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パリ~ルーベ・ファム2021

「モニュメント」の1つ、1896年から開催されている伝統的な石畳レース、パリ~ルーベ。

その女子版がついに開催されることとなった。本来であれば昨年初開催される予定だったが、新型コロナウィルスの影響により中止。今年も本来の春から延期にはなったものの、無事にその第1回が開催された。

コースは男子の257.7㎞と違い115.6㎞と半分以下。

但し、最初の石畳まで100㎞近く舗装路を走り続ける男子レースと異なり、女子レースはスタートから33.1㎞地点にいきなり最初のパヴェ(石畳区間)。しかも全体の4分の1が石畳区間であり、男子レースでも勝負所となる2つの5つ星パヴェ区間「モンサン=ペヴェル」と「カルフール・ド・ラルブル」を含む17個の石畳区間は、男子と全く同じ構成。

むしろ難易度は増しているとすら言えるのではないかというのが女子版パリ~ルーベのコースの特徴だ。

コースの詳細は以下リンクより


さて、そんな女子レースの展開は、驚くべきものであった。

まず、出発地点のドゥナンの町周辺の周回コースを3周ほどした後、スタートから33.1㎞地点・フィニッシュまで82.5㎞地点から始まる最初のパヴェ区間「オルネン~ヴァンディニー」に突入すると同時に集団からエリザベス・ダイグナン(トレック・セガフレード)がアタック。

女子史上最初の「ルーベの石畳」を踏んだのはイギリス人の元世界王者となった。


しかしまさか、このアタックが、100年を超えるパリ~ルーベの中でも最も長い「独走勝利」の歴史を刻むものになろうとは。


要因の1つは、トレック・セガフレードの圧倒的チーム力の高さであった。

今年のTT世界王者にしてヨーロッパ選手権ロード王者になるなど絶好調のエレン・ファンダイクに、世界選手権ロードでもエリザ・バルサモによる勝利の最大の立役者となった東京オリンピック銅メダリスト、エリザ・ロンゴボルギーニ

むしろその中でダイグナンは今期に関して言えばそこまで調子が良くなく、リザルトが出ていなかったため、この顔ぶれの中では一番自由に走れる立場でもあった。

その、「失うものが何もない」という状態が、第1回パリ~ルーベの残り80㎞超からの独走という大挑戦に挑ませる理由となった。


一方、集団側でも初めての平坦石畳レース。どのように戦うべきかなど、知っている者など誰もいなかった。

最も注目されていたのはマリアンヌ・フォス(ユンボ・ヴィスマ)。ロードレースにおける地の強さはもちろん、シクロクロスでも7回の世界王者に輝いているという実績が、初代パリ~ルーベ覇者に相応しいと誰もが思っていた。

しかし彼女が率いるユンボ・ヴィスマは、今年新創設のチーム。アンナ・ヘンダーソンリエンヌ・マーカスなど、実力者たちは揃ってはいるものの、エースという意味では明らかなフォス一択。ゆえに彼女は、自由に動く―—それも80㎞も残して——ことは許されず、「待つ」しかなかった。

他に強かったのはモビスター・チーム。東京オリンピック銀メダリストのアネミエク・ファンフルーテンこそ落車鎖骨骨折によりDNFとなってしまったが、オード・ビアニックリア・トーマス、そしてエマセシル・ノースガードの3人が絞り込まれていく追走集団の中に残り続けていた。

「女子最強軍団」SDワークスもシャンタル・ブラーククリスティーヌ・マジュラスの2人が集団内に残っていたが・・・いずれも足並みはそろわず。

そもそも、石畳濃度の高いレースにおいては、もはや集団のメリットなど皆無に等しい。むしろ先頭で独りで走り続けていた方が、狭く足を取られる石畳路の中でもストレスなく走り続けることが可能で、後続では互いの小さな動きをきっかけに落車が頻発するなど、どうしようもない状態が続いてしまった。

その中に鎮座するトレック・セガフレードの優勝候補2人。そこにオードレイ・コルダンの姿もあり3名。

残り34.8㎞で先頭ダイグナンと20名近いメイン集団とのタイム差は2分35秒。

もはや、決着といっても良い状態となった。

【参考:残り21.6㎞時点での追走16名の顔ぶれ】
エレン・ファンダイク(トレック・セガフレード)
オードレイ・コルダン(トレック・セガフレード)
エリーザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード))
マリアンヌ・フォス(ユンボ・ヴィスマ)
シャンタル・ブラーク(SDワークス)
クリスティーヌ・マジュラス(SDワークス)
オード・ビアニック(モビスター・チーム)
エマセシル・ノースガード(モビスター・チーム)
リア・トーマス(モビスター・チーム)
リサ・ブレナウアー(セラティツィット・WNTプロサイクリング)
フランツィスカ・コッホ(チームDSM)
マルタ・カヴァッリ(FDJヌーベルアキテーヌ・フチュロスコープ)
マルタ・バスティアネッリ(アレ・BTCリュブリャナ)
サラ・ロイ(チーム・バイクエクスチェンジ)
マリア・マルティンス(ドロップス・ル・コルs/bテンプル)
マヨレイン・ファンテローフ(ドロップス・ル・コルs/bテンプル)


だが、やはりこの女は諦めてはいなかった。

「女王」マリアンヌ・フォス。世界選手権ロードレースでも、必勝の体制を用意されながらも、最後の最後にそのチャンスを目の前で失ってしまう、悔しい敗北を喫した彼女は、もはや集団内にいてもまったく意味がないということを悟り、残り19.9㎞、勝負所「カンファナン=ペヴェル(★★★★)」にて単独でアタックを仕掛けた。

直後、集団内で落車が発生。ファンダイク、サラ・ロイ、ノルスゴー、マジュラスなど有力勢が次々と路肩に倒れ込む。

ただ一人、エリーザ・ロンゴボルギーニだけがフォスのアタックに反応し食らいついていったが、しかしフォスの圧倒的な走りはそのロンゴボルギーニすら置き去りにして、鬼気迫る勢いで先頭ダイグナンに向かっていった。

ここまで60㎞以上にわたり逃げ続けてきていたダイグナンもさすがに限界。

フォスと彼女とのタイム差は、着実に縮まっていく。



しかし、それでもこの時点で2分以上開いていたタイム差は、さすがに埋めようがなかった。

最後の5つ星パヴェ区間「カルフール・ド・ラルブル」を越えてもなお、そのタイム差はまだ1分36秒。

残り11.5㎞地点で1分17秒にまでこのタイム差を縮めることには成功したものの、そこから先は、もうダイグナンの足を止める厳しい石畳は存在していなかった。


そして、栄光のベロドロームは、その100年の歴史の中でついに最初の女性チャンピオンを迎え入れた。

それは奇しくも、100年以上にわたるパリ~ルーベの歴史の中でも一人も現れなかった、イギリス人の王者であった。

そして先述したように、史上最長となる80㎞独走勝利。

エリザベス・ダイグナンは、新たな歴史の1ページを確かに刻み付けた。

そしてそれは、チームの力による勝利という、実にロードレースらしい結果であった。

2.パリ~ルーベ・ファム


さて、男子レースは果たしてどうなるのか。

過去10年のレースを振り返りながら注目すべき7つのセクションを解説した以下記事や、


個人的に注目する選手たちをピックアップした以下記事、


あるいは自転車ロードレースシミュレーションゲーム「Pro Cycling Manager 2021」で予習実況してみた以下動画などを参考にしていただけると幸い。


2年半ぶりの開催となる男子パリ~ルーベの結末にも、大いに期待していきたい。

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