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猫が脱走した話

2024年7月14日、真夏日が続き毎日35度近く気温が上がる日々の、ほんのひと時の梅雨模様。この日は比較的気温も上がらず、多少過ごしやすい日だった。
午前中は好きな事をしてゆっくり過ごし、午後から私と主人は出かける予定で準備をしていた。
出掛ける前にはいつも、猫の存在を確認する。
誤って閉じ込めていたりしたら大変だ。
今年で13歳になる「メラニー」は気の強い女の子。いまだに家の中を走り飛び回り、おもちゃにも全力で遊ぶ。
家の中にもお気に入りの場所がいくつもあって、布団の中や押し入れの中に潜り込んで出てこない事も多い。

メラニーの名前を呼ぶが出てこない。
大好きなおやつの袋をカサカサさせる。普段ならそれで出てくるが、この日は一向に出てくる気配がない。ぐっすり寝てしまっているのだろうか?
メラニーの名前を呼び、居そうな場所をくまなく探す。
押し入れに入っている場合は奥まで手を伸ばして、フワフワの毛を探す。
居ない。
「おかしいな~メラニーどこにもいないよ?」

すると主人が恐ろしい事を口にした。

「ベランダの窓、開けっぱなしにしてたんだよね」

……え????

え?なんでそんな大事な話、先に言わない?
気が付いた時点でなんで言わない?探すよりもまず窓じゃん?
目の前が真っ暗になった。
うちのベランダに面する窓は、網戸が壊れていて、窓は絶対に開け放たないよう約束していた。
主人は窓を開け放ったまま、午前中外出し、何食わぬ顔で帰ってきた後その報告も無しに、今まで一緒に猫を探していた。

信じられないくらい体中の血液が沸騰するような感覚になった。
(今でも当時の事を思い出すと全身が震える)
うちはマンション住まいで、4階。
ベランダは隣の家との間に仕切りがあり、その下は10cm程の隙間がある。
成猫でも充分通り抜けられる隙間だ。
小さく、優しくメラニーの名前を呼ぶ。
もちろん出てくる気配も返事もない。

恐る恐る、ベランダから下をのぞき込む。
マンションの下は小さな庭になっており、駐輪場の屋根も見える。
コンクリートではなく、芝生が敷いてあるため、もし万が一落下したとしても、運が良ければ…
しかし猫の姿は見えない。
もしかしたら怪我をして、隅の方でうずくまってるかもしれない。
私は急いで下の庭に降りて行ったが、メラニーの姿を確認することは出来なかった。このままどこかに行ってしまったら、怪我もしてるだろうし、外に出た事のなかった子なので生きていくことは出来ない。
少し離れれば大きな国道もあるし、もう、このままでは二度と会えなくなるだろう。

ダメダメダメダメダメ
絶対にダメ!こんな別れは一番ダメ!!!!!
一番最悪の、絶対にしてはいけない別れ!!!

病気や老衰、それでも別れは辛いものだ。(現に4月頭に猫を病気で亡くしている)でも、最後まで看取ってあげられるし、その後の供養も出来る。
しかし脱走して行方が知れず、最後も分からない状態で日々を過ごす事の精神的辛さと罪悪感は、計り知れない。
猫を迎えた時から、これだけは絶対にしてはいけないと、悪夢に見る程気を付けていた事なのに、現実になってしまった。
腰が抜けて、崩れ落ちた。初めての事だ。

パニックになった頭を落ち着けようとしても無理だが、まだ自分にできる事はあると、過呼吸になりかけていた私は、呼吸を整えて落ち着かせる。
すると主人が「俺自転車でメラニーを探してくる!」などと馬鹿な事を言い出した。
闇雲に走り回ったところで見つけられるわけがないし、見つけた所で連れて帰って来られるはずも無し。もっと現実を見て欲しい。
まずはベランダづたいに隣に行った可能性が一番高いので、お隣に声をかけてくるように主人には頼んだ。
するとお隣の佐藤さん(仮名)がベランダに出て、何やら声をかけている。
「猫ちゃん、猫ちゃん…」
えっっっ!!!まさかメラニーがいる?!?!

その直後、「シャーーーーーッッ!!!」という猫の威嚇する声が!
メラニー、隣のベランダに居る!!!!!!
私はベランダ越しに佐藤さんへ
「佐藤さん佐藤さん!!!触っちゃダメです!!!興奮してると思うので!!!(シャーーーッ)私、行きます、そっち行きます!!!」
一気にまくし立てて、許可も取らずお隣へ突撃しました…
(後々考えたら本当に失礼で申し訳なかったです)


エアコンの室外機の下に隠れていた

メラニーは、佐藤さん宅のベランダにある、エアコンの室外機の下の隙間に居ました。かなりの興奮状態で、見るもの全てが敵になり、爪で攻撃してくる状態で、全く触ったりできませんでした。
しかし、落下していなかった事が一番ホッとしたのは事実です…。
でもまだ安心できません。ベランダにいる上、かなりの興奮状態なので、突然走り出してベランダから落下…する可能性もありました。
佐藤さんに事情を説明し、家から脱走してしまった事、興奮すると手が付けられなくなる事、捕獲に協力していただく事などなど…
頭を下げても下げ足りない程ご迷惑をかけてしまう事が予想されました。

私がメラニーに手を出しても、既に私の事が分からない状態になってしまっていて、家では一度もシャーと言われたことが無いのにシャーシャー言われ、爪で攻撃されて流血しました。こりゃあかんと思い、落ち着くまで少し様子を見ようという事に。
ベランダの外側に行かないよう、片方の隙間をふさぎ、室内の窓を開け、上手く部屋に誘導出来ないかと考えました。
部屋側にはメラニーが良く食べているご飯と水を用意し、部屋に入って来たところを、窓を閉めてしまおうという作戦に。
とにかくメラニーはシャーシャーが止まらず、うなり声も上げているので、私たちは一旦自分の家へ。
長期戦が予想されました。
夜になっても出てこないかも知れない。
気が付いたら居なくなってるかも知れない。
あんなに興奮していて、捕まえるのは無理かもしれない…
色々な最悪の事態が頭をよぎりました。
その間に、何か出来ないか、テレビでよく見ていた「ペット探偵」なども検索してみました。
探さなくていい、もういる場所は分ってるんだから、捕獲だけでもプロにお願いしようか、色々考えました。(※この件については後述します)

心配で何も手につかず、2時間程経った頃。
少し様子が見たくなり、佐藤さんに連絡してまた家にあげて頂きました。
佐藤さんもメラニーの様子をチラチラ見て下さっていて、まだまだ出てくる様子が無いとの事。私が近づいてもやっぱりシャーと威嚇していて、これはいよいよプロに任せるしかないのかと思い、また自分の家に戻りました。
すると数分後、佐藤さんから電話があり、どうやら家に入ってご飯を食べているとの事!急いで隣へ向かいます。

部屋に居るのなら、正面から向かうとまた外に出てしまうので、隣の部屋からベランダにまわって、窓を閉めてしまえば家の中にメラニーを閉じ込める事が出来るので、一瞬のスキをついて私が隣の部屋からベランダに出て窓を閉めました!
良かった!!!!!これで落下の危険は無くなった!!!
安心したつかの間、部屋に閉じ込められたメラニーの激怒っぷりは今まで見た事のない程でした💦
あまりにも興奮して怒っているので、逆に体に負荷がかかって死んじゃうのでは?!と思う程。猫の体にも良くないので、早く何とかしなくては。
佐藤さんから用意してもらった籠をかぶせて落ち着かせようとしますが、下手すると隙間から攻撃されて大怪我をすることに。


絶対こうなる(そして流血)

籠の上から厚手の毛布をかぶせて守りつつ、落ち着かせる作戦を取る事にしました。

メラニーの為に用意したご飯皿が邪魔で籠をかぶせる事が出来ず、水をひっくり返して床をビショビショにしたり、ほんっとうに上手く行きません。
なんとか籠に入れたところで、どうやって家まで運ぼうか………
持ってきたペット用ケースに入れられたらいいけど、こんなに興奮している状態の猫を捕まえて入れるなんて不可能です。
すると主人が、持ってきた毛布を籠の隙間から押し込んで、メラニーには少し我慢してもらって籠ごと毛布でくるんで運び出そうと言い出しました。
隣の自宅まで距離にして20m程(部屋の移動含む)。
メラニーの体力の限界もあるので、コレしか無いと思い、圧迫しないようにしっかり押さえ、一気に籠ごと自宅までダッシュで運び出しました。
上手く行って良かった…!!!!!

自宅について、そっとメラニーを籠から出しても、まだ興奮状態は治まりません。この状態があと何時間続くか、もしかしたらもう凶暴なまま、元に戻らないかも知れないという事も覚悟しました…。
佐藤さんには騒動の際汚してしまったところを簡単に掃除させてもらい、大変な事に巻き込んでしまった事へのお詫びをしました。
佐藤さんは「私も昔猫を飼っていたから、大変なのはわかってるから大丈夫」と言って下さいましたが、逆の立場だったら相当な事です。お詫びしてもしきれない…。

でも、メラニーが戻って来てくれて、本当によかった……

朝、一緒に起きて、ご飯をあげて、お気に入りの場所で寝て、ヨシヨシして、遊んで、また夜ご飯をあげて、一緒に寝るんだと思っていた、そんな何でもない日常が、一瞬で無くなってしまったと、絶望した。
無事に、かえってきてくれて、本当に良かった。
メラニーを出してしまったのは私の責任。
怖かっただろう、不安だっただろう、可哀そうな事してしまった。
全部、私の責任。私は飼い主失格です。

暫く放置していると、メラニーも自宅に帰って来た事を実感できたのか、大分落ち着いて、ご飯も食べるようになりました。良かった…

くつろぎ中

一瞬で崩れ去った日常。
絶対にあってはならないと、飼った当初から一番気にかけて居た事が現実になり、今でも思い出すだけで震えます。
(脱走して行方不明、落下、は今までに何度も数えきれないほど夢に見てきて、そのたびに夢で良かったと安堵していた)
私は、決して「自分だけは大丈夫」とは思っていませんでした。
気にしても気にしても、大丈夫なんてことはないと、思っていました。
なぜ主人の部屋の窓を確認しなかったのか。なぜ主人の部屋だからと、まかせっきりにしたのか。私の責任です。

4月に猫を亡くしたばかりなのに、また失ってしまうのかと思ったら生きていけない。今メラニーは無事に戻って来たけど、このショックが大きすぎて正直まだ冷静になれません。もう絶対に窓は開けないで…

【ペット探偵の話】
・猫の居場所はわかってる
・捕獲だけしてほしい
・なるべく早くがいいな(猫の体力的に)
という、要望がハッキリしているので、もしかしたらすぐ来てくれて、サクッと捕獲してくれちゃうのでは?と、薄い期待を持って、検索で一番良く出てくる所に電話してみました。すると、
〇費用は三日分~+α(交通費含む)
〇居場所は分っていても猫が移動する場合があるので捜索費用含む
〇一日8時間捜索
(後なんか細かい事言ってたけど忘れた)
猫の居る場所、マンション4階のベランダなんですよ。
移動します?移動した際もう落下ですよね?それで捜索?移動しなかったら8時間も何やってるんですか????猫とにらめっこ?
それに、猫がいるのお隣なんですよ…隣の家の、敷地内なんですよね。
そういう説明をしても、話が通じてる感じがしなくて、ガッカリしました。
メラニーが無事に帰ってきてくれるのなら、多少金額が高くついても良いと思っていたけど、こちらの話をくみ取ってくれない、自分たちの方針は曲げない姿勢に誠意を感じられず、そのまま切りました。
もう一件、別のペット探偵にも電話しましたが、3回かけても繋がらず。

よくテレビで見る「ペット探偵」捜索ですが、早まって頼まなくて良かったな…。こういうのは状況に寄りけりですね。ちょっと、大分、残念でした。

【余談】
佐藤さんの所でのメラニーの様子を、一瞬動画や写真に撮ろうかよぎりましたが、それがメラニーの最後になったら絶対に嫌だったので、撮りませんでした。あんな状況で、この後どうなるか分からないのにカメラを向けられる人の神経がわかりません。なので私はイラストにしました。
私はジャーナリストにはなれませんね、ならないけど苦笑

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