ジロ・デ・イタリア2021 第17ステージ
イタリアを舞台に開催される今年最初のグランツール。サイモン・イェーツ、アレクサンドル・ウラソフ、エガン・ベルナル、レムコ・エヴェネプールなどが覇を競い合う、なかなか予想のつかない3週間。
第17ステージはカナツェーイからセーガ・ディ・アーラまでの193㎞山岳ステージ。
ラスト55㎞から2つの1級山岳を登らせる独特なレイアウトのステージ。
逃げか、総合争いを繰り広げられるメイン集団か。勝者を予想するのがなかなか難しいステージだ。
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逃げは19名。
ジャンニ・モスコン(イネオス・グレナディアーズ)
ジョフリー・ブシャール(AG2Rシトロエン・チーム)
ドリース・デボント(アルペシン・フェニックス)
シモーネ・ラヴァネッリ(アンドローニジョカトリ・シデルメク)
ルイスレオン・サンチェス(アスタナ・プレミアテック)
ジョヴァンニ・カルボーニ(バルディアーニCSF・ファイザネ)
フェリックス・グロスシャートナー(ボーラ・ハンスグローエ)
ジェームス・ノックス(ドゥクーニンク・クイックステップ)
ピーター・セリー(ドゥクーニンク・クイックステップ)
マッテオ・バディラッティ(グルパマFDJ)
ヤン・ヒルト(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
クエンティン・ヘルマンス(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
アンドレア・パスクアロン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ダニエル・マーティン(イスラエル・スタートアップネーション)
マッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)
アントニオ・ペドレロ(モビスター・チーム)
ジャコポ・モスカ(トレック・セガフレード)
ヴァレリオ・コンティ(トレック・セガフレード)
アレッサンドロ・コーヴィ(トレック・セガフレード)
大きな動きがないまま最後の2つの1級山岳の登りに突入。
1つ目のパッソ・ディ・サン・ヴァレンティ―ノ(登坂距離14.8km、平均勾配7.8%)の登りで先頭集団も数を減らしながら、山頂をなんとかブシャールが先頭通過。40ポイントを獲得し、2019年ブエルタに続く2つ目のグランツールにおける山岳賞確定に王手をかける。
そしてこの1級山岳からの下り。
先頭もモスコン、ブシャール、マーティン、ペドレロの4名に絞られる中、メイン集団の後方で落車が発生。ミケル・ニエベやアマヌエル・ゲブレイグザブハイアーなど複数名がアスファルトに叩きつけられ、その中には総合6位ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)の姿も。
身体とバイク、双方にダメージを感じながら、降りてきたチームメートのアシストを受けつつ集団復帰を目指す。
そして、目の前で起きた大落車を避けようと思ってそのままガードレールに乗り上げる形で落車したのがレムコ・エヴェネプール(ドゥクーニンク・クイックステップ)。
暫く動けないまま、ガードレールにぶつけたと思しき左腕をガチガチにテーピングしたままなんとか走り出したエヴェネプール。第16ステージで総合19位にまで転落しつつも最後まで走り切って見せると力強く宣言してくれた彼にとって、これは実に悔しいアクシデントである。
波乱もあり、2分を切るところまで縮まっていた先頭集団とメイン集団とのタイム差も再び開き始める。
それでも最後の1級山岳セーガ・ディ・アーラ(登坂距離11.2km、平均勾配9.8%)の厳しい登りに突入すると、先頭集団からまずはモスコンとブシャールが遅れ、加速するマーティンに食らいつくペドレロもやがて突き放されると、マーティンの独走が始まる。
1分10秒~20秒差でこれを追いかけるメイン集団の先頭はジョナタン・カストロビエホ(イネオス・グレナディアーズ)が牽引。メイン集団からは総合9位トビアス・フォス(ユンボ・ヴィスマ)、総合7位ロマン・バルデ(チームDSM)、総合4位アレクサンドル・ウラソフ(アスタナ・プレミアテック)、そして昨年のブエルタに続く総合表彰台に手をかけていた総合3位ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・NIPPO)までもが遅れていく。
そんなハイ・ペースを刻んでいるはずのメイン集団に対し、先頭を独りで走り続けるダニエル・マーティンは1分10秒程度のタイム差を一切縮めることなく厳しい登りの九十九折を駆け上がっていく。
今にして思えば、もしかしたらイネオスは、すでにベルナルのコンディションが良くないことに気が付いており、先頭を牽くカストロビエホもあまりペースを上げ過ぎないようにしていたのかもしれない——その割には、随分集団の数を絞り込んでいたけれども。
いずれにしても、最初に仕掛けたのはライバルの方だった。残り5㎞を切った直後、第1週の最初の山岳系ステージでいきなり遅れ、総合争いから脱落したかのように思われていたジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)が勢いよくアタック。すでに10分以上遅れている彼の攻撃を、イネオスは一旦、見送る。
だが、続いてメイン集団から総合5位サイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ)がアタックすると、さすがにベルナルも反応せざるを得なかった。そして総合8位にしてベルナルの忠実なるアシストであるダニエル・マルティネス(イネオス・グレナディアーズ)もここに随伴し、ここまで驚異の安定感を保ち続けていた総合2位ダミアーノ・カルーゾ(バーレーン・ヴィクトリアス)も引き離される。
あっという間に先行したアルメイダに追い付いたイェーツ&ベルナル&マルティネス。アルメイダも粘りを見せて再加速。再びギャップを開くが、イェーツもダンシングで加速しこれを追いかけて再合流。
そんな攻防戦が後方で繰り広げられている間に、残り3㎞ゲートを潜り抜ける先頭のダニエル・マーティン。タイム差は50秒。きわどい。
このマーティンを追って単独2番手で走っていたペドレロのもとに、イェーツたちが追いつく。と、同時に、なんとここでベルナルが離れる!
当然マルティネスはこれを助けるべくペースを落とす。そして加速するイェーツとアルメイダ。
残り2㎞。ダニエル・マーティンとイェーツ&アルメイダのタイム差は30秒弱。そしてベルナルはそこからさらに40秒後方。マルティネスがベルナルを鼓舞する。
急勾配区間でダンシングを延々と続けアルメイダを突き放そうとするイェーツ。しかしアルメイダは粘り、その後輪にしがみつき続ける。
そして残り1㎞。ダニエル・マーティンは後続に200mの差をつけてなおも先行。タイム差もまだ30秒残っている。
ここでアルメイダが加速。緩斜面になったことで、オールラウンダーらしいシッティングでの高出力加速によって、一気にサイモン・イェーツを突き放す。
昨年15日間にわたりマリア・ローザを着用し、最終的にも総合4位で終わったアルメイダ。
今年はレムコ・エヴェネプールと共に出場し、エースナンバーも彼に明け渡したものの、あくまでも彼はアンダードッグ。実質的なエースはアルメイダのはず、だった。
しかし序盤の第4ステージでいきなり遅れる姿を見せてしまったことで立場は逆転。第11ステージでエヴェネプールに急ブレーキがかかったときもそのアシストのために足を止めることを余儀なくされ、複雑な思いを抱かざるを得なかった。
しかしそんな彼が今、再びチャンスを掴むべきときが来た。エヴェネプールがさらにタイムを失い、立場は再び逆転。過酷な第16ステージを終え、総合TOP10に返り咲いたアルメイダは、今、無敵とすら思えたベルナルを突き放し、サイモン・イェーツすらも突き放し、たった一人で勝利に近づく走りを見せていた。
しかしそれでも、彼には届かなかった。
ダニエル・マーティン。イル・ロンバルディアとリエージュ~バストーニュ~リエージュを制し、グランツールでも安定してTOP10内に何度も入る男。それでいて、常にその所属チームを転々としつつ、アシスト不在の中での孤独な戦いを強いられてきた男。
それはアイルランド人という、未だにプロトンの中でのマイノリティであるがゆえか。しかしそんな彼も、シェイマス・エリオット、サム・ベネットに続く、アイルランド人としては史上3人目となる「全グランツール勝利経験者」となった。
プロ14年目。それでもその表情は常に新鮮な驚きと初々しさに満ちていた。
アルメイダはマーティンから遅れること13秒。ライバルたちから大きくタイムを奪い、総合8位に浮上した。
イェーツもベルナルからタイムを奪い取る。それでもベルナルも、マルティネスの献身の甲斐もあってその傷口を最小限に抑えることに成功した。
総合2位カルーゾに突き放されることがなかったことも幸いし、これまでの貯金と合わせ、まだ総合に余裕はありそう。
チッコーネは落車という不運に見舞われ、総合10位に転落。
グランツールライダーとして覚醒を迎えた今大会。なんとかこのTOP10は維持したい。
総合表彰台はほぼ固まった様子か? しかし、まだまだこのジロは何が起こるか、まったく予想ができない。
とりあえず第18ステージは今大会最後の平坦ステージ。総合勢にとっては一旦、休息のチャンスとなりそうだ。
かといってスプリントで決まるかどうかはまったく読めない。ここ2年の最終週平坦ステージは逃げ切りが決まることが続いており、また第18ステージは平坦ステージとは名ばかりで、フィニッシュ前数キロの位置に小さな登りが用意されている。
コース的にはサガンが2勝目を得るチャンスもありそうだが、逃げ切りももちろんありうる、そんなステージだ。
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