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花置き人のその後…?(コミックス発売記念SS)

花を編む。それは別に特別なことではなくて、いや、男が花を編んでる時点で誰かへの贈り物ってバレバレなわけだが!それでも喜ぶ姿が見たくて作ってしまうのだから、俺はやっぱり甘いのだろう。

俺の名前は、ロビン・ユーカンテ。自他ともに認める優秀!なロイ殿下の従者だ。そんな俺がこの時期になると花を編んで数年。
毎回匿名で届けているシロツメクサの花冠。

そのためのシロツメクサを前にうんうん唸ってしまう。

「うーん……バレたか?やっぱりバレるよな??いやでも姫さんだしな」
「ロビン?どうしたの?」
「うおわっ!!」

急に声をかけられて俺は変な声をあげてしまう。しかしそんな俺の様子を意に介した様子もなく、俺の主人であるロイ殿下は編みかけの花冠を指さした。

「今年はもうあげたんじゃないの?ルティアの頭にのっていたよ?」
「あーあれは違うんです。姫さんが作ろうとしてたんですけど、あんまりにも不器用なので俺が代わりに作っただけです。だって作る端から花が落ちるんですよ」
「ルティアは意外と不器用だよね」
「淑女教育が遅れたせいですかねー」
「性格もあるかもね」

淑女教育の中には刺繍もある。アレはなかなかに集中のいる作業だ。姫さんの集中力ならできそうだが、この間、ランドール先生の授業の後に手が傷だらけになっていたところを見ると針で刺したのだろう。

淑女の嗜みって大変、とボソリと呟いていたから前途多難である。
刺繍に手を出したのは、ついこの間、アリシア嬢からは素敵な刺繍が入ったハンカチがロイ殿下宛に届いたので、それの影響もあるかもしれない。

身近に淑女の手本になるべき子がいるのは良いことだ。一人で納得しながら頷いていると、ツン、と頬を突っつかれる。

「ロイ様?」
「いや、なんか考えているなあって」
「ああ、この間、姫さんが指を針穴だらけにしてたんでどうしたもんかなと」
「アリシア嬢のハンカチを見てやる気を出したみたいだけどね」
「見本が身近にいるのは良いことです」
「ルティアもそのうちアリシア嬢みたいな淑女になれるかな?」
「無理でしょうね」

キッパリと告げると、ロイ殿下はケラケラと笑う。酷いことを言っている自覚はあるが、こればかりは性格と相性というものがあるのだ。
今のまま健やかに育てばそれは無理というもの。でも今の自由に動き回る姫さんが一番だとも思うから、仕方ないと諦めるしかない。

楚々としたお姫様なんてごまんといるが、自由奔放で、元気いっぱいな姫さんの方が俺は好きだしね。

「あー笑った。ルティアに言ったら拗ねそうだけどね」
「刺繍が上手くできるかできないか、で言ったら練習しかないでしょうけど、楚々としたお姫様になるには元気すぎますからね」
「そうだね。でもその方がいい。悲しい顔よりずっとね」
「そうですね……」
「そうそう。それにその花冠をもらって喜ぶルティアも見たいから、そろそろ名前を教えちゃえば?どうせ一回作って見せたんなら同じでしょう?」
「それはダメっすよ。だってすぐねだられちゃうでしょう?」

ねだられたらいつだって作りたくなる。しかしそこまで俺も暇をしているわけではない。なんせロイ殿下の従者だしな。
ここが、カタージュであればもう少し安心して見ていられるんだけどな。なんともできない状態に、多少の苛立ちはあれど今は姫さんの喜ぶ顔を見るために花を編むことにしよう。

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