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悪役令嬢のお父様はチートすぎる(書籍発売記念SS)

常々思っていたのだけれど、私のお父様はチートすぎやしないだろうか?私があれ欲しい、これ欲しい、と言うとすぐに作ってくれるのだ。
親バカすぎやしないか?と思うこともあるけれど、私一人の力ではどうにもできないのでやっぱりお父様に頼るしかない。

コンソメも、挽肉やみじん切りを作る道具も、果ては固いチーズや肥料、二層式洗濯桶まで!!幅広く、それは幅広く作ってくれている。
もう作れないものはないんじゃないかな?

「お父様に作れないものはあるのでしょうか?」
「うーんどうだろうなあ?」

一緒にお庭でお茶をしていたお父様は私の質問に軽く首を傾げる。だって今まで作れない、と言ったことは一度もないのだ。それならお父様の作れないものとはなんだろう?
あ、でも流石に車とか飛行機とかは素材自体がないから無理なのはわかる。そう言う意味の作れないもの、ではない。

鉄はあるだろうけど、精製する技術はきっと私が前いた世界ほどではない。アレは確か高温で溶かしたりなんだりと色々して、不純物をなくすとか?兎も角、車も飛行機も作り方を知らないので説明するのは無理だ。鉄の乗り物が馬よりも高速で移動したり、空を飛んだりとかこの世界の概念的になさそうだもの。

でもそれ以外の、生活に根付いたものは意外とこちらの世界の物で代用が効く。魔術式を使えば比較的容易なのだ。
私が思いつくものが生活に根付いたものが多いのもあるけどね。

「私、お父様がなんでも作ってくれるのでそのうち怠惰でダメな子になってしまったらどうしましょう?」
「ははははは。もしそうなったら、ずーっとお家にいてもらえるかもなあ。でも姫殿下のお側にいたら怠惰な生活はできないと思うよ?」
「それは、確かに……」

ルティア様はとても活動的だ。どうしてモブ王女になっていたのか不思議なくらい。こんなモブ王女がいるなんて普通はありえないし、シナリオライターは一体何をしていたのだろう?と丸一日かけて問い詰めたい気分になる。

「それにね、アリシア。アリシアが考えてくれるものは元々アリシアが使っていたものなんだろ?」
「私が、というより前世の中でですけど」
「うん。まあ、それは兎も角、使っていたものなら作れるんじゃないかなって思うんだよ」
「私が使っていたから、ですか?」
「そう。アリシアがこんなものがあったの!と言うたびに、なるほどなあと感心する。そして前の世界であったならこちらの世界でも作れるんじゃないかな?とお父様は思うわけだ」
「そうなんですか?」
「そうだよ」

それは贔屓目に見ても親バカすぎるのでは!?私が言ったから作れるって……そんなの、そんなの、なんだかすごく愛されているわ。
いやもちろん愛されているのはわかっている。わかっているけれど、こう面と向かって言われると面映い。

「……私、お父様の娘でよかったです」
「お父様もアリシアが娘でよかったよ」

私が照れ隠しに笑うと、お父様も笑ってくれる。幸せな親子の風景だ。そう見えるだろう。私だってそう思う。でも今は、目の前にいるお母様のご要望を叶えなければいけないのである。

「あなたも、アリシアも二人で世界を作らないでちょうだい?私だって、アリシアの言うその素敵なドレスが欲しいわ」
「いやでもですね、お母様。私、その布の作り方がわからないのです。わからないと、流石のお父様でも作れないと思うのですよ」
「とっても薄い布なんだっけ?」
「そうです透けるぐらい薄い布です。オーガンジーというのですけど、これをいく枚も重ねるか、下にシルクの布を使って重ねるとかすれば素敵だなあとは思うんですよ」
「夏場は幾重にも重ねたドレスは暑いもの……でもその布なら大丈夫だわ!それに今から準備しておけば夏には間に合うと思わない?」

ね、あなた?とお母様がお父様に問いかける。お父様は腕を組んでうーんと唸っているが、薄くて軽いかあ……と呟くと、テーブルの上にある既存の布を手に取り眺め出した。

「これよりもだいぶ薄いんだよね?」
「そうですね薄くて軽いです。それで多少張りもあって……パニエに使っても良さそうですよね。綺麗に広がりそうだし、夏場は涼しいと思います」
「そうかあ……でもあったなら作れるかなあ」
「作れるわよ!あなた、頑張って!!」

語尾にハートマークがつきそうな勢いで、お母様がお父様に強請っている。確かにオーガンジー生地ができたら、ドレスのバリエーションだけでなく、コサージュとかも作れるだろう。ドレスが今よりもっと華やかになるはずだ。あと夏用ドレスが軽くなるのも嬉しい。

「うーん……いくつか試作してみるかなあ」
「そうよその調子よ〜!」
「お父様、私も手伝います!!」

そんな私達の会話から始まった布づくり。今までよりも時間はかかったが、やっぱりお父様は作ってしまった。
きっと今年の夏からこの生地は流行るだろう。それまでに量産できる体制を整えなければいけない。我が領地は私の思いつきと、お父様のチートのおかげでいつでも忙しい領になってしまった。



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