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「蒼穹の昴」の時代背景と物語

雪組公演「蒼穹の昴」が楽しみな人も、ちょっぴり不安って人も、こんにちは!
元々大好きだった原作が、これまた大好きな雪組で上演されることが楽しみで仕方ない私。
これから原作読むよって方や、途中で挫折してしまったよって方や、ざっくり時代背景とかを知りたいよって方に向けて、つらつら書いていきたいと思います。
どうしてもネタバレはありますので、真っ新で観劇したい方は回れ右!ただ、結末や重要な所のネタバレはしないよう気をつけたつもりです!
原作未読の方へ向けても、舞台観る前の予習として…そして観た後の考察に。このへんの知識入れとくと観やすそう…と思った所にしぼって、史実と物語を織り交ぜてお話ししますね。
長くなると思いますが、良かったらお付き合いください。

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「蒼穹の昴」とは?

「蒼穹」とは青い大空のこと。
「昴」というのは星の名前です。富と力の星。
この「世界を統べる昴の星」が付いていたと言われているのは、嬴政(キングダムで吉沢亮さんが演じていた中国を初めて統一した始皇帝)や、清が最も栄えた時の皇帝・乾隆帝(西太后の義理のひいおじいちゃん)です。二人とも言うなれば中華の覇者。

さぁ、時は清朝末期。激動の時代。変わりゆく時代。
蒼穹に昴が輝くことなんて、あるのでしょうか。
星に定められし運命を、自らの力で強く切り拓いていく。泥くさくも魅力的な登場人物たちが必死で生き、野望を抱き、助け合い、対立し、絶望し、それでも熱く、愛と希望を持ち、信じ続ける…そんな物語です。

原作を読むコツ

とにかく登場人物が多いし、一人の人にいくつも名前があるし、漢字も多い上に読み方も難しい!これは誰だったっけ…?どういう意味…?となっている間に読む気が失せてくるのでは…と思います。でも!!!難しいところは飛ばしても案外問題なかったりします。ひとまず適当でおっけい!読み進めていくうちに、なんとなく頭に入ってくるはず!
会話部分とかはテンポ良く楽しく読めると思うので、ヅカオタが得意な「必殺!タカラジェンヌに置き換え!」で読んでみてね。脳内でタカラジェンヌたちを喋らせながら、読めそうなところだけ拾い読みするだけでも、結構物語は把握できると思います。
…もちろん言葉を調べながら読んだら、より一層作品世界の理解が深まります。でもほら、ヅカオタは忙しいし!適当、適当!くらいの軽い気持ちで読んでみてください。

「蒼穹の昴」中国史

中国という国

まず、中国は「多民族国家」です。ただし9割が漢民族。ほとんどです。
9割の漢民族と55の少数民族で成り立っていて、言葉が違ったり見た目が違ったり文化が違ったりするので、争いが起きます。もちろんそれだけが理由ではないけどね!
で、中国を統一して王朝を開くには「天命」が必要です。
天(神様)に選ばれし者が、「中華を統一せよ」と命令されるわけ。
「天命を授かったのは俺だ!新しい王朝を作るぜ!今日から王だ!」
みたいな感じで前の王朝を倒して、自分の王朝を開きます。最初の統一王朝を作ったのは、キングダムでも有名になった嬴政です。
この天命を「蒼穹の昴」では「龍玉(ロンユイ)」という宝石で表しています。天命がない者が龍玉に触ると爆発して死んでしまうそうです。大変。

そういうわけなので、王朝(国の名前)はコロコロ変わります。
高校生のときにアルプス一万尺のメロディーで覚えた人も多いのでは?
殷 周 東周 春秋戦国 秦 前漢 新 後漢 魏 蜀 呉 西晋 東晋 宋 斉 梁 陳 隋 五胡十六 北魏 東魏 西魏 北斉 北周 隋 唐 五代十国 宋 金 南宋 元 明 清
これこれ。漢民族の中から王になったり、他の少数民族の中から王が出てきて、9割の漢民族を支配したり、色々です。漢民族以外が支配した王朝を征服王朝と言います。チンギス・ハン(モンゴル民族)が建てた元は征服王朝として有名かな!「蒼穹の昴」の舞台は、最後の清王朝です。

儒教という思想

紀元前に孔子という人がまとめた道徳思想で、2000年以上中国の根幹にあり続けているものです。文秀(彩風咲奈)順桂(和希そら)が受けた、めちゃくちゃ難しくて倍率高くて天才しか合格できない科挙の試験は、この儒教の書物「四書五経」などの暗記が必須です。科挙に合格すると、役人になる道が開けます。身分に関係なく受験できるので、平等なのですが…そもそもそんな勉強ができるのは、裕福な家庭だけです。書物や新聞が自在に読めて、立派な手紙が書けるだけで他人から尊敬されるような時代だからね。
…ということなので、「蒼穹の昴」の物語の根底にもしっかり、儒教の思想が流れています。この教え、調べてみるとわかりにくくて難しいことが沢山出てくるんですが…簡単に言うと…「家族の絆をめちゃくちゃ大事にしようね!」ってことです!(研究者の方とかに怒られそうなまとめ…笑)
なので、物語の中で、「え、そんなに?」ってくらい血のつながりや家族道徳を大事にしていたり、それができずに病んでいる人がいたりするのです。
そんなわけなので、久しぶりの登場、貧乏な雪組!ですが、「蒼穹の昴」でいう貧乏は一味違って、深い。続編の「中原の虹」2巻から、印象的な春児(朝美絢)の独白を抜粋させて頂きます。

「貧乏とは、銭金がなくてひもじい思いをすることではなかった。おのれひとり生きんがために、母や兄や妹を曠野(あれの)に捨てることが貧乏だった。」

清という国

清は満州民族が建てた国です。…おや?って思った人さすが!そう、少数民族の満州民族が漢民族を支配した、征服王朝なのです!
清は満州民族が建てた征服王朝。この背景知識、結構大事!
1616年にアイシンギョロ・ヌルハチが建てた清は1912年まで続きます。征服王朝なのに300年続いたのはかなりすごい!国のトップだけ満州民族で、国民のほとんどが漢民族。文字も文化も全然違います。これが何故300年も続いたかというと、トップになった満州民族たちが、漢民族の文化や文字を勉強したからです。自分たちが漢人化して仲良くすることで支配したんですね。ただし、これは表面的にだけ。辮髪令を出して、漢人たちに満州人の髪型をするよう強制してもいるので完全に漢人化したわけではありません。むしろ満州人としての誇りを持ち続けています。

西太后が政治をした時代

清は康熙帝(4代) ・雍正帝(5代)・乾隆帝(6代)の頃、最も栄えます。
「蒼穹の昴」の原作で出てくるのは乾隆帝。西太后(一樹千尋)にとっては義理のひいおじいちゃま。生きているときに天命を持つものの印である「龍玉」を隠してしまいます。だから、龍玉を持っていない西太后や光緒帝が政治をして清を導こうとしても無理だ、という理屈です。幽霊として出てきて、西太后を導いたり、いらんこと言ったり、するよ。
満州民族の西太后は、咸豊帝(9代)の側室になります。夫の咸豊帝が30歳で亡くなったあと、西太后の息子・同治帝(10代)も19歳で亡くなります。つまりこのあたりからずっと西太后が政治の実権を握ってます。エリザベートのゾフィー的な感じ。11代皇帝になったのはわずか3歳の甥っ子・光緒帝(縣千)。もちろんお飾り皇帝なので、引き続き、西太后が政治をし続けます。

西太后(一樹千尋)が政治をした19世紀の中国って激動の時代なわけです。ほぼ鎖国のような状態だった、眠れる獅子=清に、外国の刃が忍び寄る。
自由平等友愛を旗印に雄々しくも立ち上がった!(byオスカル)って革命を成し遂げたヨーロッパ各国がどんどん強くなっていて、アメリカも出てくるわ、日本も明治維新完了して強くなってるわ、再び世界が交わり、争いまくっていく時代。「蒼穹の昴」を読む・観る上で知っておいたら深まりそうな事件や戦争をメモしつつ、少し物語にも触れておきます。

歴史的事件や戦争、そして、その時の「蒼穹の昴」登場人物たち。

1840年 アヘン戦争(イギリスVS清)

はい、雪組ファンのみなさん!お久しぶりのアヘンですよ~~~!
この頃まだ西太后は幼児なので、「蒼穹の昴」にはあまり出てこないけど、清にとってかなり重要な負の戦争です。
一番乗りで革命して近代化したイギリスは、機械を作って、物を大量生産します。イギリス国内だけだと儲けにならんので、外国に売りに行く。イギリスの植民地であるインドでアヘンを作らせて、それを清に売りつけます。(教科書には「清の茶をイギリスに、イギリスの綿製品をインドに、インドのアヘンを清に運ぶ三角貿易」みたいに書かれていますね。)
当然、清ではアヘン中毒者が続出!もっとアヘンが欲しい清のみなさんはありったけの銀を渡してアヘンをゲットします。銀はなくなるわ、アヘン中毒でわけわからなくなった人は増えるわで最悪。役人(林則徐)がこれを取り締まり、「もう清はアヘン買いません!」って言います。で、イギリスはこれに「いや、買えよ?」ってブチぎれて軍隊おくるわけ。アヘン戦争のはじまりはじまり。
清は負けて南京条約という不平等条約を結ばされます。これを見たアメリカとフランスも「イギリスくんいいなぁ、俺とも条約結んでよ。」と迫り、清はそれぞれと不平等条約を結んでしまいます。

1851年 太平天国の乱(国内反乱)

西太后の夫・咸豊帝の時に起こります。中身はキリスト教徒の反乱です。
日本でもそうでしたが、「人はみな平等」って教えは、皇帝や将軍が治める国=平等じゃない国とは相性が悪いのです。
スローガンは「滅満興漢」つまり、頼りにならない満州民族の国・清を倒せ、俺たち漢民族の国を建てようぜ!です。この反乱をしずめたのが、曽国藩と李鴻章(凪七瑠海)が率いた清の軍隊、と、アメリカ人とイギリス人が率いる軍隊でした。なぜ米英の軍隊が来たのか?「清が困ってるって?太平天国いっしょにつぶそう!」とやってきたのです。優しさではないよねぇ。思い通りに条約結んでくれる弱い清のままでいてくれた方が、外国としてはメリットが大きいのです。誰が敵で誰が味方なのかもうわかりません。
李鴻章(凪七瑠海)たちは、富国強兵を目指して、西洋の学問や技術を導入しようと頑張りはじめます。(洋務運動)

1856年 アロー戦争(イギリスとフランスVS清)

この戦争も、西太后の夫・咸豊帝の時。
アロー号事件ってのを口実にイギリスがフランスを誘って清に攻め込みます。
…いや、勝てるわけないね?もちろん負けます。
更なる不平等条約を結ばせられ、ついでにアヘン貿易も公認させられます。

1884年 清仏戦争(フランスVS清)

西太后の甥・光緒帝(縣千)が13歳の時。
ヴェトナムの取り合いで戦争します。負けます。

1887年 文秀(彩風咲奈)と春児(朝美絢)が北京へ

「蒼穹の昴」主人公の2人が都に上ったのはこの時期です。予言者・白太太(京三紗)のお告げを信じ未来へ歩き出します。
このとき文秀(彩風咲奈)は20歳くらい。飲んだくれのろくでなし次男として期待されていなかったのですが、なんと、科挙の最終試験に首席合格します。科挙同期の順桂(和希そら)王逸(一禾あお)と共に楊喜楨(夏美よう)の下で役人として働き始めます。持ち前の聡明さや優しさで、どんどん出世していきます。
そして、玲玲(朝月希和)はひとりぼっち。文秀が報告などのために一旦故郷に帰ったときにはもう、兄の春児は宦官になり出て行っていたからです。文秀は玲玲を助け、共に都へ連れていきます。
春児(朝美絢)は10歳くらい。自ら宦官となり、ひとりで都に登ります。偶然か、必然か、出会った安徳海(天月翼)に連れられて老公胡同へ。そこは、退役宦官たちの住処でした。都から追放された訳あり宦官たちから、宦官として生きる術を習います。出世するための近道はやはり京劇役者として西太后の目に留まること。西太后(一樹千尋)は京劇を観るのが大好きだからです。かつて西太后の寵愛を受けた花形京劇役者である黒牡丹(眞ノ宮るい)から、芸の全てを授けられ、春児は華々しく出世街道を進んでいくのでした。

1894年 日清戦争(日本VSフランス)

西太后の甥・光緒帝(縣千)が23歳の時。自ら政治をしたいと思いながらも、西太后がいる以上そうはならない歯痒さと、国を憂う気持ち、母のような存在である西太后への思いとの狭間で悩み、心は揺れ動きます。光緒帝には、蘭琴(聖海由侑)という可愛い宦官が仕えています。春児(朝美絢)とは義兄弟…まぁ、幼馴染みたいなものでしょうか、ちょっと違うけど。
文秀(彩風咲奈)は27歳です。光緒帝や仲間と共に、法を変えるための活動をしています。愛する我が国を、民を、良い方向に導くため、努力を惜しまない。昔の飲んだくれろくでなし文秀の面影はもうどこにもありません。聡明で強いリーダーです。…そうじゃない、エ?て場面も実はあるんですけど…舞台でやるかなぁ…とにかく人間らしい人です。
春児(朝美絢)は17歳。西太后が最も信頼する宦官として、1番近くで仕えるようになっています。優しくまっすぐで聡明な人柄ゆえ、誰からも愛されています。味方であるはずの栄禄(悠真倫)李蓮英(透真かずき)が企てる悪事にも、変法派の動きにも目を光らせ、とにかく西太后を守ることだけを考えて働いています。

朝鮮で甲午農民戦争が起こります。清は「助けて」と朝鮮に言われたので、この戦争をしずめるために出兵します。日本は呼ばれていないけど「よし、しずめてあげよう」と出兵します。
ところが甲午農民戦争が終わっても、両者帰りません。朝鮮を自分のものにしたいからです。李鴻章(凪七瑠海)は「勝ち目がないのでやめておこう」と主張したんだけど、聞き入れてもらえず開戦。淮軍(李鴻章が作り上げた義勇軍)を率いた李鴻章(凪七瑠海)袁世凱(真那春人)王逸(一禾あお)が頑張ったけれど、予想通り負けます。
李鴻章(凪七瑠海)伊藤博文(汝鳥伶)は戦争もう終わりの約束=講和条約を結びます。
この敗戦時のある状況が功をなし、清国内で袁世凱(真那春人)が力を持ち始めます。

1898年 戊戌の変法・戊戌の政変

はい、「蒼穹の昴」のメインです。日本の真似をしよう大作戦。
日本の幕末を思い出してください。薩摩や長州が江戸幕府を倒して、近代国家を作ろうとしましたね?憲法を作って、国会を開いて、将軍なんかが独裁をするんじゃなくて、会議を開いてみんなで色々決めていこうよ!って。中央集権化、富国強兵、殖産興業からなる明治維新と自由民権運動。これを真似しようとしたわけです。
文秀(彩風咲奈)順桂(和希そら)康有為(奏乃はると)譚嗣同(諏訪さき)林旭(紀城ゆりや)劉光第(華世京)たちは、光緒帝(縣千)を担ぎ上げ、まずは法を変えよう!戊戌の変法だ!と立ち上がりました。
今まで水面下で準備してきたことをついに!実行に移します!!!

弱体化する清を狙う外国。
清国内の情報を母国に送るためにやってきている外国人記者たち。岡圭之介(久城あす)トーマス・バートン(壮海はるま)、そして柴五郎(叶ゆうり)の心の中には、長年取材してきた清国の人々への情が揺れ動きます。
そして、謎の女・ミセスチャン(夢白あや)や、鎮国公載沢(咲城けい)はどう関わる?

さぁ、どうなるのでしょうか!?
他にも事件が沢山起きます。
激動の時代で、文秀は春児は玲玲は…何を信じて、何を守り、どう生きていこうとするのでしょうか。
続きは雪組公演「蒼穹の昴」の舞台で。
来たる10月1日…どうか、幕よ開け!!!

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