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ジロ・デ・イタリア2021 第20ステージ

最終日個人TTを前にした、最後の山岳決戦は、ベルバニアからヴァッレ・スプルーガ(アルペ・モッタ)までの164㎞。

標高2,000m超えの1級山岳2つを含む3つの山岳ポイントを擁するこのステージは、比較的短いながらも総獲得標高4,200mを誇る難ステージ。

2分29秒差の総合2位ダミアーノ・カルーゾ、2分49秒差の総合3位サイモン・イェーツがベルナルに対して逆転を狙うのであればこの日の走りが非常に重要。

果たして「3週目の波乱」は巻き起こるのか。それともイネオスの最強山岳トレインがエースを守り切れるのか。

実質的な最終決戦が、始まる。

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アクチュアルスタートからわずか16.9kmの地点にあるスプリントポイントを巡り集団は逃げを許さない活発な状態に。ポイント賞3位で2位のダヴィデ・チモライ(イスラエル・スタートアップネーション)に対して3ポイント差のフェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)は3位通過(6ポイント)を果たすが、チモライも4位通過(5ポイント)を果たしたことで逆転はならず。そしてチモライからすでに22ポイント差をつけて首位に立つペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)も8位通過(1ポイント)で、実質的にマリア・チクラミーノ獲得を確定させた。

昨年はツール~ジロの連戦の中でいずれもポイント賞ジャージを惜しくも手に入れられなかったキング・オブ・ポイント賞のこの男が、ついに掴み取ったジロでのポイント賞。チーム、そしてサガン自身の、絶えることなき努力と継続によって掴み取ったリザルトであった。


その後は9名の逃げが生まれる。前日の第19ステージ同様、グランツール3週目の山岳ステージとしては驚くくらいに少な目の人数。

これが意味するのは、総合リーダージャージを着るチームに対し、そのライバルチームがステージ優勝によるボーナスタイム獲得など、逆転に向けてできうる限りのことをしようという「本気」の表れである。

ドリース・デボント(アルペシン・フェニックス)
ルイス・フェルファーク(アルペシン・フェニックス)
シモン・ペロー(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ)
ヴィンツェンツォ・アルバネーゼ(EOLOコメタ)
タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)
ニコ・デンツ(チームDSM)

その「本気」を象徴するかのように、集団を牽引するのは総合3位サイモン・イェーツ率いるチーム・バイクエクスチェンジや、連日良い走りを見せている総合8位ジョアン・アルメイダ率いるドゥクーニンク・クイックステップ。タイム差もきっちりとコントロールされていた。


最初の1級山岳パッソ・サン・ベルナルディーノ(登坂距離23.7km、平均勾配6.2%、標高2,065m)の登りで先頭の逃げ集団はフェルファーク、ヴィスコンティ、グロスシャートナー、アルバネーゼ、ペローの5名に絞り込まれる。

また、登りの終盤ではメイン集団の牽引役がチームDSMに変更。クリス・ハミルトンニコラス・ロッシュの牽引により一気にペースが上がり、こちらも少しバラバラになっていく。

そして山頂を通過した直後の下り区間。九十九折の美しくも凶悪なそのダウンヒルで、ハミルトンとマイケル・ストーラーが7分32秒遅れの総合6位ロマン・バルデを引き連れてアタック。集団から抜け出して先頭の5名に合流する。

さらに続いて総合2位ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)までもが、ペリョ・ビルバオに率いられて同じく集団からアタック。バルデたちにジョインする。


当然、メイン集団ではこれまでライバルチームたちに集団牽引を任せ続けていたイネオス・グレナディアーズが牽かざるを得なくなる。

残り50㎞以上を残す中で、とくにカルーゾの先行を許すわけにはいかない。かと言って、アシストをすべて捨てる覚悟でベルナルだけがカルーゾを無理して追いかけるのも、あと2つ厳しい登りが待ち構えている中では現実的ではない。ジャンニ・モスコンジョナタン・ナルバエスなどに任せ、追いつかなくともそのタイム差を30秒程度に留めながら追走していく。

先頭もDSM・バーレーンともに本気の牽引。逃げ残りメンバーも、DSMのアシストの1人ハミルトンも脱落し、先頭はビルバオとカルーゾ、ストーラーとバルデの4名だけとなった。


2つ目の1級山岳パッソ・デッロ・スプルガ(登坂距離8.9km、平均勾配7.3%、標高2,115m)の登りに突入し、先頭4名とメイン集団とのタイム差は50秒。開いてきてはいるが、逆に言えばなんとか50秒に留めている状態。イネオスのアシストはすでにジョナタン・カストロビエホダニエル・マルティネスの最終アシストしか残っていない状態。イネオスにとって、決して完璧な状態ではないが、為すべきことを為している状態。

あとは、バルデ&カルーゾが逃げ切れるかどうか、そしてベルナルが総合首位を守れるかどうかは、このスプルガ峠を無事に越えられるかどうかで決まる。

最後の登りでの攻撃だけでは、前日までと同様、わずか数十秒しか稼ぐことはできない。このスプルガ峠の、とくに残り2.5㎞地点に設けられた最大勾配12%区間、そしてそのあとの8.5%以上の勾配が続く最終局面においてサイモン・イェーツやジョアン・アルメイダのアタックがかかるかどうかである。


しかし、結局は動きは為されなかった。メイン集団は数を減らしつつも一団のまま山頂を超え、ベルナルに対する逆転への可能性はぐっと減ったまま雨の下りへと突入していく。そしてそれは、先頭を逃げるバルデとカルーゾのチャンスが大きく広がったことを意味していた。


残り8.6㎞。ジロ・デ・イタリア2021における最後の登り、1級山岳アルペ・モッタ。登坂距離7.3km、平均勾配7.6%は、中腹の平坦区間を含んだプロフィールであり、ラスト2㎞から500mの平均勾配は9.8%。

もちろん、ベルナルにとっては、そこまで集団の中でポジションをキープできていれば総合首位はほぼほぼ護り切れるだろう。あとはステージを巡る争いだ。


先頭4名とメイン集団とのタイム差は41秒。

残り7.1㎞でストーラーが遅れる。

残り6.5㎞でビルバオも仕事終了。

カルーゾのためのアシストに徹していたビルバオに、普段は同じくアシストとしてエースに仕える立場の多かったカルーゾが、労わるようにして肩を叩く。

これはカルーゾだからこその仕草であった。アシストとして走るということを、誰よりもよく知っている彼だからこそ。


残り5㎞。

タイム差30秒。

メイン集団はすでに、カストロビエホも失ってマルティネス、ベルナル、イェーツ、ウラソフ、カーシー、そして遅れかけているアルメイダだけに。

集団の先頭をマルティネスが鬼気迫る表情で加速していく。このハイ・ペースにウラソフもカーシーも引きちぎられ、イェーツもアタックしたくてもできない状況に。


残り3㎞。

マルティネスの猛牽引の結果、タイム差は20秒にまで縮まる。

得意の緩斜面に入ったことでアルメイダがメイン集団に復帰。

残り2.5㎞地点のボーナスタイムポイントをカルーゾが先頭通過し、3秒のボーナスタイムを獲得。メイン集団ではマルティネスがベルナルを発射させ、ベルナルも3位通過で1秒を獲得する。


残り2㎞。

いよいよ最大勾配13%の区間に突入。そしてここで、カルーゾがバルデを突き放した。

メイン集団では同じポイントでサイモン・イェーツが崩れ落ちる。アルメイダは逆に、ここでしっかりと食らいつく。

21秒差。

カルーゾとベルナルたちとのタイム差は、縮まらない。


残り1.3㎞。

先頭を突き進むカルーゾ。その表情は、アシストとしてエースを護り山岳を先頭で駆け抜けるときと変わらない。

しかし今の彼は、アシストとしてではなく、自らの勝利のために――プロ生活でこれまでわずか2回しか経験のない自らの勝利のために――先頭を駆け抜けていた。

後続ではマルティネスのペースにアルメイダがついに脱落。

しかしタイム差は22秒。

本気のマルティネスの追走にも関わらず、そのタイム差は、まったく縮まっていなかったどころか、むしろ開いていった。


残り1㎞。

タイム差24秒。

先頭から遅れたバルデを飲み込んで、マルティネスは最後の力を振り絞る。


残り800m。

ついにマルティネスが仕事終了。ベルナルが単独でカルーゾを追走する。


残り500m。

タイム差――22秒。

ここから先は緩斜面。

最強のアシストが、20秒差で迫っていた総合3位サイモン・イェーツを突き放し自らのジロ総合2位に王手をかけ、そして何よりも——初のジロ勝利を掴み取ることを、確実なものとした。

初めて彼の表情に笑顔が生まれた。常に真剣に、まっすぐに、前を向き続けていたその顔に。


総合優勝候補と目されていたミケル・ランダは早くもジロを去った。

しかし、それは新たなドラマを生み出す結果となったのだ。

今大会13人目の、グランツール初勝利者。


そして、プロ13年目にして初の、グランツール勝利を達成した。

第20ステージ

↓ダミアーノ・カルーゾという男について語った2年前の記事↓



そして、イネオスは「戦略通り」ベルナルのタイム差をしっかりと守り切った。

ボーナスタイムも含め、カルーゾとのタイム差は1分59秒。しかし最終日TTにおいて、大きなアクシデントさえなければ十分に護り切れるタイム差。

大きな波乱は、巻き起こりそうにない。


もちろん、昨年のツール・ド・フランスの最終TT決戦を前にしたときもまた、同じ感想を抱いてはいたのだが――。

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