X2Oバドカマー・トロフェー2020-2021 第3戦 アントウェルペン(スヘルデクロス)
シクロクロス3大シリーズ戦の1つ「X2Oバドカマー・トロフェー」の第3戦スヘルデクロスが、12/12(土)にベルギー第二の都市アントウェルペンを舞台に開催された。
その名の通りアントウェルペンの郊外、とくにスヘルデ川沿いのエリアを使用しており、川沿いの長いサンドセクションが特徴であり勝負所。
男子レースではマチュー・ファンデルポールの今期シクロクロス初戦ということで注目が集まった。
1.女子レース
今回は5周。
ひたすら絶好調のルシンダ・ブラント(テレネット・バロワーズライオン)がいきなり独走を開始。これを世界王者のセイリン・アルバラード(アルペシン・フェニックス)が追いかけるという、いつもの構図。
だが3周目に入るくらいまでの間に、ここにアンマリー・ウォルスト(777)、デニーセ・ヴェツェマ(パウェルス・サウゼンビンゴール)、そしてX2Oトロフェー総合首位のヤラ・カステライン(クレディショップ・フリスタッズ)が追いついて5名パックに。
そしてここで悲劇が。
急勾配の登り区間で、重いギアのまま踏み過ぎてしまったのか、アルバラードがチェーンを落とす。何かゴミのようなものを巻き込んだとも。
いずれにせよ、彼女自身の手ではどうしようもできない状態になってしまいしばらく立ち往生。もはや、担いでピットエリアまで走らなくてはいけないと腹を括るも、不幸なことにピットエリアまではかなり距離がある。
結局この日、3分59秒遅れの23位でフィニッシュしたアルバラード。元々このX2Oトロフェーでは2分近い遅れを喫しており、この日の結果によって総合争いからは完全に脱落することに。
マウンテンバイクとロードレースとの「三足の草鞋」で頑張り続けるアルバラードだが、今年はさすがにその疲労がすべてのしかかってきて、今回は不運も災いし、まさに踏んだり蹴ったりの状態が続いている。
一方、絶好調はルシンダ・ブラントわけだが、この3周目の途中でなんとベツェマが抜け出して独走を開始する。
ブラントは少しペースを落とし気味。序盤でペースを上げ過ぎたか? 先頭ベツェマとのタイム差は10秒に開く。そして総合首位のカステラインは完全に失速し、その座を奪われることはほぼ確定した。
最大で12秒差にまで開いたベツェマとブラントだが、最終周回でブラントが持ち直す。逆にブラントと一緒に走っていたはずのウォルストが一気に突き放されていく。ベツェマとウォルストとのタイム差が20秒を超え、ベツェマがウォルストの順位を抜くこともほぼ決まった。
そして最後の最後まで、鬼気迫る勢いでベツェマとのギャップを縮めていくブラント。やはり、強い。
だがそれでも、ベツェマはしっかりと逃げ切った。
わずか5秒差を残して、デニーセ・ベツェマ、今期3大シリーズ戦では初の勝利となった。2年前の同じこのスヘルデクロス以来の3大シリーズ戦勝利である。
【X2Oトロフェー女子 第3戦アントウェルペン リザルト】
この勝利により、ベツェマはウォルストを抜いて総合3位に浮上。
そしてこのベツェマに迫る走りを見せたブラントが総合首位に浮上し、これで3大シリーズ戦すべてで総合首位に立つこととなった。
【X2Oトロフェー女子 第3戦までの総合リザルト】
このままブラントが最後まで「完全勝利」を成し遂げてしまうのか。
2.男子レース
男子は8周。
いよいよマチュー・ファンデルポール(アルペシン・フェニックス)が今期シクロクロス初参戦。久々の参戦となるものの、昨年も圧倒的な成績を叩き出していたためにUCIポイントはまだ十分に残っており、第一列目からのスタートとなった。
最序盤はラース・ファンデルハール(テレネット・バロワーズライオン)が先頭に。しかし2周目に入る頃にはマチュー・ファンデルポールが先頭に立ちペースアップ。ヨーロッパ王者エリ・イゼルビット(パウェルズ・サウゼンビンゴール)のみが食らいつき、二人が集団から完全に抜け出す格好となった。
そして2周目の中盤。スヘルデ川沿いのサンドセクションで徐々に突き放されていくイゼルビット。自転車を「担ぐ」ファンデルポールに対し、イゼルビットは早くもそれを「押して走る」状態になっており、最初から勢い込んでファンデルポールのペースについていこうと無理をした結果、すでにして体力が底をつきかけているようにも見えた。
実際、ファンデルポールとイゼルビットとのタイム差はどんどん開いていき、それどころか単独3位で追走を仕掛けてきていたクエンティン・ヘルマンス(トルマンス・シクロクロスチーム)に追い付かれる始末。先頭を独走するファンデルポールは一時サンドセクションで前転するような派手なコケ方をしたものの、それがまったくビハインドにならないくらいにその差は圧倒的であった。
やはり、怪物は怪物だったのか。
ワウト・ファンアールトはその復帰が今のところ万全ではない状態が続いている中で、この「自転車の天才」は久々のシクロクロスをものともせず、ここまで鎬を削り続けてきたイゼルビットらをいとも簡単に蹴散らしてしまうのか。
だが4周目で、状況に変化が訪れる。
一度はヘルマンスにすら突き放されていたイゼルビットだったが、徐々にその調子を取り戻していった。
やがてヘルマンスを再度追い抜き、単独2位となったイゼルビットは徐々に先頭ファンデルポールとのタイム差も縮めていく。
ファンデルポール自身もなんだかんだ久々のシクロクロス。ペースメイクを見誤ったのか、序盤からの猛プッシュに対する反動で足が重くなっていた。先ほどの落車も多少影響があったようにも思える。
そしてこの4周目のピットエリアでバイク交換をしたことで、先頭はイゼルビットに。一度は突き放されかけた「怪物」の鼻柱を抑え込むことに成功した。
そして5周目。イゼルビットがペースを落ち着かせたことで後方から追走集団が次々と先頭に合流。先頭はイゼルビットとファンデルポールとヘルマンス、そしてマイケル・ファントールノート(パウェルズ・サウゼンビンゴール)、とローレンス・スウィーク(パウェルズ・サウゼンビンゴール)の5名に。
チームメートとの合流によって戦略の幅を得ることができたイゼルビットは、やがてこの5周目の中盤で単独で抜け出そうとする場面も。これを見てすぐさま追いかけようとするファンデルポールをファントールノールトが妨害しようとする場面もあったが、動きづらいはずのサンドセクションでそれを巧みに躱し、あっという間に先頭のイゼルビットに追い付いた。
このあたり、1つ1つの動きがいちいち巧い。さすが「自転車の天才」である。
そして6周目。再び先頭に躍り出てペースを上げるファンデルポール。食らいつくイゼルビット。
そのギャップはやはりまた少しずつ開いていき、それでもイゼルビットは食らいつく。4秒差にまで一度開いたタイム差を、6周目終了時点で2秒差に。そして7周目の序盤でその後輪を捉える。
そして同じころ、後続の集団でも動きが。先ほどファンデルポールとイゼルビットと共に走っていたファントールノールト、ヘルマンス、スウィークのもとにトーン・アールツ(テレネット・バロワーズライオン)、ファンデルハール、そしてトム・ピドコック(トリニティ・レーシング)が追いついてくる。
さらにこの集団の中で加速するピドコック。元ベルギー王者のアールツがすぐさま食らいつくが、やがてピドコックはこのアールツも振り払い、単独3位で先頭2名に迫っていく。
昨年エリートの世界選手権で2位を掴み取った20歳(当時)。
今年はロードレースでベイビー・ジロ(U23版ジロ・デ・イタリア)を総合優勝し、来年は最強チーム「イネオス・グレナディアーズ」への加入が決まっている。
そんな活躍もあって彼もまた、ファンアールトやファンデルポールと同様に遅めのシクロクロスシーズン開始であり、ここ数戦はそこまで活躍しきれていなかった(11/29の緒戦「ターボル」は17位、12/6の「ボーム」は9位)。
今回のアントウェルペンも、序盤こそ第3集団の中に埋もれてそのまま沈黙してしまうかと思われていた中で、この最終盤での復調。
本来の実力を一気に開花させた走りで、先頭2名に迫る。
だが、最終週に入り、やはりファンデルポールは強かった。
イゼルビットも最後まで食らいつき続けることを諦めなかった。その力は間違いなく一級品であり、ファンデルポールの走りに食らいついていったことでさらにその限界を伸ばしていった感はあった。
それでも、いまだ「怪物」を倒すには至らず。
久方ぶりの「故郷」での戦いを、マチュー・ファンデルポールは堂々たる勝利を飾った。
【X2Oトロフェー男子 第3戦アントウェルペン リザルト】
総合順位では大勢は変わらず。イゼルビットは勝利こそできなかったものの、ライバルたちとさらにタイム差をつけ、早くも総合優勝への王手をかけるような形に。ここから大崩れすることがなければ、ほぼ彼の総合優勝で決まりと見ていいだろう。
【X2Oトロフェー男子 第3戦までの総合リザルト】
マチュー・ファンデルポールの参戦はやはりレースを大きく変えてしまう。
そうなると気になってくるのは、今のところ、満足いく走りができずにいるワウト・ファンアールトとの初対決。
現在、ファンアールトはミニキャンプに行っており、今日は欠場だし明日のスーパープレステージ第6戦「ガーフェレ」にも出場しない。
よって、ファンデルポールとファンアールトとの直接対決は12/23(水)のX2Oトロフェー第4戦「ヘーレンタルス」を待つ必要がある。
果たして、ファンアールトが復調してファンデルポールと渡り合うことになるのか。それともやはりファンデルポールがその圧倒的な強さを見せつけるのか。
それとも、エリ・イゼルビット、そしてトム・ピドコックといった「新鋭」たちがここに噛み付くのか。
これからの展開からも目を離せない。いよいよ2020-2021シーズンも後半戦である。
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