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ひとりを愛する者の夜(992字)

私はひとりを心地よく思うことが多い。特に夜は。
仲間とわいわい盛り上がる夜も一興だが、結局は自分の巣の中でただ音楽を聴いたりコントを観たり絵を描いたりしている夜が私の基盤である。

最近は、1年半ぶりに油絵を描いている。
美術部を引退し、もうめいっぱい描ききったと思っていたのも束の間、引退時のまま仕舞っていた絵の具セットを見て居ても立っても居られなくなった。また意味もなく絵の具を練りたい、自分のアイデンティティを思い出したい、と筆を取り、夢中でダリアを描いている。

まだ加筆したい

高校で初めて描いた油絵は”輪にした指の隙間から覗いたサンカヨウ”だった。
使い慣れない硬い絵の具と鼻にツンとくるオイルの匂い、初めて使った豚毛の筆。その時のことも思い出して、花を描くことにした。

いざ描き始めれば、あの頃と今とでは締め切りに追われていないという程度の違いしかなかった。周りに部員がいなくなっても、作品についてアドバイスをもらうことがなくなっても、とにかく描いているときだけは、筆をああでもないこうでもないと動かす自分しかいないことは同じだった。
ただ、あの時あんなに速く乾けと焦った絵の具が意外とすぐ乾く。
変わっているのは道具や空間ではなく、いつだって私の方である。

穏やかな夜だ。プレイリストから流れ続ける好きな歌と共に、少しずつ情報量が増す画面。さてどんなふうにしていこうか。今はこの作品の全部を私が握っている。

尚も創作意欲が収まらない私は、並行してアクリルガッシュもいじり始めた。あのラーメンズ公演「椿」の青緑と赤、舛花色とかターコイズブルーみたいな、紅赤とかルビーレッドみたいな…あの印象的な組み合わせ。あの色をベターっとキャンバスに塗ってみたくて、時間電話をモチーフに描き始めた。

やはりムラが目立つ

昔からアクリル系の絵具には苦手意識があったが、久しぶりに触ってもやっぱり難しい。すぐ乾いて固まっちゃうし、水分量間違えるとムラだらけになるし。それに、同じ色を一から作り直すのって結構大変。でもこの模索もなかなか良い。この質感を楽しめるようになったのには、嫌いだったピーマンの苦味が美味しく思えたときのような喜びがある。

夜と絵具と時の流れとは、適当に曖昧にやんわりと流れて色を成す。この文章もまた、取り留めもないままに終わっていく。
それを一息ついて味わえるぐらいの余裕を持っていたいといつも思う。

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