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ジロ・デ・イタリア2022 第6ステージ

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イタリア半島の「つまさき」に位置するパルミから、ティレニア海をひたすら北上する典型的な移動ステージ。フィニッシュ地点は22年ぶりの登場となるカラブレア州のスカレアで、22年前同様のオールフラットステージだ。


そんな、逃げ切りなど100000000%不可能なステージで、近年のトレンドである「逃げへの超消極性」が発揮。誰も飛び出さず、少し前のツール・ド・フランスで見たような「誰も逃げに飛び出さないまま終わるステージ」の再来か?と思っていたが、スタートから2~30㎞の地点でディエゴ・ローザ(エオーロ・コメタ)が一人飛び出した。

2015年にはアスタナでジロ・デル・トレンティーノ(現ツアー・オブ・ジ・アルプス)でのミケル・ランダの総合2位や、同年のイル・ロンバルディアでのヴィンツェンツォ・ニバリの最初の優勝などを支えた実力者。その後、スカイ(現チーム・イネオス)に所属したりアルケア・サムシックに所属したりするも今年からエオーロ・コメタに。

今最も勢いのある若手中心のイタリアチームにおける、ベテランとして多くのことを伝えるべき立場にいる彼が、プロチームとは何たるかを教えてやるとでもいうように、勇気をもった独走を開始した。

そのまま、残り28.5㎞で捕まるまでひたすら一人で逃げ続け、最後は笑顔で集団に吸収されていったローザ。

落車もなく、少しは派手な動きと言えば残り147㎞地点のスプリントポイントで、中間スプリントポイント賞を目指して集団から「3人の」ドローンホッパー・アンドローニジョカトリの選手が飛び出し、5位以降を狙ってビニヤム・ギルマイとアルノー・デマールがスプリント争いをしたところくらいか。

それ以外はひたすら何も起こらない、実況者泣かせの展開となった。


そしてフィニッシュ。ひたすら延々と続く直線の末に、各チームのトレインが並ぶ正真正銘の実力勝負。

ここでまず強さを見せつけたのがグルパマFDJ。史上最も「本気」なデマール体制を敷いてきた彼らは、まず残り5㎞から牽引番長イグナタス・コノヴァロヴァスがひたすらハイ・ペースで先頭を牽引。残り2㎞でコノヴァロヴァスが離れると主導権は一旦イスラエル・プレミアテックやアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオが握りかけるが、残り1㎞を過ぎてからクイックステップ・アルファヴィニルが一気に先頭に上がってくる。

先頭からダヴィデ・バッレリーニベルト・ファンレルベルヘ、そしてミケル・モルコフという世界最強トレイン。対するグルパマFDJも左から、マイルス・スコットソンラモン・シンケルダムヤコポ・グアルニエーリというこれもまた最高峰のデマール親衛隊が連なる。

強かったのが残り900mを過ぎた直後。グルパマFDJトレインの先頭のスコットソンが外れたあと、昨日もデマールのための完璧なリードアウトを見せたオランダ人ラモン・シンケルダムが、圧倒的なスピードで先頭を突き進み、FDJトレイン以外のライバルたちのトレインをすべて崩壊させてしまった。

残り800m。シンケルダム加速開始。

クイックステップ最強トレインもその餌食に。たまらず残り800mでバッレリーニ、残り700mでファンレルベルヘが次々と脱落し、カヴェンディッシュのアシストはあっという間にモルコフだけに。となればモルコフも無理はできず、前から7列目あたりにまで沈み込んでいく。

残り600m。各チームバラバラに。

UAEチーム・エミレーツのルイ・オリヴェイラも慌ててデマールの背後に食らいつくが、フェルナンド・ガビリアを守るマキシミリアーノ・リケーゼを完全に置いてけぼりにしてしまい、離れ離れに。リケーゼはその後、残り600mで力尽きてしまい、ガビリアもここで一人になってしまう。

残り500mでユアンもニッツォーロもギルマイもコンソンニもバウハウスも一人。

アシストを残していたのはグルパマFDJとクイックステップ、そしてチームDSMだけだった。

だが、そんな状態でもやっぱり強いのがミケル・モルコフ。

残り700m時点でのあの劣勢から、彼は単騎でカヴェンディッシュをしっかりと牽き上げ、残り300m時点でFDJの最終発射台グアルニエーリから先頭を奪い取ってしまう。

残り300m。先頭を奪い取るモルコフ。背後ではガビリアがボルに突っ込む。

なお、このタイミングで集団の先頭はFDJとクイックステップの両頭となるのだが、そこに食らいつきかけていたのがこの時点でアシストを残していたもう一つのチーム、チームDSM。

アルベルト・ダイネーゼがケース・ボルを引き連れて、残り300mの段階でデマール&カヴェンディッシュのラインにまで上がってくる。

が、このタイミングで、左から「なんとか勝機を見つけたい」ともがいたフェルナンド・ガビリアがボルめがけて突っ込んでくる。

結果、ボルは壁際に一気に押し込まれ、ガビリアもろとも戦線から脱落。ガビリアは昨日以上に怒髪天を衝くように怒りを露にしていたが、この日は完全に自業自得としか言いようがなかった・・・なお、この動きはこの後、降格処分につながったようだ。


さて、いずれにせよ、残り300mでミケル・モルコフの独力をもってしって一気に大逆転を果たしたクイックステップ。

その後はモルコフの得意な(必ずしもあまり褒められたものではない部分もある)「仕事を終えてからの脱落風進路妨害」でグアルニエーリの鼻頭を抑え、デマールの行く先も失われてしまう。

残り250m。仕事を終えたモルコフがデマールを封じ込める。ユアンがカヴの背後に。

これがあまりにも自然に行われ、そもそも先頭を奪い取らないとできない芸当なので結局は確かに凄いのだが、これでデマールは完全に負けパターンに入ってしまった。

そしてその隙に、一人になりながらもカヴェンディッシュの後輪を捉え続けていたカレブ・ユアンがチャンスを掴む。残り450mで繰り広げられていたフェルナンド・ガビリアとの位置取り争いに勝利した結果だった。

残り450m。ガビリアからカヴェンディッシュの番手を奪い取るユアン。


さて、頑張り過ぎたミケル・モルコフ。結果、残り250mと、あまりにも早すぎる位置でカヴェンディッシュを発射せざるを得ず、さすがのカヴもこれはちょっと厳しかった。

ゆえに、その背後にいたカレブ・ユアンが絶対的優位。悠々とカヴェンディッシュで背後で風から身を守り、残り100m、カヴェンディッシュが失速しかけたタイミングで、その背中から飛び出した。

残り200m。放たれるカヴについていくユアン。そしてその背後にデマール。

が、そのとき、その背後にデマールがいた! そして残り100mで右に飛び出したユアンの後輪にぴったりと貼りついたまま、さらに右側へと飛び出していったのである。

正直、あの「包み込まれた」状態からこの状態にもっていくには、周りに選手が多い密な状態では絶対に不可能だった。

その中でライバルが少なく、ある程度自由にデマールが動ける状態に持って行けたのは、結局のところあの残り800mからのシンケルダムの超牽引が遠因であった

あとは、エースデマールの足の見せどころであった。ここまでのアシストたちの信頼に最大限応える一撃でもって、世界最強スプリンターの一角、カレブ・ユアンをわずか数センチの差で降すことに成功した。

フランス人としてジロ・デ・イタリアで7勝目。ジャック・アンクティルを超えてフランス人では最多勝利となった。


逆にギルマイはこの残り200mでの「ユアンの背後」を巡るポジション争いでいとも簡単にデマールに敗れ、誰もいない空間で向かい風に当たりながら突き進むしかなく、完全に劣勢であった。

このあたりはまだまだ、グランツール初参戦の彼の経験の少なさゆえか。これから少しずつ学び、より強くなっていこう。


チーム・デマールの圧倒的な強さ。とくにシンケルダムの調子の良さを感じられた2日間。

明日は総獲得標高4,500mの難関ステージ。果たして勝つのは逃げか、総合系か。


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