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ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第14ステージ

第2週の前半は丘陵や平坦などそこまで総合で差がつくようなステージはなかったものの(と言いつつ第10ステージや第12ステージは多少の動きは合ったものの)、この週末は山岳ステージ2連戦となる。

とはいえ、第1週と比べるとそこまで難易度の高くないレイアウトではある。この第14ステージも、レース中盤に登坂距離2.8㎞・平均勾配14%という異様な激坂が用意されているものの、こちらはフィニッシュまで70㎞弱残した位置にあるため、総合争いに影響を与えるにはやや遠すぎる。

そのうえでフィニッシュの1級山岳はそこまでの難易度でもない。

果たして、総合争いは巻き起こるのか。

コースプレビューはこちらから


前述の通りそこまで厳しいフィニッシュ地点が用意されているわけではないこともあり、この日はメイン集団は温存モード。

最大で13分近いタイム差を許しつつ、以下18名の逃げが形成された。

クレモン・シャンプッサン(AG2Rシトロエン・チーム)
ニコラ・プロドム(AG2Rシトロエン・チーム)
ジェイ・ヴァイン(アルペシン・フェニックス)
ヤン・トラトニク(バーレーン・ヴィクトリアス)
ダニエル・ナバーロ(ブルゴスBH)
アリツ・バグエス(カハルラル・セグロスRGA)
ヘスス・エラダ(コフィディス・ソルシオンクレディ)
イェンス・クークレール(EFエデュケーション・NIPPO)
シャビエルミケル・アスパレン(エウスカルテル・エウスカディ)
アルノー・デマール(グルパマFDJ)
ケヴィン・ゲニッツ(グルパマFDJ)
トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)
セップ・ファンマルク(イスラエル・スタートアップネーション)
マシュー・ホームズ(ロット・スーダル)
アンドレイ・ツェイツ(チーム・バイクエクスチェンジ)
ロマン・バルデ(チームDSM)
ディラン・サンダーランド(キュベカ・ネクストハッシュ)
ライアン・ギボンズ(UAEチーム・エミレーツ)

レース中盤の問題の山岳は、総合争いの舞台にならないだけでなく、意外とこの逃げ集団を大きく割ることもなかった。

その中でもロマン・バルデがこの山頂を先頭通過。5ポイントを獲得し、暫定で山岳賞ランキング首位に立つこととなった。

先頭集団が分裂し始めるのはむしろ、2級山岳の下りが終わってからのカテゴリのついていない小さな登りの連続区間。

ここで最終的に単独で抜け出したのはAG2Rシトロエン・チームのニコラ・プロドム。今年24歳のフランス人で、昨年はコフィディス・ソルシオンクレディのトレーニーだった選手。実はAG2Rラモンディアルにも2018年にトレーニー登録をしていたがそのときは昇格せず育成チームに留まっていた。

今年ついにエリートチームに昇格したネオプロ1年目の彼が、初のグランツールの先頭を単独で走る。これを追いかけるのが元コフィディス→カチューシャ→イスラエルのダニエル・ナバーロ、2020年のウィランガ・ヒル勝者マシュー・ホームズ、あるいはセップ・ファンマルクといった実力者たち。

追走はホームズやファンマルクがアンドレイ・ツェイツやライアン・ギボンズに変わる場面もあったが、それでも彼は残り6㎞までひたすら先頭を独りで走り続けていた。


状況が変わったのは残り12㎞。先頭プロドム、追走ツェイツに続く1分15秒遅れの第3集団の中にいたロマン・バルデが、満を持してアタック。ここにヘスス・エラダも食らいついていく。

この動きは一度引き戻されるが、集団は着実に数を減らしていく。残り7.2㎞でホームズがアタックしたときにもバルデはすぐさま反応し、これが引き戻されたあとも、残り6.5㎞でバルデが単独アタック。

そしてこのアタックで、彼は独り第3集団から抜け出すことに成功。

そして残り6㎞。先頭を独りで走り続けていたプロドムに、同じく単独で追走し続けていたツェイツが合流。

その直後、バルデがここに追い付いたかと思うとすぐさま加速してこれを追い抜き、すっかりと体力を失っていたプロドムとツェイツはこれをなすすべもなく見送ることとなった。


ロマン・バルデ。2015年から2017年にかけてツール・ド・フランスで毎年1勝ずつを重ね、総合成績でも2016年総合2位、2017年総合3位と、当時フランスで最もツール・ド・フランス制覇に近い男として期待されていた。

しかしその後、その大きすぎるプレッシャーの中で徐々に成績が振るわなくなり、一時はワンデーレースへと矛先を変えるような「変化」を積極的に取り入れる姿勢も。


今年のこのチームDSMへの移籍もまた、そんな彼なりの「変化という挑戦」の一環だったのかもしれない。

そして前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスでの3年ぶりの勝利。そして今回のこの、ブエルタ・ア・エスパーニャでの初勝利。

彼が強いのは間違いないが、その強さを、新しいやり方で研ぎ澄ませていく未来への可能性を感じさせる勝利となった。

第14ステージ


そして追走はエラダと、そして残り35㎞地点で激しく落車してしばらく動けなかったはずのジェイ・ヴァインが3位に入賞。

今年本来は母国オーストラリアのコンチネンタルチームへと移籍する予定だったのが、ズイフト・アカデミー・プログラムを優勝したことで急遽アルペシン・フェニックスでのプロデビューが実現。

そして実践でもツアー・オブ・ターキー、ブエルタ・ア・ブルゴスの山岳ステージで上位に入るなど実力の高さを見せ、そして今回のこのブエルタである。

今後のアルペシンの貴重なクライマー班の中心人物として、さらに活躍してくれることが楽しみだ。


さて、総合勢はこの日は結局大きな動きがないままフィニッシュへ。

とくにユンボ・ヴィスマによって集団は完全にコントロールされており、残り3㎞を切ってから(実質的な)総合3位ミゲルアンヘル・ロペスがアタックするも、最終的にはログリッチ自ら追走集団の先頭を牽いて追いかけ、そのタイム差は4秒に留めることに成功した。

逆にこのログリッチのペースアップによってアダム・イェーツを始めとする集団のライバル勢は引きちぎられ、ログリッチと同タイムでフィニッシュで来たのはマスとヘイグとベルナルだけ。アダム・イェーツはそこから12秒を失った。


モビスター・チームはマスもロペスも絶好調で、かなりうまくダブルエース体制が機能している。一方のイネオスは、日によってベルナルが遅れたりアダム・イェーツが遅れたりと、ちぐはぐ。うまくいってなかったときのモビスターのダブルエース体制を見ているときのようだ。

それでもベルナルがやや復調気味であることは確か。

第15ステージはこの第14ステージ以上に総合争いに影響は大きくなさそうな、そこまで難易度の高くない山岳ステージではあるものの、展開を作るのはコースではなく選手。

ログリッチに対して「何かしなければ」と思うライバルたちの動きに期待したい。

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