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ジロ・デ・イタリア2022 第7ステージ

総獲得標高4,500m。リエージュ~バストーニュ~リエージュ以上で、厳しいときのイル・ロンバルディアに匹敵する登りを(しかもそれらよりずっと短い距離で)含んでいるという、およそ第1週に用意されたステージとは思えない厳しさを誇るディアマンテからポテンツァまでの196㎞を振り返る。


逃げ切り向きのステージということで、アクチュアルスタート直後からひっきりなしにアタックがかかり、抜け出しては引き戻されの連続でなかなか明確な逃げが決まらない。途中、ヨナタン・ナルバエスがリチャル・カラパスを引き連れて飛び出して、そこにマチュー・ファンデルプールも食らいつくといった驚きの展開もあったが、当然これもすぐに捕まえられた。

そうこうしているうちに、最初の70㎞ほどを消化してようやく、ちゃんとした逃げが形成されてメイン集団も落ち着きを取り戻した。

このとき逃げ集団を形成したのは以下の7名。

ワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)
ダヴィデ・ヴィレッラ(コフィディス)
ディエゴ・カマルゴ(EFエデュケーション・イージーポスト)
トム・デュムラン(ユンボ・ヴィズマ)
クーン・ボウマン(ユンボ・ヴィズマ)
バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)
ダヴィデ・フォルモロ(UAEチーム・エミレーツ)

残り150.4㎞地点の最初の3級山岳を先頭通過したのはプールス。続いて残り105.9㎞地点の1級山岳もボウマンと競り合って山頂2位通過を果たしていくが、ここで足を使いすぎてしまったのか、次の残り60.4㎞地点に用意された2級山岳に至るまでの登りの途中で力尽きて脱落していってしまう。

また、ヴィレッラもこの直前にコースアウトして落車。バイク交換した後もサドルの高さが合わなかったりとうまくいかないことが続き、一度は下りで追い付くも、結局最後は千切られてしまった。

プロ2年目のカマルゴも終始苦しそうな表情を見せながら粘るも、残り30㎞でついに脱落。

最終的に先頭にはデュムラン&ボウマンのユンボ・ヴィズマコンビ、モレマ、フォルモロの4名だけが残ることとなった。


残り28.3㎞。数の上で有利さを保つユンボ・ヴィズマが、まずはデュムランにアタックを繰り出させ、揺さぶりをかけようとする。

が、その瞬間にボウマンが失速。デュムランの加速にフォルモロとモレマはついていくものの、肝心のボウマンが離れてしまう。

あれ?とばかりに何度もボウマンの方を振り返るデュムラン。当然、総合タイム差においても、ここまで3級山岳4位通過・1級山岳と2級山岳を先頭通過して山岳賞争いにおいても優勢となっているボウマンは、デュムランがフィニッシュまで守護すべき相手。

そのボウマンが遅れてしまっては、デュムランもそれ以上踏み込むわけにはいかず、足を止める。当然、これを見てライバルのモレマがすかさずアタックする。

デュムランは後ろにフォルモロを従えつつ、自らその前を牽いてペース走行でモレマを捕まえにかかる。残り27.3㎞。今度はカウンターでフォルモロがアタックし、再びデュムランはモレマを後輪に従えつつ、やはり自ら牽いてこれを捕まえる。

まるで、2017年に彼が総合優勝したときの走りを思い出させるような、自ら先頭を牽いてペース走行でライバルたちを捕まえていく淡々とした強い走り。

その意味で、この日の彼は、今シーズンずっと見てきたような不調さは取り除かれ、かなり調子が良さそうな様子であった。

そして、モレマもフォルモロも捕まえてしまえば、あとはデュムランも無理に速度を上げる必要はない。背後からは少しずつタイム差を縮めて近づいてくるボウマンの姿。

そして残り25.1㎞。ボウマンがなんとか追いつき、先頭は再び4名に。デュムランの落ち着いた対応が、エースの復帰を手助けしてみせた。


そして残り23.9㎞。3級山岳。この日最後の山岳ポイントを前にしてボウマンが強烈な加速を見せて1位通過。この日、結局3つの山岳ポイントで先着をするという、圧倒的な調子の良さで、レナード・ケムナから山岳賞ランキング1位とマリア・アッズーラを奪い取ることに成功した。

ボウマンは確かにコンディションは良かった。あの残り28㎞の不可解な失速を除けば。


すべての山岳ポイントを越え、残り7㎞地点の「スプリントポイント」へと至る登りが最後の勝負所。

この頂上まで1.5㎞の地点でまずはモレマがアタック。すぐさまボウマンがこれに食らいつく。やはりキレがいい。デュムランはやや遅れるが、その後牽制状態に陥った3名にやがて追いつく。

山頂が近づき、モレマが再びアタック。今度もすぐボウマンが反応し、フォルモロはやや遅れる。デュムランは今度こそ完全に脱落。

そしてさらにフォルモロがカウンターでアタック。ボウマンは今度もすぐに反応してこれを逃がさない。本当に調子がいい。対してモレマは、さすがにかなり苦しそうな表情を見せていた。

最後の登りを終え、あとは下りとフィニッシュ直前に用意された短い激坂のみ。残り3.7㎞でフォルモロが再びアタックするも千切れない。そして、遅れていたデュムランもここで先頭3名に追い付いた。

デュムラン先導。あとはもうボウマンのために、全力で前を牽き続けるだけ。

残り1㎞。先頭からデュムラン、フォルモロ、ボウマン、モレマの順。

残り400mを過ぎて右に曲がれば、いよいよ平均8%、最大13%の激坂が始まる。

まずは腰を上げて先頭で加速するデュムラン。これに反応して同じく腰を上げるフォルモロ。だがその背後のボウマンはまだシッティングのまま、冷静にタイミングを見計らう。

そのうえで、残り200mで最初に仕掛けたのはボウマンだった。


スプリントを開始。背後からモレマが追いかけるが、この日、ほとんどの山岳ポイントで常に爆発的な加速を見せ続けてきたボウマンの調子は間違いなく良かった。

最後はモレマもフォルモロも寄せ付けず、圧倒的な差をつけて先頭でフィニッシュラインに到達した。

クーン・ボウマン。2017年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ以来となるプロ2勝目は、グランツールでの勝利という大きな大きな達成となった。

その上で、彼の勝利の立役者となったのは間違いなくこの男であった。

トム・デュムラン。2017年のジロ・デ・イタリアを制し、2021年の冒頭では一度レース引退しかける瞬間もあった、この男。

昨年の東京オリンピック個人タイムトライアルで銀メダルを獲得し復活したかと思いつつも、2022シーズンの山岳レースでは常に遅れる姿を見せ続け、今大会も第4ステージのエトナではやはり力なく崩れ落ちていっていた。

しかしこの日は、往年の強さを取り戻したかのような、力強いペース走行でモレマとフォルモロの波状攻撃を抑え込む。

この日終始調子のよかったボウマンがたった一度だけ見せたあの残り28㎞地点での「弱み」を、デュムランがしっかりと守り切ったことで、最後の瞬間の彼の勝利につながったと言えるだろう。


おめでとう、そしてありがとうデュムラン。

願わくば、彼自身の勝利をまた、このジロで見てみたい。


第8ステージは第1週最後の決戦場ブロックハウスを前にして繰り広げられる、イタリア第3の都市ナポリを発着するテクニカル周回コース。

誰が勝つのかまったく予想のつかないこのトリッキーコースを制するのは一体?


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