ナイロ・キンタナ トラマドール問題まとめ(2022.8.20時点)
2022年8月17日水曜日。衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。
これにより、ナイロ・キンタナのツール・ド・フランス2022における成績(第11ステージ区間2位や第6ステージ区間5位、そして総合6位など)はすべて剥奪される。
一方で、上記文中でも明言されている通り、これはいわゆる「ドーピング違反」とは異なる。トラマドールはがん治療などに用いられるオピオイド系の鎮痛剤であり、世界ドーピング防止機構(WADA)の禁止薬物には指定されていない。
しかしこれは使用者に吐き気やめまいを引き起こし、落車の危険性を高めることなどが以下の記事でも補足されている。また、過去に栗村氏も「走っている最中に寝てしまう」という表現をしたらしいことがTwitter上では確認できる。
2017年には元チーム・スカイ所属だったジョシュ・エドモンドソン元選手が、スカイ時代(2014年)にこのトラマドールを使用してうつ症状を患ったことも告白している。
WADAも禁止薬物には指定していないが注目はしており、同じく2017年のモニタリングの結果、とくにトラマドールが自転車選手の中で検出率が高いことも指摘されている。
そういった事情を受けて、UCIは独自にこの薬物の使用禁止を働きかけており、実際に2019年3月1日から使用禁止に関するルールが設定された。
初犯ペナルティは失格及び罰金5,000スイスフラン(約70万円)。2回目の使用は資格停止5か月が追加される。また、チーム内で12か月以内に2名の使用が発覚すると罰金10,000スイスフラン(約140万円)。そして3人以上発覚すると1ヵ月から12か月の活動停止処分が言い渡されるとのこと。
今回のキンタナに対する処分もこのルールに則ったものであり、出場停止処分は課されなかった。
ドーピング違反ではない。とはいえ、明確にルールで使用禁止されていたものをなぜ? とくにアルケア・サムシックに移籍して初めてのツール・ド・フランス総合TOP10入りで沸き立ち、直前にチームからの3年間の契約更新があったにも関わらず。
アルケア・サムシックはこのUCIの発表直後、事実の確認のみを伝えるごく短いプレスリリースを発表している。アルケア・サムシックはWADAやUCIよりも厳格な薬物禁止独自ルールを規定しているMPCC(※)のメンバーである。
そして翌日、8月18日。
ナイロ・キンタナは自身のSNSにて、前日のUCIの発表は非常に驚くべきことであり、そのキャリアにおいて使用したことは一切ないことを明言した。
このコメントの中でブエルタ・ア・エスパーニャへの出場を明言していたキンタナだったが、翌日に一転して出場回避を発表。CASでの弁護に全力を尽くすためとのこと。
そしてアルケア・サムシックもまた、これを受けて声明を発表。ブエルタ・ア・エスパーニャへのキンタナの出場辞退は彼とチームとの間で共同で決定したことであり、代替要員は用意せずチームは7名で出走すること。ステージ優勝に焦点を絞って3週間を戦っていくことを表明している。
果たしてキンタナは今後どうなるのか。
いずれにせよ、ドーピングを含め、自転車機材・使用ルールおよびコース設定ルールに至るまで、選手たちの安全と健康がより守られる方向に改善されていくことを強く望みます。
※MPCC(Mouvement pour un cycleisme crédible, 反ドーピング倫理運動)は、2007年に設立されたより厳格な反ドーピングルールを規定する団体であり、2022年現在はAG2Rシトロエン・チーム、ボーラ・ハンスグローエ、コフィディス、EFエデュケーション・イージーポスト、グルパマFDJ、アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ、イスラエル・プレミアテック、ロット・スーダル、チームDSM、アルペシン・ドゥクーニンク、ドローンホッパー・アンドローニジョカトリ、アルケア・サムシック、B&Bホテルス・KTM、バルディアーニCSF・ファイザネ、ビンゴール・パウェルスソーセスWB、ブルゴスBH、エウスカルテル・エウスカディ、カハルラル・セグロスRGA、エキッポ・ケルンファルマ、チーム・ノボノルディスク、ヒューマンパワードヘルス、スポートフラーンデレン・バロワーズ、トタルエナジーズなどが参加している。参考:https://en.wikipedia.org/wiki/Mouvement_pour_un_cyclisme_cr%C3%A9dible
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