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ブエルタ・ア・エスパーニャ2022 第6ステージ

今大会最初の本格的な山岳ステージは、カンタブリア山脈の1級ピコ・ハノ山(登坂距離12.6㎞、平均勾配6.55%)山頂フィニッシュ! ブエルタにしてはまだそこまで厳しくはない山・・・と思っていた中で、結末は意外な展開に。総合争いがいよいよ開幕する。


逃げは10名。

ルーベン・フェルナンデス(コフィディス)
マーク・パデュン(EFエデュケーション・イージーポスト)
ヤン・バーケランツ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ネルソン・オリヴェイラ(モビスター・チーム)
ファウスト・マスナダ(クイックステップ・アルファヴィニル)
カーデン・グローヴス(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
マルコ・ブレンナー(チームDSM)
ダリオ・カタルド(トレック・セガフレード)
クサンドロ・ムーリッセ(アルペシン・ドゥクーニンク)
シャビエルミケル・アスパレン(エウスカルテル・エウスカディ)

この日の勝負所は最後の1級山岳だけではない。むしろ、残り35.4㎞地点に位置する1級山岳コラーダ・デ・ブレネス(登坂力6.8㎞、平均勾配8.2%)はより凶悪な登りですらある。

逃げ集団からはここでマーク・パデュンが単独で抜け出し、メイン集団では世界王者のジュリアン・アラフィリップ(クイックステップ・アルファヴィニル)が強力に先頭を牽引し、レムコ・エヴェネプールのためのお膳立てを始める。そしてマイヨ・ロホを着るルディ・モラールはここで遅れ始める。

先頭のパデュンは昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネの最後の2連戦をいずれも勝利した戦慄のウクライナライダー。そのままバーレーンでエースとして活躍していくかと思っていた中で、驚きのEF移籍。その初のグランツール勝利をチームに届けられるか――追いかけるルーベン・フェルナンデスもファウスト・マスナダも残り15.4㎞地点でプロトンに吸収され、単独先頭のまま最後の1級ピコ・ハノ山(登坂距離12.6㎞、平均勾配6.55%)に突入していく。

残り10㎞地点で、メイン集団からジェイ・ヴァイン(アルペシン・ドゥクーニンク)がアタック。ズイフト・アカデミー・プログラムで優勝して昨年アルペシン入り。その年のブエルタ・ア・エスパーニャでも一度落車しながらも逃げ集団に復帰してそのまま区間3位にまで登り詰めた男。この日も逃げに乗ろうとしながら最初の5㎞地点でパンクに見舞われたという中での、執念の終盤アタックであった。

プロトン内での総合争いもいよいよ幕を開ける。先頭が残り9.3㎞の地点でプロトンからサイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)がアタック。すでにプリモシュ・ログリッチからも51秒遅れとなっていた彼の攻撃に最初はすぐには反応しなかったものの、残り8.6㎞地点からレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル)が先頭に立ってペースアップ。プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)もすぐその後輪に貼りついて食らいつき、その中でミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)が脱落する。各チームのアシストも姿を消し、早くもエース同士の裸の殴り合いが開始される。

残り7.8㎞。イネオスのエースで2年前の総合2位リチャル・カラパスも遅れ、先頭パデュンから42秒差の主力集団はすでにプリモシュ・ログリッチ、パヴェル・シヴァコフ、レムコ・エヴェネプール、エンリク・マスの4名だけに。

そして。

残り7.5㎞。エヴェネプールとマスがログリッチとシヴァコフを突き放して抜け出し始める。

腰を上げることなく前を見据えながら淡々と踏み続けるエヴェネプール。シヴァコフは懸命にもがくが差は開いていく。そしてログリッチはそのシヴァコフの背後について、動けない。

残り6.5㎞。先頭ではジェイ・ヴァインがパデュンに追い付き、これを一気に追い抜いて突き放して単独先頭に。エヴェネプールとマスはそこから30秒差。そしてログリッチとシヴァコフはサイモン・イェーツとフアン・アユソー(UAEチーム・エミレーツ)にも追いつかれながら、エヴェネプールたちを10秒以上の差で追いかけていく。

アユソーがそこから単独で抜け出す。昨年のU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)覇者で今年わずか20歳の今最も注目すべき若きオールラウンダーの1人。初のグランツールとなる今大会、第5ステージでは遅れを見せていた彼が、ここにきて才能を発揮し始める。

残り3.4㎞。先頭ヴァインに25秒遅れでエヴェネプールとマス。エヴェネプールは全く背後を見ることなく、ひたすら淡々とシッティングのまま踏み続ける。マスはその背後に食らいつくことしかできない。しかし今や、そこに食らいついているだけで僥倖である。

38秒差で単独追走のアユソー。52秒差でログリッチ集団。すでにベン・オコーナーやジーノ・マーダー、セルジオ・イギータ、ジェイ・ヒンドレー、ウィルコ・ケルデルマン、テイオ・ゲイガンハートなども追いついてきており、ペースが十分でないことは明らか。ログリッチは先頭で懸命に牽引するが、エヴェネプールたちとの差は開くばかりであった。

そしてフラム・ルージュの段階で先頭ヴァインはエヴェネプールたちに18秒差にまで迫られるが――それ以上は、縮まることはなかった。

深い霧に包まれたカンタブリア山岳4連戦初戦。今大会最初の山頂フィニッシュであり、総合争いも想像以上の混乱が巻き起こったこのハードなステージで、プロ2年目、シンデレラボーイのヴァインが見事なプロ初勝利を飾った。

年齢表記はすべて2022/12/31時点のものとなります。


そして、レムコ・エヴェネプールがキャリア初のグランツール総合リーダージャージを着用。

もちろん、まだまだこの先は未知数。昨年のジロでは絶好調の第1週から、第11ステージでの陥落を経験している。

今回のエヴェネプールは、そこからの覚醒を遂げられるか?

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