは、“女性の自宅に帰る”のと“あの日に帰る”という、場所と過去の時間の二つを掛け合わせているわけですが、「あの日に」というほんの短い歌詞を最後に付け加えることで表現してしまうユーミンの妙。
 ライブでの演奏だと、「あの日に」のあとにさらに「帰るわ」と付け加えていたりします。

 ちなみに、この曲の歌詞を正確に知らなかった若い頃、「少しだけにじんだアドレス」のところをユーミンが何て歌っているのかわからず「少しだけ~にじんだ~ので~す」と思っていて(「にじんだのです」ってなんだ??)と不思議でした(笑)

 
♪「あの日にかえりたい」(昭和53年 1978)荒井由実
 作詞・作曲:荒井由実
https://www.youtube.com/watch?v=pWAApEPEtrU(静止画 シングルバージョン)
https://www.youtube.com/watch?v=TuN73HTW63k(動画 ライブバージョン)