ジロ・デ・イタリア2022 第5ステージ
第4ステージはこちらから。
ヴィンツェンツォ・ニバリの生誕地、シチリア島東端のメッシーナへと至る174㎞。
コースの丁度中央に登坂距離19.5㎞、平均勾配4%の2級山岳が聳え立ち、スプリンターたちを振るい落としたいチームとそれを阻止したいアシストたちとの激戦が予想されるちょっと特殊なスプリントステージだ。
逃げは5名。
ヤーコ・ハンニネン(AG2Rシトロエン・チーム)
アレッサンドロ・トネッリ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
マッティア・バイス(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
フィリッポ・タリアーニ(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
ミルコ・マエストリ(エオーロ・コメタ)
だが、昨日とは打って変わって、この日はこの逃げ集団にチャンスなど微塵も存在しなかった。
何しろ、やはりというか、問題の2級山岳で早速闘いのゴングが鳴り響いたのである。
残り106.4㎞。メイン集団の先頭で、アルペシン・フェニックスのドリース・デボントがマリア・チクラミーノを身に纏うマチュー・ファンデルプールを引き連れて一気にペースアップ。
すでにチームのエーススプリンターであるヤクブ・マレツコが前日にリタイアしており、この日はファンデルプールが自らスプリント勝利を狙う予定。
当然、彼にとって勝利のためにはピュアスプリンターは邪魔であり、チームとしてもこのふるい落としの動きは必然であった。
3分半近くあった先頭とのタイム差を一気に1分、2分と縮めていくペースでアルペシンが加速していったことで、集団からはカレブ・ユアン(ロット・スーダル)、マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファヴィニル)、そしてアルノー・デマール(グルパマFDJ)といったこの日の優勝候補たちが次々と脱落していった。
もちろん、頂上からフィニッシュ地点までは100㎞近く残っており、遅れたスプリンターたちもフィニッシュまでの間に集団復帰することもよくあるパターン。
引き千切ることには成功したメイン集団の生き残りチームとしては、この脱落組を戻さないためのペース維持が非常に重要になっていく。
そのため、下りでは今度はビニヤム・ギルマイ率いるアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオがペースアップ。
カヴェンディッシュ、ユアンといった今大会最強格の2人は復帰が絶望的になるほどまで突き放されることとなった。
そしてそのついでに、とばっちりをくらう形で、下り切った後の残り67㎞で逃げ5名はすべて吸収されてしまった。
そしてその直後、残り65㎞あたりでなんとアルノー・デマールが復帰。最終発射台ヤコポ・グアルニエーリはカヴェンディッシュと共に遅れていたが、デマールはマイルス・スコットソンやイグナタス・コノヴァロヴァスのアシストを受け、しっかりと集団復帰を果たしていた。
そしてさらに、そのグルパマFDJのアシストたちがすぐさま集団の先頭に立って牽引を開始する。
マーク・カヴェンディッシュとカレブ・ユアン。世界最強スプリンターの一角たる2人が脱落した中で、第3ステージ3位のデマールにとっては大きなチャンスであることは間違いない。
もちろん、そのチャンスは第3ステージ2位のフェルナンド・ガビリア率いるUAEチーム・エミレーツ、そして昨年も区間1勝しているジャコモ・ニッツォーロ率いるイスラエル・プレミアテックにとっても同様であった。
それぞれが全力で牽引し、新たな逃げ集団も生まれる余地がないまま、ついにカヴェンディッシュもカレブ・ユアンも諦める中、生き残ったスプリンターたちによるスプリント決戦が繰り広げられることに。
直角コーナーが連続するテクニカルなラスト5㎞で、集団はたびたび長く引き伸ばされ、どのチームも主導権を握れない状況が続く。
そして残り800m。鋭角左コーナーを経て、長いホームストレートがやってくる。
このストレートで飛び出したのがグルパマFDJのラモン・シンケルダム。アルノー・デマールの右腕とも言うべきエース発射台グアルニエーリと比べると、どうしても「2番手」の存在、いわば2軍選手的な存在だったシンケルダムだったが、この日は「1軍」グアルニエーリが山で脱落。となれば、デマールにとって最後に頼りになるのはこの男だった。
普段であればなかなか「1軍」メンバーと一緒にレースに出ることも多くはない彼だったが、今回はチームの4分の3をデマールのための選手で固めるという超デマール体制だったがゆえにチャンスを掴んだ彼が、そのアシストの層の厚さを結果に結びつけるべく、ラスト600mからデマールを引き連れて先頭に一気に躍り出る!
この勢いに食らいつけたのはリック・ツァベル(イスラエル・プレミアテック)だけだった。元アレクサンデル・クリストフの右腕的存在。彼と離れてからはイマイチ存在感を示せずエースとしても大成できなかった「偉大なる男の息子」は、しかし今年、ここまでかなり好調子。UAEツアーではアシストとしてトップクラスの足を見せる場面もあった。
しかし、そんなツァベルの全力リードアウトも、背後にエースが不在ではどうしようもない。むしろフェルナンド・ガビリアのための最高の発射台となってくれたようなものだった。
そんなツァベルも残り200mで脱落し、同時にアルノー・デマールがシンケルダムの背中から発射。
シンケルダムの猛牽引によって、ほとんど足を止めていたかのような安楽状態に保たれていたデマールは、少し長めのスプリントではあったが、他を寄せ付けない圧倒的な加速力を見せて、そのまま先頭でフィニッシュラインに突っ込んでいった。
チーム・デマールの完璧なる勝利。アルノー・デマール、今期初勝利。そして2年前のジロ・デ・イタリア4勝目以来となる、2年ぶりのワールドツアー勝利となった。
2位のガビリアは悔しそうに何度もハンドルを叩く。しかし彼と彼のチームもこの日、確かに頑張った。そしてガビリアは相変わらず勝てないが、安定して上位に入り続けており、調子が良いのは間違いない。
そしてギルマイも、最後位置取りが悪く全力でスプリントできなかったがゆえに沈んだのであって、やはりこのトップスプリンターの中でしっかりと上位に食い込んでいくのはさすがである。
明日の第6ステージは今日のような荒れた展開にはなりづらそうな純粋スプリントステージ。カヴェンディッシュ、ユアンは逆襲できるか。
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