会食恐怖症だったと思う

「だったと思う」なんて曖昧な書き方なのは、ちゃんと病院にかかったわけじゃなく自分で症状から想定しただけのことだから。そして治ったと言い切って良いかも微妙だから。

以前から、食は細い方だった。
嫌いな食べ物も多くて、そして特に好きな食べ物というものも無く、食にあまり興味が無いまま生活していた。
それでも普通に友人や会社の上司なんかと飲み会には行ってたし、量が少ないとは言えど一人前の8割9割くらいは食べていた。

状況が変わったのはコロナ禍になってからだった。
外食する機会が急に減り、家族との食事も取り箸を使ったり一人前ずつ分けたりと感染対策に気を使うようになった。
その頃から、私の中で食事は「神経を使う億劫な作業」になっていった。

明確に異常を認識したのは友人の結婚式披露宴で。
アクリル板で仕切られた丸テーブルに運ばれてきた前菜のジュレを口に入れた瞬間、「お腹いっぱい」という気持ちになってジュレが喉を通らなかった。
実際には直前までお腹が鳴るくらい空腹だったのに、口に入れて何度か咀嚼するも飲み込むことができず、口を拭くふりをしてティッシュに出していた。
液体で流し込もうと口に含んだウーロン茶も結局出してしまった。
同じテーブルの友人達はもう次の料理を食べているのに私だけずっと一品目と格闘して、結局食べられず申し訳ない気分になりながら下げてもらった。
その後の料理も全部、一口とも言えないサイズをかじって結局飲み込めずほぼ手つかずの料理を下げてもらうのを繰り返した。
友人達は心配そうな顔でこちらを見ながらも何も言わなかったのでそれは助かった。

家に帰ると当然お腹は減っていて、スナック菓子をぱくついたし夜ご飯もしっかり食べた。
家だと食べられるから胃腸の問題じゃないんだな、とそこで思って、慣れないホテルの会場と料理に緊張して食べれなかっただけかなとその時は思った。

でもその後、友人と食べに行ったランチでもまた一口も食べられなかった。
帰りにお店の人に「お口に合いませんでしたか?」と聞かれて「すみません、お腹いっぱいで……」と謝るしかできず申し訳なかった。
家族と食べに行ったよく行くファミレスでも、流石に少しは食べれたけど途中でまた気持ち悪くなって半分ほど残してしまった。
いつもだったら残しても家族が食べてくれるけど、その時は家族間と言えどまわし食べは感染するといけないからということで残したまま帰った。そのことがまた店員さんに申し訳なかった。

そんなことが続いて、「なぜだかよくわからないけど、外食すると気持ち悪くなる」ということを認識してからは外食しないようになった。
舞台遠征で外食せざるを得ないときはできるだけ一人でも入りやすく、また量を調整しやすいファーストフード店に入るようにしていた。それでもたまに食べれないことがあって、その時は袋をもらって持ち帰るかそのまま捨てるかしていた。

そしてある日、「会食恐怖症」という言葉を知った。
自分のこの症状が名前がつくほどメジャーなもので、かつ身体の異常じゃないのがわかってまずホッとした。
そして克服するには「慣れること」が必要だと見て、少しずつリハビリを始めた。

最初はファーストフード店にひとりで行くとこから始めて、何時間かかってもいいから完食する成功体験を積んだ。
会食恐怖症の人の中には手の震えとかの症状の人も居るみたいだけど、私は気持ち悪さとたまに腹痛だったので、常にトイレの位置を把握して、手元にティッシュとビニール袋を置いて、いつでも吐けるようにしていた。
いつ吐いてもいいし、食べられなかったら持ち帰ったり捨てたりしてもいい。そう思うと食べすすめることができた。

ファーストフードから、今度はそれなりに量のあるフードコートでまた何時間も格闘するのを繰り返し、友達とカフェでのお茶から始め、少しずつ成功体験を積んで家族や仲の良い友人となら大抵のお店でもちゃんと食べられるようになった。
成功体験を積む以外にも、食べられなかったときに残すのを気にしないようにした。
今まではお腹が空いているのに残してしまう申し訳無さや勿体なさに心を痛めていたのを、「全部会食恐怖症なだけだから」と言い聞かせて、気持ち悪くなったらすぐ食べるのをやめるようにした。
「いつでも残していいんだ」という心持ちでいると不思議と残さず食べることができた。
そしてもう一つ、常にビニール袋だけは持ち歩いて、「いつでも吐いちゃえばいい」という考えも持っていた。

劇的に改善したのは、一人暮らしを始めてからだった。
自炊はしていたけどやっぱりめんどくさい日もあって、実家にいたときより外食の機会が増えた。そして単純に慣れた。
あと、実家では自分が感染したら家族全員に迷惑がかかるので他人との食事のときにはかなり気を使っていたんだけど、一人暮らしなら自分が感染して自分が動けなくなるだけなのでそんなに気を使わなくなって、それも良かったんだと思う。

また別のエントリで書こうと思ってるけどマッチングアプリを始めて、そこで出会った完全初対面の人ともご飯できるようになったからほぼ治ったと思っている(それでも残すことはあるけど)
なんの医学的根拠もないただの体験談だけど、悩んでる人の参考になれたら良いな。

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