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【エッセイ】ロックフェスと芋煮

私が住む宮城県では、毎年ゴールデンウィークに「アラバキロックフェス」というイベントがある。
会場は、山あいの、ダム湖畔公園。2日連続でステージが繰り広げられる。例年のべ5万人ほどが、来場するビッグイベントだ。

今朝、今年の「アラバキ」中止をニュースで知った。
昨年に続いて2年連続だ。
主催者や行政もコロナ禍での開催に向けて力を尽くしたのが伝わり、無念さを感じる。
その一方で、全国各地から多くの人が集まり、不安になる地元の人たち感情もわかる。
チケットを取っていない私が言うのも変だけど、精一杯
出した結論なんだと思う。

中止の報道を聞いていると、以前、アラバキに2回ほど「参戦」した時のことを思い出した。
その時は、生前の忌野清志郎のステージを見られたこと、東京スカパラダイスオーケストラやthe pillowsといった好きなアーチストに出会えたことなど、かけがえのない体験をした。

だが、一番思い出深いのは、山形の「芋煮カレー」との出会いだったと言える。
その年は、2日間、女子4人で参加した。キャンプ場があるので、テント泊だった。

4月末の宮城は、昼間は晴れて気温が上がり薄着で大丈夫だが、夜は冷えこみ上着が必須だ。ましてや水辺かつ山あいにあるキャンプサイトは、気温がぐっと下がる。

なので、夕食は、温かい汁物メインと決めていて、宮城風「芋煮」を作った。鍋いっぱいに豚肉と、里芋や大根や人参、ゴボウ、ネギといった野菜類を入れ、柔らかくなったらといた味噌を入れる。いわゆる「豚汁」だ。

大きな鍋で、具も多かったので大量に出来上がった。4人でお腹いっぱいになるくらい食べても、鍋に半分以上残っている。

そこで私たちは、隣で食べていた同世代っぽい女子3人組に声をかけた。「よかったらどうぞ」と豚汁とも言える芋煮を小鍋に取って持っていった。

すると、彼女たちがお礼にくれたのは、牛肉と里芋がメインで醤油味の山形風の「芋煮」だった。


そこで、芋煮の話を少し。
東北では、秋になると「芋煮会」という名のレクリエーションがある。
河原で「芋煮」を作って食べるアウトドアなイベントで、サークルや会社、町内会などのグループで行われることが多い。

中でも山形県と宮城県では盛んだ。
ややこしいのが「芋煮」の定義が2つの県で異なっていることだ。
山形県で「芋煮」というと、牛肉と里芋がメインの具で、味はあまじょっぱい醤油味。宮城県では、豚肉と里芋と根菜類が入った味噌味を指す。
他の地域の人にイメージを伝えるとすると、宮城風芋煮は、仙台味噌がきいた「豚汁」、山形風芋煮は「すき焼き」のようにあまじょっぱい醤油味といったイメージといったところだろうか。(個人の感想です)


話をアラバキのキャンプに戻す。

実は山形の人が作った「芋煮」を食べるのは、初めてだった。
食べてみると、牛肉の味が溶け込んだ汁の味が里芋に染み込み、とても美味しい。上品な味だ。
美味しさの秘密を聞いてみると、味付けに芋煮用の醤油を使い、「初孫」という地酒をかくし味にいれたという。
「うまいたれ」という名前の万能調味料があることを初めて知った。山形の人の芋煮への情熱は素晴らしい!

だがそれだけではない。さらに驚きのリメイクレシピがあった。

ある程度なくなると、山形グループは、残った芋煮にカレールーを入れた。
その時にはお互いにすっかり打ち解けていたので、ご相伴させてもらった。

食べてみると、牛肉の出汁がきいていて、里芋とカレーのとろみの相性が良く、味わい深かった。
お腹一杯なのに、食べ過ぎ飲み過ぎてしまった。

山形の彼女たちも、宮城風芋煮をお代わりしたり、好評だった様子。
「芋煮論争」が起こることはなく、好きなアーチストの話とか音楽の話を沢山して、平和で楽しい夜だった。

アラバキを思い返すと、メインのライブよりも、山形風の芋煮カレーの味を思い出してしまう。


ここ数年は、フェスには行っていなかったが、思い出すとまた行って楽しみたいなと思う。
音楽以外にも、沢山の出会いがあるから。
来年は、開催を信じてチケット取ってみようかな。
コロナの不安なく、心から楽しめる日が来ることが今の願いだ。