UCIロード世界選手権2021「フランドル」女子エリートロードレース
アントウェルペンからルーヴェンを一度通過し、オーベレルエイセ周辺の「フランドリアンサーキット」を1周。
その後再びルーヴェンの街に戻り、「ルーヴェンサーキット」を2.5周してフィニッシュする、全長157.7㎞・総獲得標高1,047m。
ブラバンツペイルでも使用される、狭い石畳の短い急坂「モスケストラート」や「ベケストラート」が登場するフランドリアンサーキットは非常に厳しいレイアウトではあるが、そこを終えてからフィニッシュまでも40㎞以上残っている。
オランダの重要な優勝候補かつアシストの1人であるデミ・フォレリングがこのモスケストラートでメカトラブルに遭い後方に取り残されるが、これを待つオランダの動きもあり彼女自身も復帰。集団も大きく縮小することなく最後のルーヴェンサーキット周回に突入する。但し、東京オリンピック以来「燃え尽き症候群」状態となっていたアンナ・ファンデルブレッヘン(オランダ)や、今年登れるスプリンターとして大覚醒中だったエマセシル・ノースガード(デンマーク)などはルーヴェンサーキット突入時点で後方に取り残される格好となった。
あとはルーヴェンサーキットでの戦い。ここでは、最後のスプリント勝負に持ち込みたくない各国が、なんとかして勝機を見出そうと動き、それをオランダが全力で抑え込んでいく展開の連続となった。
まずはフランドリアンサーキットの出口にあたるスメイスベルフ(Smeysberg)でアシュリー・ムールマン(南アフリカ)がアタック。ここにマリアンヌ・フォス(オランダ)、カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)、エリザベス・ダイグナン(イギリス)などが反応。最後はエレン・ファンダイク(オランダ)が集団の頭を取ってこれを抑え込んだ。
残り24㎞でマビ・ガルシア(スペイン)が抜け出して独走を開始。見事なタイミングで、追走集団もお見合い状態。最大で30秒のギャップが生まれるが、さすがに純粋クライマーに近いガルシアが逃げ切れるようなコースではなかった。ルシンダ・ブラントやアネミエク・ファンフルーテン、フォスもここに加わったオランダ勢がしっかりと集団を牽引し、残り11㎞のカイザーベルフ(Keizerberg)でガルシアは捕まえられた。
この時点で先頭集団は40名近く。いわゆる「丘陵レース」のようなサバイバルな展開にはなり切れていない中で、さらなる攻撃が続く。
残り6㎞。ヴァインペルス(Wijnpers)の9%の登り。ここでニエウィアドマがアタック。最後のスプリントに望むべくもない彼女にとって、短くとも厳しい登りでとにかく勝負を仕掛けるしかない。だがここにもしっかりとファンダイクとフォスが食らいつき、抑え込みにかかる。
一旦吸収した集団から残り4.5㎞でファンフルーテンがアタック。さらにはこれが引き戻されると今度はファンダイクがアタック!
いずれもアタックは決まらない。普段の厳しいレースならばこのいずれかの攻撃は決まりそうなものだが、とにかく今回のルーヴェン周回は一つ一つの登りが短く、アタックが決まりづらい。それが実に良いスパイスを加えている。
だが、オランダにとってはこれは決して悪くはない展開。
むしろ彼女たちが攻撃を仕掛けることでライバル国に先手を取られるのを防ぎ、最後はきっちりと、こういう展開に強いフォスが決めてくれるのを目指す。
いや、逆の見方もある。
強い選手たちが揃っているオランダだからこそ、「紛れ」がありうる最後のスプリントに賭け切りたくもないので、独走力の高いファンフルーテンやファンダイクにチャンスを掴んでも欲しい。
だが、これがうまくいかない。
残り1.5㎞。最後の勝負所、シント=アントニウスベルグ。
ここで再びニエウィアドマがアタック。やはり彼女にはここしかない。しかしここにもオランダとイタリアの選手が食らいつき、決定的な差をつける間もなくたった200mのシント=アントニウスベルグの登りは終了し、ニエウィアドマも諦めざるをえなかった。
そして、集団スプリント。それなりの規模の集団。集団内にはコリン・リヴェラもロッテ・コペッキーもいて、どうなるか全く分からない。
だが、やはりここまでの展開で、彼女らスプリンターたちはさすがに足が限界に来ていたようだ。
むしろここで動いたのは、中盤まで全く存在感を消しつつ、この最終局面で突如として常に集団先頭で動き始めたイタリア。
優勝候補エリーザ・ロンゴボルギーニが、ここまでしっかりと残ることに成功していたスプリンターのエリザ・バルサモを牽引し、一気に集団から抜け出す。
それはもはやロングスプリント、アタックのような勢いだった。本来であれば集団スプリントになりそうだったプロトンを突き放し、バルサモを引き連れて抜け出すロンゴボルギーニ。
だが、フォスもここでしっかりとこれに食らいついた。先頭ロンゴボルギーニの、2番手バルサモ。そしてその後ろにフォス。
フォスは完璧な動きをしてみせた。これはもう、フォスの勝利でほぼ間違いなかった。
だが、最後、バルサモは粘り切った。
フォスに横に並びかけられて、しかしそこから失速せず、さらに踏み込んだ。
「まったく言葉にならない。本当に信じられない。それは長い間の夢だった。私のチームはとても、とても強かった。彼女らがいなければ、このジャージはありえなかった。彼女は本当に、本当に素晴らしかった。ごめんなさい、言葉が出ないの。私のチームは私に完璧なリードアウトをもたらしてくれて、私は彼女たちをただひたすら信じるだけだった。最後のコーナーを曲がったとき、私は頭の中のスイッチを切った。そして私は私に、ただひたすら無我夢中でフルガスで走ること、そして後ろで何が起きていようと、決してそれを見ようとしないこと、と言い聞かせた」
今年23歳の若きイタリア人スプリンター。
大きな勝利は2年前のツアー・オブ・カリフォルニアや昨年のマドリッド・チャレンジくらいで、今大会に出場した錚々たる顔ぶれの中では決して優勝候補上位に入ってくるような選手ではなかった。
だが、チームとして実に強い走りをしてみせた。そして最後は狙い通りの、ロンゴボルギーニによるリードアウトからの「女王」フォスとの真っ向勝負。
オランダも、決して何かミスをしたわけではなかった。最後までやるべきことはすべてやってのけ、最後もフォスは素晴らしい動きをしてみせた。あえて言うなら、動きすぎて最後はフォスただ一人で勝負をしなければならなくなっていたことくらいか?
しかしそうなったのもすべて、ロンゴボルギーニの素晴らしいリードアウトがそうさせたとも言える。とにかく、オランダは予想された通り強かったが、それ以上にイタリアが完璧すぎたのだ。
果たして、明日の男子エリートロードレースはどうなる?