見出し画像

ジロ・デ・イタリア2022 第8ステージ

第7ステージはこちらから

第8ステージはイタリア第3の都市ナポリを発着する一部周回コースステージ。周回コースの中には登坂距離2.1㎞・平均勾配6%・最大勾配11%のモンテ・ディ・プローチダを含んでおり、スプリンターには厳しいアップダウンコースとなっている。全長153㎞。


クラシック風味のステージということで戦前の注目はマチュー・ファンデルプール、あるいはビニヤム・ギルマイといったライダーに集まっていたが、その期待通り、ファンデルプールがアクチュアルスタート直後から積極的に動いていく。

そしてファンデルプールが動けば、ギルマイもそこに反応する。何度か出入りがあった中で、最初の45分が過ぎ、20㎞程度が消化された頃、メイン集団もようやく足を止め、以下の21名の逃げが確定した。

アンドレア・ヴェンドラーメ(AG2Rシトロエン・チーム)
リリアン・カルメジャーヌ(AG2Rシトロエン・チーム)
マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
ファビオ・フェリーネ(アスタナ・カザフスタンチーム)
ハロルド・テハダ(アスタナ・カザフスタンチーム)
ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)
ヤッシャ・ズッタリン(バーレーン・ヴィクトリアス)
ダヴィデ・ガッブロ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
ギヨーム・マルタン(コフィディス)
シモーネ・ラヴァネッリ(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
エドアルド・ザルディーニ(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
ミルコ・マエストリ(エオーロ・コメタ)
サミュエーレ・リーヴィ(エオーロ・コメタ)
ビニヤム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
トーマス・デヘント(ロット・スーダル)
シルヴァン・モニケ(ロット・スーダル)
ハーム・ファンフック(ロット・スーダル)
ホルヘ・アルカス(モビスター・チーム)
マウロ・シュミット(クイックステップ・アルファヴィニル)
マティアス・スケルモース(トレック・セガフレード)
ディエゴ・ウリッシ(UAEチーム・エミレーツ)

現在96ポイントでポイント賞ランキング2位につけているギルマイは、この日、53ポイント差をつけて首位に立っているアルノー・デマールに対しポイント差を詰める絶好のチャンスであった。

残り115.6㎞地点の中間スプリントポイントも当然先頭通過し、12ポイントを獲得。これでポイント差は41ポイントとなった。

4分6秒差の総合28位ギヨーム・マルタンが含まれているということで、フアン・ロペスのマリア・ローザを奪われたくないトレック・セガフレードが中心となってメイン集団を牽引し、そのタイム差はしばらくずっと2分程度で固定されていたが、それも残り60㎞を切る頃になるとさすがに諦めたのか、タイム差が3分を超えるようになっていく。

そして残り46.2㎞。周回コースの最終周回に入ったところで先頭集団からマチュー・ファンデルプールがアタック。すぐさまギルマイ、そして昨年も1勝しているマウロ・シュミットなどが反応する。

サミュエーレ・リーヴィやハロルド・テハダなどの脱落者を数名含みつつも、結局は残り42.7㎞地点でファンデルプールらは引き戻されるが、カウンターでガッブロがアタック。

この動きをきっかけに、新たな5名の先頭集団が形成される。

ダヴィデ・ガッブロ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
シモーネ・ラヴァネッリ(ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ)
トーマス・デヘント(ロット・スーダル)
ハーム・ファンフック(ロット・スーダル)
ホルヘ・アルカス(モビスター・チーム)

ファンデルプールは動けない。他のメンバーもファンデルプールを警戒して動かない。もちろん、いつまでもそうしているわけにはいかず、やがてファンデルプールやシュミットが積極的に牽き始め人数を絞り込みながら追走態勢を仕掛けていくが、先頭5名の中ではチームメートを含み、かつ逃げのイロハを誰よりも良く分かっているトーマス・デヘントが強力に牽引。

その勢いでラヴァネッリが脱落するほどのペースで、この先頭集団とファンデルプールらの追走集団とのタイム差は少しずつ開いていく。

ファンデルプール集団はどうしたって牽制状態に陥ってしまう。一度遅れたテハダが復帰できるほどのペースダウンも含み、タイム差は40秒以上にまで開いてしまう。

先頭は先頭で、ガッブロやアルカスがまったくといっていいほど牽かず、ファンフッケが苛立ちを顕にする場面も。しかしそこで内輪もめしていれば絶対に逃げられないことをよく分かっているデヘントは、黙々と力強く牽いていき、このデヘントの決断が、ファンデルプール集団を寄せ付けない結果を作り出すこととなった。


残り25㎞。周回コースの末端、ラゴ・ルクリノの登りでビニヤム・ギルマイが加速し、シュミットがさらにカウンターでペースを上げる中、追走集団はファンデルプール、ギルマイ、シュミット、ギヨーム・マルタン、ワウト・プールスの5名に絞り込まれる。

この勢いで一時、先頭4名とこのファンデルプール集団とのタイム差は20秒近くにまで迫るが、やはりデヘントとファンフックが中心となって牽引する先頭4名は、再び追走とのタイム差を40秒以上にまで開いていく。

残り11.5㎞。タイム差は41秒。

残り10.2㎞。最後の登りが始まる。

残り9.2㎞。タイム差は36秒。

残り7.7㎞。タイム差は26秒。

さすがにデヘント持つ彼が見えてきたのか、やや、先頭4名のペースが落ちかけている。

残り6.9㎞。最後の登りが終わる。タイム差は20秒。

残り5㎞。タイム差18秒。テクニカルな下りで、ファンデルプールがギルマイと共に抜け出す。シュミットが単独でこれを追走し、下りの苦手なマルタンはプールスと共に遅れてしまう。

残り2㎞。10秒差。もう、目の前にデヘントたちは見えている。


それでも徹底的に前を牽こうとしないアルカスとガッブロに、一時はデヘントもさすがに回れとジェスチャーする場面もあったが、ことここに至っては彼も覚悟を決めたようだ。

途中まではファンフックのためのアシストに徹しているかと思うほどに積極的に牽き続けていた彼だったが、最後の180度カーブを終え、800mのホームストレートに4人で突入したそのとき、残り700mで彼は自らのシューズを締めた。

それは、最後の勝負を自ら仕掛ける決意であった。逃げ屋デヘントの、一世一代のスプリント勝負。

100m後方にはファンデルプール、ギルマイ、シュミットの3名。先頭はファンデルプールで、何度も後ろを振り向くがギルマイは前に出ようとせず、ペースは上がらない。

先頭4名はファンフックが先頭。その後ろにガッブロ、デヘント、アルカスの順。

残り200mでデヘントがスプリントを開始。

すぐさまガッブロが追いかけるが・・・デヘントに並ぶことは、できなかった。


残り43㎞で形成された逃げ集団の中で誰よりも積極的に前を牽き、マチュー・ファンデルプールら追走集団に追い付かせない貢献を最も行った男が、最後の最後、その自らの足で勝利を掴み取った。

これぞ、逃げ王。ただのエンターテイナーではない、圧倒的な強さをもった「トーマス・デヘント」の真骨頂を見せつける、最高の勝ち方であった。


ギルマイは追走集団先頭を獲ったことで追加で14ポイントを獲得。合計で120ポイントとなり、ポイント賞首位アルノー・デマールとの差を27ポイントにまで詰めることに成功した。


総合勢では争いは起こらず。

何しろ、翌日第9ステージは、今大会最初の「5つ星」ステージ。

総獲得標高5,000mで最後に登坂距離13.5㎞・平均勾配8.4%・最大勾配14%の非常に厳しい1級山岳ブロックハウス山頂フィニッシュ。

5年前、ナイロ・キンタナが勝利を掴んだこの重要な登りで、最初の本格的な総合バトルが繰り広げられることは必至であろう。

いいなと思ったら応援しよう!