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UCIロード世界選手権2022「ウロンゴン」ジュニア男子ロードレース

「世界最強」を巡る戦いもいよいよ後半戦。9/23の午前中は未来への可能性同士が競い合うジュニア男子ロードレース。

舞台はウロンゴン市内のシティ・サーキット(1周17.1㎞)を8周。計135.6㎞・総獲得標高2,016mで争われることとなる。

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ジュニア男子ロードレースは過去にディエゴ・ウリッシ(2006/2007)、ジャスパー・ストゥイヴェン(2010)、マテイ・モホリッチ(2012)、マチュー・ファンデルプール(2013)、レムコ・エヴェネプール(2018)などが勝利。今年も未来のスター選手が輩出されるか、注目だ。

以下、年齢表記は2022/12/31時点のものとします。世代を把握してもらうための意図となります。


女子エリートロードレースや男子エリートロードレースでも使われる勝負所「マウント・プレザント」がいかほどのものか確かめるという点でも重要なレースとなったが、タイムトライアルでも「結構厳しいじゃん!」と話題をさらった登りが実はこのマウント・プレザントの直前にあり、いずれも10%前後の勾配区間を含む強烈な登りの2連続。ジュニアだからというのもあるかもしれないが、先頭集団の選手たちも結構バラバラになりやすい厳しい登りなのは間違いなかった。

そしてエリートでも勝負が動くポイントになるであろう、最後から2回目のマウント・プレザント(残り26㎞以降)。ここでポルトガルのアントニオ・モルガード(18歳)が一気にペースを上げ、集団が縮小。先頭は8~9名ほどになる。

小集団はドイツのエミル・ヘルツォーク(18歳)が牽くことが多く、牽制状態に陥る集団内のメンバーに何やら抗議めいたことを叫ぶ場面も。とりあえずこの二人が足があることは確かなようだ。

そうこうしているうちに残り18.6㎞。最終周回突入直前の平坦区間で、先頭から5番目の位置にいたモルガードが不意にアタック。先頭にいたフランス人デュオ(ポール・マグニールとティボー・グルエル)は片方が水を飲んでいたりもしてすぐ反応できず。ヘルツォークが先頭に立って追いかけようとするがこれも後ろを振り返って牽制を始めたことでみるみるうちにモルガードとの距離が開き、残り11㎞時点では20秒差にまで。

追走集団も少しずつ数を増やしていき、追走に対する協調が取れていないことが明白だった。


勝利に向けて快調に飛ばしていく先頭のモルガード。現在はポルトガルのジュニアクラブ「バイラーダ・サイクリングチーム」に所属し、ポルトガル国内選手権のジュニアTT/RRを共に制する国内若手最高峰の選手。来季はハーゲンスバーマン・アクセオンに所属することがすでに決まっており、同国の同じアクセオン出身の先輩であるジョアン・アルメイダの後を継ぐ活躍が期待されている選手である。

このままモルガードが逃げ切って終わるのか? だが、この男はそこで黙っているような男ではなかった。

エミル・ヘルツォーク。ここまでも積極的に集団先頭を牽く姿が目立っていたまもなく18歳のドイツ人が、残り8.5㎞から始まるマウント・プレザントの登りで先頭に立ち一気にペースアップ。勾配14%・・・最大12%じゃなかったのか??

すでに先頭モルガードとのタイム差は24秒。しかしヘルツォークはひたすら先頭を牽き、後ろについてくる選手にもはや交代を要求することなくひたすら先頭でペースを上げ続けた。

やがて残り8.2㎞で後ろに並ぶ選手は4名だけに。21秒差。

残り7.9㎞。後ろにはすでに1名しか残っていない。20秒差。

そして残り7.5㎞。ついにヘルツォークは後続を引き千切った。折しもの登りの頂上。最後の勝負所で、ヘルツォークは狙い通り完璧なアタックをして見せたのである。タイム差は17秒。


その後も単独で先頭モルガードを追走し続けるヘルツォーク。タイム差はみるみるうちに縮まっていき、残り6.7㎞で12秒差、残り5㎞で10秒差、残り4㎞で7秒差。

ヘルツォークを追う追走はノルウェーのヨルゲン・ノルドハーゲン(17歳)とフランスのティボー・グルエル(18歳)。しかし彼らと先頭モルガードとのタイム差も23秒、30秒、40秒と開いていき、やがてその後続集団にも追いつかれ、牽制でさらにペースダウンする。

勝負はモルガードとヘルツォークの二人に委ねられた。


残り3㎞を過ぎたところでついにヘルツォークがモルガードに追い付く。ヘルツォークが先頭に立って牽引。後続のモルガードに交代を要求するがモルガードはこれを拒否。

"Can I win!?" と激しく叫ぶヘルツォーク。「(そんなに前を牽こうとしないなんて)僕に勝ちを譲ってくれるのかい!?」といったような意味だろうか? とりあえずヘルツォークが非常に熱い男だということが良く分かる。

それでも前を牽こうとしないモルガードにしびれを切らし、残り1.6㎞でヘルツォークがアタック。熱い。

だがモルガードはこれにしっかりと食らいつき、アタックは失敗。ヘルツォークにとっては足を削るだけに終わり、これで勝負は本当に分からなくなってきた。

ラスト1㎞もひたすらヘルツォークが先頭固定。残り300mでヘルツォークが少し腰を上げるがまだ本気のスプリントは開始しない。様子見。

残り250mでモルガードが腰を上げラインを横に取りスプリントを開始する。それを見てヘルツォークもいよいよギアを上げる。

勢いはモルガードの方が上だった。バイクを激しく左右に振り、前輪はヘルツォークに先行する。ヘルツォークはそれよりは落ち着いた様子で回転数を上げることに集中。

横並びになる若き2人。

だが、モルガードは少しスプリント開始が早すぎたかもしれない。残り50m、あるいは25mのあたりで力尽き、左右に振られる勢いが一気に弱まる。

そしてヘルツォークが安定した速度でこれを追い抜き、両手を広げる。

綺麗な美しい横並びスプリント。そして勝者は天を仰ぎ、敗者は悔しそうにハンドルを叩きながら項垂れる。

高校生の年代の2人が織りなす、まさに漫画のような熱い最終スプリントバトルであった。


エミル・ヘルツォークは現在ボーラ・ハンスグローエの育成クラブチームである「チーム・オート・エデル」に所属している。今年のツール・ド・ラヴニール覇者でもあるシアン・エイテブルックスも同じチームに去年まで所属し、今年からボーラ入りしている。ヘルツォークの来季の所属チームはまだ未発表だが、同じようにボーラで活躍してくれるかもしれない。

なお、ドイツ人のジュニア男子ロードレース勝利は2014年以来の8年ぶり。そしてU23男子ロードレースでは2004年のチオレック以来なく、エリート男子ロードレースでは(プロでは)1966年のルディ・アルティヒ以来ないという。アマチュアというくくりであっても1993年のヤン・ウルリッヒ以来ない。

エイテブルックスと共に、ドイツ新世代を作るスーパースターになれるか。これからも非常に楽しみな選手である。


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